トパーズの友達 6-3
「シド! 起きて!」
僕はシドの胸を叩いたが、彼は既に目を覚まし、立ち上がった後だった。
「うるさい。……行くぞ」
「ほぇっ?」
「落ちても拾いに戻らないからな」
言うなり、シドは変化魔法を使って再び白い鳥に姿を変えた。大きく翼を広げ、彼は強く大地を蹴り飛ばす。僕は彼のフカフカの体に、慌ててしがみ付いた。
「ど、どういうこと!?」
「これがしたかったんだろう?」
シドは小馬鹿にするように言って、緑の森を眼下に、翼を広げる。ビュウビュウと吹き荒れる風に飛ばされないように、僕は精一杯に身を低くした。
「もしかして、シドも夢見たの!?」
「あぁ……胸糞悪い」
シドは苦々しげに吐き捨てた。
山の麓には廃墟と化した町。少し遠くにもう一つ。そこからは、薄っすらと細い煙のようなものが見えた。この距離で見えるのだから、パン屋の煙突でないことは確かだろう。
「煙が……!」
「わかってる。飛ばすぞ」
「待った!」
「あ?」
「ベル!」
僕は眼下に、何かに急き立てられるように山を駆け下っているベルの姿を見つけた。
「拾って!」
「何でそんなこと……」
「頭数は多い方がいいでしょ! ベルは強いって言ってたの、シドじゃないか」
「赤眼でモメてる場所に、赤眼を連れて行ってどうする」
「だって、僕達がヒューゼノーツさん達を助けた後にベルが町に辿り着いたら、どうなると思う?」
「……。知ったことじゃない」
「あそこまでやっておいて今更何だよ、このツンデレ!」
「死ね」
と、暴言を吐きながらも、シドはベルの方へ向かって急下降。舞い降りてきた巨大な鳥に、ベルはゼィゼィと肩で息をしながらも、大きく目を見開いた。
「シドさん!?」
「乗れ!」
「あんた、悪魔だろう!?」
「いいから乗れ! フルーレに戻る」
声を荒げたシドに、ベルは一瞬の戸惑いを見せたが、すぐに強く頷いた。彼はシドの背に飛び乗り――同時に、僕を尻の下に敷いた。
「ちょっと、ベル! お尻!」
すり抜けてしまうのだから特に支障は無いし、見えないのだから仕方ない。けれど、シドが何か言ってくれるのを期待して訴えてみた。……当然のように無かったことにされて、シドは天空へと上昇。
「ベル、悪魔の定義は?」
「え?」
「答えろ」
「……残虐非道の、化け物だ。でも、謝る。あんたはそんな存在じゃ――」
「いいだろう。では俺を殺し、世界を変えろ」
「えっ!?」
「変えて見せろ、世界を」
これに言葉を加えるなら、『俺が人々の前で悪魔を演じてやるから、赤眼のおまえが俺を倒せ。そしてヒューゼノーツ達を助けるんだ』である。全く持って可愛くない。
「でも、それじゃシドさんは!?」
「俺を倒さないと、ヒューゼノーツ達が死ぬぞ。夢の通りに」
「でも……」
「嫌なら、飛び降りろ」
無茶な事を言う。ここから飛び降りたら、運など無関係に死ぬだろう。何しろ眼下は、エルザの町の廃墟だ。クッションになるものは何もない。
「それもできないけど……!」
「心配するな」
「え?」
「うまくやる」
シドは言いながら、あっと言う間にエルザの町を通り過ぎ、フルーレの町の近くまで飛んできた。




