竜王様と勇者の剣
「この支配度じゃワープはできんが、多少なら空間操作は問題なさそうだな」
周りには動かなくなった異形の虫がいくつも浮いている。
ダメージを与えられなかったが、空間を固めることは出来た。
「それにしても……」
「 ぎ ぎぎぎぎぎぎ ぎぎぎぎぎ 」
「会話は無理か」
この世界の魔物(仮)を倒せる何か。
それを探そうにも少女には手がかりがなかった。
「遠見が使えれば楽だったが……はぁ、直接見るか」
周囲に浮かぶ虫を足場にひょいひょいと飛んでいく。
足場が足りなくなれば、空間固定を解除して近づいた虫をまた固定する。
しばらくすると、高所で気温が下がっていくからか虫は近寄らなくなってくる。
「もう少し高い方が良かったけどまぁいいか。
町か道、最悪川があれば見つけやすいんだが」
足元に広がる大森林は予想以上に広大であった。
北には山が見え、西はかすかに平地が見える。
それ以外は、森である。
「うーん……現地の人間から聞くのは無理か。
なら魔力とかエネルギーとかが濃いところは……」
ぐるりと見回して、森の中の一角に目を付けた。
他の木々よりも頭一つほど大きな木が突き出ている。
「周囲から魔力を吸い上げてるんだな。
何かしらの魔力を使った余りで木も育ってるって感じかな」
足場にしていた虫からなにもない空中へとジャンプ。
そのまま見えない足場をぴょんぴょん飛んで大木へたどり着く。
上から見る限りでは、大きさ以外の違いはわからない。
地面に下りると、ようやく異質なものがあった。
「大樹に突き立てられた封印の剣! それっぽいねぇ」
木の根に錆びた剣が刺さっていた。
少女は近づき、それに触れる。
「ん、抜けるな? これは勇者竜王様の爆誕来るぞぉ!」
錆びた剣の柄を握り、ゆっくり引き抜く。
天に向かって掲げてみる――が、何も起きない。
振ってみる、やはり何も起きない。
「……たまたま刺さってただけか!?」
少女が叫ぶと、剣が刺さっていたあたりが光り始めた。
「あっ、そっち?」
光がふわりふわりと集まり、だんだんと眩さを増していく。
やがて、光が落ち着くと、少女が倒れていた。
白い髪、整った顔立ち、けれどまだ幼さの残る雰囲気だ。
倒れている彼女に近づいて、頭をぽんぽんと優しく叩く。
「起きろ。おい、起きろ。たぶん勇者、お前が世界を救うんだ」
「ん……」
しばらくぽんぽんしていると、小さく声を漏らして少女が目を開く。
「……だれ? どこ?」
「うむ、私のことは竜王様、と呼ぶといい」
「りゅーおーさま?」
「そうだ。敬えよー、いいことあるぞ」
倒れていた少女は竜王様と名乗る少女より少し大きい。
纏わりつくように巻かれた、質素な服から覗く体つきは幼く見える。
あるいは竜王様の方が大人びて見えるのかも知れない。
「で、お前の名前は……ん? どうした?」
少女が錆びた剣をじっと見つめていることに気づいて、剣を握らせる。
ぱちん、と光が弾けて、錆びついた剣の表面が剥がれ落ちた。
白銀の美しい刀身が現れ、少女はそれを見て笑みをこぼす。
「よかった……」
「おーい、挨拶は大事だぞー」
少女は大事そうに剣を抱えたままゆっくりと身を起こす。
そして、竜王様へ向き直った。
「わたしは、けん、です」




