001 Prologue
何故か転生させられ、違う世界に生まれ直した私の中に存在するのは、
シルバーと白と黒の単調な配色、
少量の他の色を所持した医療機器に囲まれた白い病室での記憶。
電子音と、何かしらのモーター音しか聞こえて来ない。
白いカーテンに囲われたベットの上で、
私は、自分の両手が、自分の意思で動くのなら、
自分が愛しく思う「悲しい顔をした家族」の者達に触れて、
慰めてやりたいと思っていた。
元気になって、少しでも体が自由に動く様になったのならば、
車椅子ででも、その病室から自分の意思で出て行き、
気の滅入りそうになる「白い世界」から、
「逃げ出したい」とも願い。そうなる様に、心の底から祈っていた。
そんな願いを切り裂いたのは、私の家族に向かっての誰かの言葉。
『予め、覚悟と準備は、しておいて下さい。』と、
医者らしき白衣を着た男は、無表情に事務的に、そう言った。
それは、他の人には、当たり前の様にやって来る明日が、
自分にはもう、来る可能性が無いと言う宣言。
自分には明日が無いと、私が気付いた時の事。
真っ白な四角い空間で、
そのまま、衰え、自分が死んで行く事を知った日の出来事。
私は、自分に不平等を齎した神に向かって、
「今以上に痛くて、苦しく辛くても、
安らかに眠れなくなっても、それでも、生きていたい」と願い。
一定音で鳴り続ける心電図の音を聞きながら、
痛みで呼吸をする事も出来ず。朱色に染まる視界の向こう。
自分を囲む0と1の羅列の先に、新しい「今」を得た。
そこは、人の器が移植で拒否反応が出ない様に作り変えられ、
遺伝でバグが生じて、初期不良が発生した場合は勿論、
事故で何処が破損したとしても、病魔に侵されたとしても
「脳」さえ無事なら、「骨、筋、脈、肉、毛と皮」の五体。
「心臓、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓」の五臓。
「胃、大腸、小腸、胆嚢、膀胱、リンパ」の六腑。
どの生体パーツでも、交換する事が可能で、
作り物の機械のパーツにでも、好きに交換できる世界。
肉体の怪我や、病気を気にしないで良い世界。
だか、しかし…その世界は、転生した者に優しくはなく……。
転生させた魂に、丈夫で綺麗な新しい体を与えて、育て上げ、
「悪魔」と言う意味を持つ、「Fiend」と言う存在に仕立て、
そのフィーンドの者達同士に、武器を使用させて戦わせる。
気ままに転生者を使い捨て、命がけの代理戦闘させて楽しむ者達が、
転生者達の上に君臨する世界だった。
「今以上に痛くて、苦しく辛くても、安らかに眠れなくなっても、
それでも、生きていたい」と言う願いの根底、根源、大前提。
「大切にしていた者達との未来」を失った私は、
その世界で、透明な容器に詰められてでの基礎知識の挿入、
3年を掛けた起動実験を経て、
「0~9」の容器の外の世界に出る事の無い「部品」と、
フィーンドとして育てられる「駒」に分類される。
そしてその中で、「駒」とされた私達は、
更に「A~F」の価値を表す「6種のランク」に振り分けられた。
Aランク、Admiration
Bランク、Brilliant
Cランク、Charm
Dランク、Desirable
Eランク、Engagingu
Fランク、Fascinate
6種のランクに振り分けられた私達は、
そのランクに見合った衣食住を仮に与えられ、
「Foster」と言う名称の里親が所持する「駒」になる為、
同じ様な境遇の者達と一緒に、「フィーンドの養成所」で飼育される。
フィーンドの養成所では・・・
応用的な知識を補填する授業と、
無重力空間で、自らの存在位置を自由自在に操る為の訓練を受ける。
そしてそこを12年程で卒業し、フィーンドとなった後は、
基本的に、
自らのフォスターの為に戦い続ける事を義務付けられるのだった。
私は、塵や埃を落とす為に、
この世界で1日に一度、深夜に降る雨を眺めながら溜息を吐く。
そう、この世界では、FatalErrorと言う不具合が、
その身に起きない限り、死ぬ事は無く。
フォスターの命令に従い戦い続けるのが、フィーンドとしての仕事。
でも、もしも…そんな世界に……。
アナタ自身が、「同じ人間の手で転生させられ」、
「同じ境遇の人間と戦わされる。」としたら、そんな人間の幸せ、
「破壊してやりたい」と、思うとは、思いませんか?
私はある日、思い立ち。
飼い主に愛され、毎日、新鮮な水と餌を貰い。
時々、同族と戦う事を仕事として与えられていた「とある犬」。
反旗を翻し、飼い主を咬み殺して逃げた「とある闘犬」を見習い。
私自身が、私の世界のFatalErrorになる為に、
私も、自分の飼い主を斬り殺して逃げました。
逃げながら、自力で生き抜けない籠の中で生まれ育った小鳥が、
鳥籠から逃げ出したがる本当の理由も理解できました。
私は今、この先、追われ続け、殺処分されたとしても、
もっと酷い状況で、のたれ死ぬのだとしても、
とても幸せで、凄く充実した気分です。