竜王様と四天魔王
ぶつん、と映像が途切れた。
『 どういうことだ、これは 』
『 監視用の使い魔もやられたらしいな 』
突然のことに、二人の声からは動揺が見て取れる。
無理もない、我ら四天魔王は死を克服したはずなのだから。
ただ一つの急所を除いて。
「 姿こそ見えなかったが間違いあるまい。"剣"が戻った 」
『 風ごときが! だからアレは俺が預かると言ったのだ! 』
念話ごしであっても炎のように怒り狂う様がありありと浮かぶ。
「 封印を保つには神官たる力が必要。仕方がない 」
『 そんなことよりも 』
地の底から響くような声。
先程の動揺が嘘のように、すっかり落ち着きを取り戻している。
『 風がやられた、ということは火の力を持つ者だろう。
火の領内管理に穴はなかったか? 何らかの、異界の来訪者の見逃しはなかったか? 』
『 てめぇ……俺がそんなヘマするわけねぇだろうが!!
それより、風がやられたってことは次はアンタじゃねぇか? 』
「 私もそれを考えていた 」
我らの急所である剣。
それだけはなんとしても封印し、手が出せないようにしておきたかった。
だからこそ、封印を行う神官であり、もっとも素早く知覚に長けた風が守っていた。
それが敗れたということは即ち、凌ぐだけの力を持っていたということ。
「 風は火に弱い。剣を放ち、あまつさえ風を倒したということは間違いないだろう 」
『 つまり、俺やお前とは相性が悪い。
地のアンタまで倒されて力を奪われたら厄介だろうな 』
『 わざわざ集めたのはそういうことか 』
彼は気づいたようだ。
ならばもったいぶる必要はない。
さっさと話を進めるとしよう。
「 我らが手を組み、剣とその封印を解いたものを倒す。
大魔王様が目覚められるその前に、すべて終わらせる 」
『 一人やられている以上、黙って待つわけにはいかんからな 』
『 じゃあ決まりだ。どこでやるんだ?
まさか大魔王様の城で暴れるわけにもいかねぇだろ 』
「 やはり地の領域がいいだろう。
風から最も近い、それに、おそらくは気づかれている 」
全員が話を止める。
風の使い魔が異常を知らせに来たすぐ後。
みなが感じていた、見られている感覚。
口に出すまでもなく、剣の覚醒が始まっているのだと確信を得た。
「 世界をその手に収め、魔族の御世を作り給うた最初の魔王。
偉大なる魔王を殺し、大魔王様までも傷つけた斬魔の剣だ 」
『 ああ、そのためなら協力だろうがなんだろうがやってやるよ 』
「 では決まりだ。すぐに地の領域へ行き、剣を砕く備えをする。
私と火もいくつか用意がいるだろう。餌も持参せねばな 」
頭の中で備えを考える。
餌は1000匹もあれば十分か、長くなるようならばまた別の作戦も必要だろう。
『 おい、聞いてんのか? 』
「 どうした? 」
『 地のヤツが返事をしやがらねぇ。寝ちまったのかよ 』
「 我らを迎えるためにも魔物に指示をしているのだろう。
お前と違って地は律儀な男だ。少しばかり待ってやれ 」
『ほーん、通信機があるとはすごいじゃないか』
気の抜けた声が頭に響く。
『 なんだ……? 』
『この水晶っぽいのが増幅器で魔力に思念を乗せて会話すると。
原始的っちゃ原始的だが悪くない。想像よりも進んでるじゃないか』
『 てめぇ! 剣の仲間か!
風の話水晶を使いやがったな!? 』
『風? こいつは風って感じには見えんが』
ありえない。
かつて存在していた竜種の最上位であっても。
異世界から来た魔を滅ぼす者たちであっても。
こんなことがありえるはずがない。
人類種を、それに従う獣どもを、支配者気取りの竜どもを。
滅ぼし、魔族の繁栄を築いた魔王とその忠臣たる我らが。
こんな簡単にやられていくなどありえるはずがない。
『ま、それはそれとして。
繋がってるならちょうどいい』
『 ッ! やべぇぞ水! 早く―― 』
『こっちへ来ォい!!』