竜王様と呪われた姫
「わたくしを殺してください」
ネックレスを外し、亜人の少女に手渡す。
短いが、首を絞めるには十分な長さがある。
「さあ、お願いします」
「んー……理由があるんだろうが、いきなりそう言われてもなぁ」
小さな手でネックレスを握るが、困惑しているようだ。
焦りすぎたと、一つ息を吐き出す。
「すみません。急ぎすぎましたね。
わたくしは、魔王を封じるためにやってきた勇者様の仲間です。
そして、王国の姫でもあります。あの魔王を封じるには、わたくしの力が必要なのです」
「はぁ……うん? それじゃあ、おかしくないか?」
「そうですね……ですが、わたくしが生きていてもダメなのです」
戸惑う少女に、自分の境遇を少しずつ伝える。
自分が、王族に生まれる異世界と繋がる能力を持つこと。
その力で、魔王を封印する力を持った勇者を召喚したこと。
勇者と、旅の仲間たちと魔王を倒すために様々な困難を乗り越えたこと。
ついにこの魔王の城へとたどり着いたこと、駆け足で、されど隠すことなく伝えた。
「勇者様たちが魔王を食い止める。
その間にわたくしの力で、魔王の力を異世界へ封じこめるはずでした。
ですが……魔王は、わたくしの力を利用する術を持っていたのです」
「利用、つまりどういうこと?」
「封印する力を、逆さまにしたのです。
異世界から、力を取り込んでより強大な魔力を手に入れる。
それが、あの魔王の狙いでした。
勇者様たちは……わたくしがなんとか城から出したのですが……」
言葉に詰まる。
勇者様たちは無事だろうか。
「まぁだいたいわかったよ。じゃあ、封印とやらはもう出来ないのか?」
「……おそらく、今のままでは何度試しても」
「逆に強くなるばかり、というわけだな」
亜人の少女はしゅるりと尻尾で髪を撫でた。
捕らえられているということは、きっと自分と同じく利用価値があってのことだろう。
あの人ならばそうするに違いない。
「……魔王の呪いによって、わたくしは自害が出来ません。
このまま生きていても利用され、敵を利するばかりです。ですから……」
「ならここにいる必要はないな。おい、仲間の勇者とやらはどこにいる?」
「えっ、ええと、無事ならば近くの砦に……」
「じゃあそこまで案内してもらうぞ!」
少女が私の手を掴むと、空いた手で鉄格子を掴み、パキンと音を立てて取れた。
……きっと長い間捕まっていたのだろう。
その間に、壊れやすいように細工をしていたに違いない。
亜人の少女はきっと、私を待っていたのだ。
「どうせ死ぬなら、足掻いてから死ね。
その方が後悔もないし、たぶん、気分がいいぞ」
「……はい!」
ならもう一度、私も戦わないといけない。