メイドさんの夏休み
『実は……私、生まれ変わったあなたのお母さんなの!』
『何を、何言ってるんだみゆき! 生まれ変わったとか、そんなの……』
『……2003グラム……』
『みゆき……?』
『生まれた時にあんな小さくて、ちゃんと大きくなるのか不安で……』
『…………』
『一度もお誕生日を祝ってあげられなくて……悲しかったけど、でもこんな……』
『みゆき……いや! 母さん!』
『はると!!』
二人の男女が抱き合い、ピアノの激しいメロディーが流れる。
そして、二人は熱い口づけを交わし……
「いや、親子だと分かってキスはないでしょキスは。
それにしても……昼ドラで転生モノをやり始めるとは……
このメイドの目をもってしても予想できませんでしたね。
まず間違いなくこの後で父親の明彦とみゆきの元彼がちょっかいを出してくると見ますがさて……」
ふと気づけばカップの中が空になっていた。
区切りもいいし、コーヒーのおかわりを淹れよう。
色物枠だと思っていた『雪のリーインカーネーション』がまさかの展開。
竜王様に言われて思い出した作品だが、予想以上に楽しんでいる。
つまらなければ別のを、と思ったが序盤から惹きつけてくれた。
リーインカーネーションとカーネーションを絡めてくるのは無理矢理がすぎるが。
コーヒーを温めている間に、何かつまめるものでも用意しようか。
冷蔵庫を開けると、竜王様が出てきた。
?
「ん、出口を間違ったな」
「お……かえりなさいませ。ず、ずいぶん早かったですね」
「すぐ終わったからな。あ、コーヒー? 私のは砂糖とミルクたっぷりで頼むぞ!」
「かしこまりました」
私の小さな夏休みは終わった。
昼ドラ二週分、時間にすると4,5時間ほど……思ったよりがっつり見てしまっていたようだ。
まぁいつになるか分からないが、また時間が出来た時に見ることにしよう。
飲み頃になったコーヒーを注ぐと、甘く香ばしい匂いが広がる。
私はこれにミルクを少し淹れるのが好きだが、竜王様はどばどば砂糖とミルクを入れる。
いつもの通りどばどば砂糖とミルクを入れた茶色い液体の入ったカップを差し出すと。
「ありがとうメイド」
「……どういたしまして」
珍しいこともあるものだ。
念願の異世界転生――というよりは転移だと思う――をして気分がいいのだろうか。
小さな口でふーふーしながらどばどば砂糖とミルクが入った茶色い液体をすする。
格好だけは一丁前にふぅ、と息を吐いて遠い目をする。
何か聞いて欲しいのだろう。
「どうしたんですか」
「なに……愛って大変だと思ってな……」
またわけのわからないことを言い始めた。
が、まぁ……愛というのはそういうものだろう。
まだ数千年ほどしか生きていないが、そういう子孫繁栄の幻影は理解できない感情だ。
「そうですね」
「ふふ……世界は強固に見えても、愛の前には容易く歪む。
分かってもらえないんだよね、世界の管理者の大変さをさ……」
「そうですか」
よく分からないがそれなりに満足したようだ。
竜王様はよく分からないものを愛として片付けたがる。
私もそれに習ってみてもいいかも知れない。
生まれ変わった親子が再会してキスするように。
つまり、竜王様自身もまた愛なのだろう。






