トパーズの友達 6-1
* * *
僕は見えなくなったベルの背からシドに視線を移し、尋ねた。
「いいの?」
「何が」
「これで」
「…………」
シドは答えず、瓦礫の山の方へと歩いて行った。
「幻石、この辺にあるの?」
「無いなら来ない」
シドは無愛想にそう言って、瓦礫の中に踏み入った。シドのいない場所で魔物に襲われては堪らないと、僕は慌てて彼を追いかける。
その時、僕はシドの足元の瓦礫の下に、何か紙切れのようなものが埋もれているのに気付いた。
「シド」
「何だ?」
「足元、何か落ちてるよ」
シドは屈んで瓦礫の奥に手を差し入れると、その紙切れを拾い上げた。僕が横から覗き込んで見ると、どうやらそれは写真のようで――覚えのある顔が写っていた。
「ヒューゼノーツさんとセラフローラさんだ! 何で!?」
僕は思わず声を上げ、「黙れ」とシドに文句を言われた。しかしそうせずにはいられない。写真には、僕達が知るよりも少し若いヒューゼノーツとセラフローラ、それに、サングラスをかけた黒髪の青年が写っていたのだ。三人は一様に楽しげな笑みを浮かべており、彼らの仲の良さが窺えた。
――エルヴィンの本当の父親は、エルヴィンが生まれる前に死んでいるんです。
ヒューゼノーツの言葉を思い出し、僕は目を見開く。もしかして、このサングラスの男がエルヴィンの父親ということだろうか。しかし、それならどうしてこの写真がこんな場所にあるのだろう。
僕は不思議に思ったが、シドは僕には一切構わず、写真の近くにあった瓦礫を取り除き始めた。
「シド、何してるの?」
「…………」
シドは無言のまま、一心不乱に瓦礫を投げ捨てている。
「ふっ、ん……!」
そして一際大きな岩を持ち上げると、シドは瓦礫の奥を覗き込んだ。
「見つけた」
「え?」
シドに倣って瓦礫の奥を覗き込んで見ると、そこには布張りの赤い表紙に黄色い宝石が埋め込まれた本があった。シドは瓦礫の中からその本を引っ張り出して、ニヤリと口の端を歪める。極悪人が凶悪犯罪でも思い付いたかのような顔だった。
「その本って、賢者の書庫から盗んできた本だよね?」
「表紙のデザインは同じだな」
「『見つけた』ってことは、それが魔力の源?」
「あぁ。……これだけ強い魔力を放っているのに、どうしてわからないんだ?」
「シドが異常なんじゃない?」
「死ね」
シドは暴言を吐きながら瓦礫の山から下りると、地面に腰を下ろして本のページを開いた。
「日記か……」
「何が書いてあるの?」
「自分で読め」
そう言って、シドは一人で黙々とページを捲り始めた。しかし僕が一緒に読もうと思っても、シドが本を読むスピードは尋常なものではない。僕が最初の三行を読む間にページが変わるのだから、追いつけるはずがなかった。
「シドが読んでくれないなら耳元で歌う。そりゃぁもう、喉が涸れるほどの大声で」
「…………」
僕はシドの肩へと飛んでいって、大きく息を吸い込んだ。
「らんら――」
「うるさい」
目にも留まらぬ早業。シドは僕を左手の中に捕らえると、僕を握り込んだまま続きを読み始めた。
「シド! 苦しいよ!」
「……ちっ。後で要約してやるから、少し黙れ」
苦々しいシドの舌打ちの後、彼は僕を胸ポケットに放り込んだ。シドの言葉に満足した僕は、シドが本を読み終えるのを、ポケットの中でおとなしく待つことにする。
しかしシドは半ばほどまで読み進めたところで、パタンと本を閉じてしまった。
「どうしたの?」
「途中で終わってる。ページが真っ白だ」
「そうなんだ……それで、内容は?」
尋ねると、シドは閉じた本の背表紙につぅと指を添わせながら、瓦礫の山に視線を移した。
「俺達やベルがここへ来るずっと以前に、悪魔は倒されていたらしい」
「えぇっ!?」
シドの言葉に、僕は素っ頓狂な声を出した。
「そしてその時、世界から魔物は消えた」
「えっ? ……じゃぁ、どうしてまだ魔物がいるの?」
尋ねたが、シドはそれには答えず、話を続けた。
「悪魔を倒したのは、赤眼の男と、二人の友人。だが、エルザの町に戻った彼らを待っていたのは、盛大な宴と、彼らにとって残虐極まりない仕打ちだったようだ」




