続・メイドさんの夏休み
今日も録画していたドラマを見る。
主人公の恋人が母親の生まれ変わりであることが判明した後、事態は急展開を迎えていた。
二人はその秘密を周囲に知られないようにしながらも、今までと同じようには付き合えなくなってしまう。
それを聞いた主人公の父親は、二人を応援しようと食事に誘う。
だが……ふとしたきっかけで、生まれ変わりであることに気づき、調べ始める。
ついに生まれ変わった妻だと気づいた主人公の父親は――なんと関係を持ってしまうのだった!
今の恋人とかつての夫の間で揺れるヒロイン、その行く末は果たして!
「それにしても思い切ったと言うか。
ずいぶんと攻めた脚本ですねぇ。
今と昔の恋人、というのは定番ですが……
業が深いと言うか、薄い本のようと言うか」
コーヒーをすする。
急展開に次ぐ急展開で目はさっぱりなので、今度は落ち着けるためにだ。
今日のお茶請けはお中元で頂いたクッキー。
こうして毎年少なくない数の見舞いが届くのを見ると、竜王様もそれなりに人脈や尊敬を集めているのだなぁと思う。
その竜王様は今朝、二度目の異世界転生――というより転移、むしろ旅行――に旅立った。
前回は実験を兼ねたものだったそうで、今回は少し長くなるとのことだった。
私では測りきれることではないので、そうですかとだけ言って送り出した。
竜王様、と私も他の竜も呼んでいるが、実際のところはよくわからない。
私たち竜や神とかなんとかいう存在は、この星ではだいぶ前に隠れた。
人や獣、魚や虫たちに譲り渡して、表と裏の間の世界へと移り住んだ。
それもまた一つの異世界移動というやつだろう。
その立役者として「竜王様」と呼ばれるようになったのが、竜王様である。
つまるところ、竜かも知れないし、神かも知れないし、別の何かかも知れない。
私が知っているのは、この話と、普段はだらだらしているが本気になると死にたくなるほど強い、ということだけだ。
間違っても主人公のように扱ってはいけない。
かといって悪役やトリックスターでもいけない。
言うなれば、彼女は舞台装置である。
例えるなら、昼ドラで偶然家に置いてきたスマホであり、たまたま見つけた写真である。
他にも遠山の金さんの桜吹雪、水戸黄門の印籠、アニメの必殺技バンク。
それっぽい言葉で言えば、デウス・エクス・マキナ、というやつ。
話を進め、終わりへと向かわせる装置、あるいはすべてを解決する万能機。
私が何を言いたいのか分かるだろうか?
あの竜は、めちゃくちゃにするのである。
勇者と魔王の戦いだとか国同士の諍いだとか、愛だとか恋だとか、夢とか希望とか。
そういうものすべてをめちゃくちゃにして、世界は救われた、とのたまう竜だ。
私がこうして夏休みと称して平和に過ごしている間に、一体何が起こるのか。
恐ろしい。
恐ろしいが、少なくとも自分が巻き込まれないと思うとむしろ楽しみ。
ちょっとゲームで上手くいかないだけでぽきぽき首を折ってくる。
そういう理不尽が一切ないというだけで、なんと安らぐことか。
ドラマやアニメも同じ、自分が関係ないからこそ、荒唐無稽で過激な話も楽しめるのだ。
私は、2つ目のお中元の箱を開けた。
「生菓子は早めに食べないといけませんからね」