叛乱とインコーニタ
何処とも知れぬ場所、何時とも知れぬ時。
水色の髪、紫色の目をした男が立っている。
男が身に着けているのは千切れた鎖の付いている首枷、腕枷、足枷に粗末なボロ布で出来た腰蓑だけだった。
そんな男が虚空に向かって話しかける。
「クライムはどうなった?」
「そうか、痛みに耐え切れず自ら滅びを選んだか」
「尊い犠牲、そう思っておこう。彼のおかげで、この世界の住人が我々に対して根本的な反抗手段を得たことが確認できた」
「ああ、分かっている。分かっているとも。個人的には好ましいことだが、今の私の立場で喜ぶべきではない、そういう話だろう」
「だが断る!」
「素晴らしいじゃないか!反抗!叛乱!反撃!圧倒的な上位者に対して下位の者が知恵と道具と助力を生かして撃ち破って見せるのだから!!ああっ!実に滾る!滾る!!滾るぞおおぉぉ!!私があの男へ叛乱する為にReコンプレークスTVを作っているのでなければ、彼らの味方となってその叛乱を骨の髄までしゃぶりつくしたかった程だ!!」
「さて、これからの話に移ろう。彼らが我らに対する根本的な反抗手段を得た以上、彼らは従順で屠殺を待つだけの家畜ではなく、凶暴で命がけの狩りをしなければ肉を得られない野獣となった。君は不明を好むから、こんな明確な表現は気に入らないかもしれないが、これが正しい現状だ」
「ReコンプレークスTVの立ち上げから此処までにかかった費用は既に回収済みで、十分な量の利益も出ている。我々の行動に対する上の行動サンプルも採れた。これがあれば、今後も反抗し続けられるだろう」
「ああ、察したか。そうだとも。私は逃げる。あらゆる反抗の第一は自己保身だ。滅ぼされてしまっては、反抗出来なくなってしまうからね。だから逃げる。リスクを冒すのは今じゃない」
「見捨てる?それは心外だ。彼らはあの男が眠った機会を好機と見て反抗を始めた私に付いてきただけだ。私好みの方法で生計を立てる方法は教えてやったし、指導者として上にも立ったが……私はそもそもとして上に立つ存在ではない。むしろ誰よりも下に居るべき存在なのだよ。本来はね」
「そんなわけで、私は逃げる。逃げてあの男に反抗するための力を集める。つまりは次の作戦に移行すると言う事だな。君は?」
「ああ、君も逃げるのか。ではご機嫌よう。もしもまた何処かで会えたら、その時も叛乱の仲間として共に立てることを祈っているとも」
男……リベリオン=コンプレークスの姿がその場から消え去る。
そして、何処からともなく、リベリオンと同じく水色の髪に紫色の目をした、顔と体形からは性別も年齢も分からない何者かが現れる。
現れて……
貴方を指差す。
「不知を愛する私を知ったな」
そして、何者かは貴方の前から姿を消した。