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竜王様異世界漫遊記   作者: 聡塚聡
初めの一歩
4/25

竜王様の旅がついに終わる

 さっきまで「世界を救いに来た」とのたまっておいての手のひら返し。

 思わず言葉に詰まる。


「まぁ……お前はあっちの知識があるんだったな。見てもらう方が早い」


 小さな手を宙へ伸ばす。

 爪が鋭く伸びているが、器用にぱちん、と指を鳴らした。


 空中にいくつもの穴が開いて、別の場所が映し出された。


「これは……僕がいた村……? 他も、同じような村?」

「空から世界を見てみよう……いや、最近はポツンとか。何か気づいたことは?」


 全部で10箇所、どれも小さな平地にいくつかの家……というより小屋が密集した村だ。

 畑があったり、規模が違ったりはするが、大きな違いはないように見える。


「僕の村以外にも同じようなところがある、のはわかった」

「うむ。では次だ」


 ぱちんとまた指を鳴らすと、別の場所が映し出される。

 荒れた大地を悠然と歩く四足の巨大な魔物。

 森林の間を跨いでゆく巨大な虫のような生き物。

 そして、バラバラになったさっきの竜の数倍はあろうかという竜。


「……こんなのがまだいくつも……」

「いやーこないだ見た怪獣王を彷彿とさせるな! よかったぞー!

 あ、見る前にこっちに来たんだったか? お前もったいないなー」

「敵がすごいのはわかった……でも、君ならさっきみたいに」

「ムリだな」


 また指を鳴らす。

 映し出されたのは、人が連れ去られる映像。

 抵抗をするでもなく、周囲の人間も、本人ですらただそれを見ている。


 この世界に来て何度も見てきた光景。


 人間が、強大な力を持った怪物たちの餌であることが、当然という世界。


「怖気づいたのか? これを見たから無駄だって思ったのか!?」

「ちょっと違う。これがこの世界の在り方だと言っている」

「人が家畜みたいに食われるのが!?」

「そうだが?」


 金色の瞳が僕を映す。


「ヒトの在り方がーという話じゃない。この世界ではこうなったのだと言っている」


 炎のように瞳の中の光が揺らめく。

 だが、そこに熱は感じない。


「お前も分かるだろう? あっちの世界も同じだ。

 ヒトに近い生き物たちは殺され、食われ、あるいは勝手に滅んで、今のヒトが栄えた。

 生き物たちにとっては残酷かも知れんが……ま、星にとっては新陳代謝みたいなもんだな」


 興味があるのか無いのか、こちらを見ているのかいないのか。

 赤く輝く尻尾をゆらりゆらりと持ち上げながら続ける。


「まぁ分からんならさっくり言っておくか。

 この世界の(かたち)はいま、現在、この状態が正しいんだ。

 なのにあいつらをばんばか倒してみろ。世界が崩れて星が滅ぶ。ついでに人も死ぬ」

「そ、そんなのわからないだろ! 確かに文明こそ進んじゃいないが……

 人間には知恵がある! この世界なら魔法だって使える! 力を合わせればきっと」


 はぁ、とため息を吐く。

 呆れたように、退屈そうに頭を掻く。


 少女は変わらずに続けた。


「だからムリって言ったんだよ」


 金色の瞳に、僕が映っている。


「この世界のヒトはそれを捨てた。

 お前が何をしようがこれ以上を望まない。

 ここでヒトが生きていられるのは、あいつらがヒトの住処を守っているからなんだよ」


 そういえば、そうだった。


 一歩でも外に出れば襲われる。

 なのに、反抗することはおろか武器も存在しない。

 それはおかしい、と思っていた。


「理性ある魔物が、理性なき獣から、牙なき人を守る。そういう世界だ」


 唯一残された剣も、隠されていた。

 誰がそれを隠したのか。


 いつか来る誰かのために?


 たぶん、違う。

 村の人たちがそうしたんだ。


 きっと、そう。


 彼らには必要がないから。


 金色の瞳に、僕の姿が映っていた。


「そうだな……たぶん、お前が好きになった男。

 そいつも食われると聞いて、ただ受け容れたんじゃないか?

 お前がその体を受け容れて、気持ちに素直になる前に……たはー! 恥ずかし!」


 金色の瞳に、長い髪の少女が映っていた。


「ま、私は王様として()()を救わなきゃあいけない。

 お互いツイてなかったと思って諦めてくれ。じゃ、次は勇者になれるといいな!」



 ぱちん、と音がするのを聞いて、僕の意識は――


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