表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SoraShido  作者: 真城 成斗
トパーズの友達
48/59

トパーズの友達 4-2

 なぜそんな言葉が彼らから出てくるのか。視線はふと、キッチンのコーヒーを捉える。思えば、あれはここにあるはずのないものだ。それに他にも――


「っ!」


 確証は無いが、自分の思考の結果に思わず目を見開いた僕。しかし刹那にシドから鋭い視線を向けられ、僕は息を呑んだ。


 でも、だとしたら――


「そろそろ行くぞ」


 シドに促され、僕達は手早く荷物をまとめた後、ヒューゼノーツ達に別れを告げた。まだ刻は早いとは言え、シドは的確に人通りの無い道を選び、夜闇に紛れて町を脱出した。魔法を使えば早いのに、見張りの後ろをゴキブリのようにコソコソとすり抜けたのは、なかなかスリリングだった。


 シドはせっかく購入した地図を見ようともせず、サクサクと夜の平原を進んでいく。恐らく、幻石の強大な魔力を辿って進んでいるのだろう。


「なぁ、これは聞いちゃいけないことなのかもしれないが……」


 しばらく歩いて、おもむろにベルが口を開いた。シドが返事をするはずもないので、僕が応じる。


「どうしたの?」


 促すと、ベルはちょっと笑って、軽く頭をかいた。


「シドさんとソラは、一体何者なのかなって思ってさ」


 すると、てっきり無視をすると思っていたシドが、抑揚が無いながらも、ベルに言葉を返した。


「知りたいのか?」


 僕は驚き、シドを凝視する。ベルは言った。


「もし教えてくれるなら。……大体、あの時俺に何をしたんだ? シドさんに手を翳された後、突然、指一本動かせなくなった」


 あの時というのは、町の人達がベルを探してヒューゼノーツに詰め寄った時だろう。どうやらベルは、自分の姿が本に変わっていたなどとは、露ほども思っていないようだった。まぁ、想像することもできないだろうけど。


「ふん」


 シドは鼻を鳴らして笑うと、不意に僕に手を翳し――


「えっ!?」


 僕にかけていた魔法を解いた。突如妖精の姿に戻された僕は、危うく墜落しかけたところで、慌てて羽を震わす。


「シドっ、いきなりひどいじゃないか!」


 僕はシドに文句を言ったが、当然のように相手にされない。一方で、ベルには僕が突然消えたように見えるわけだから、彼は驚愕の表情で、キョロキョロと辺りを見回していた。


「ソラが消えた!? ソラ!?」


「騒ぐな。ソラはここにいる」


「いるって……一体どこに!?」


「何かやれ、ソラ」


 シドに命じられ、僕は何をしてやろうか思案して、シドの髪に手を伸ばす。……睨まれた。


「殺すぞ?」


「……ハイ」


 シドの髪を三つ編みにでもしてやろうと思ったのに、先に釘を刺された。仕方が無いので、シドの服を引っ張るに留める。


 シドの服が不自然に動くのを見て、ベルは目を丸くした。


「ソラ、いるのか?」


 ここにいるよ。


 ベルに手を伸ばすも、当然のように、僕は彼を擦り抜けてしまう。少し哀しく、可笑しくもあった。


「凄い……まるで魔法だ」


「ふん」


 シドはもう一度鼻を鳴らし、髪をかき上げた。


「町からこれだけ離れれば大丈夫だろう。俺は休む」


 言って、シドは荷物を地面に置いた。


「シドさん……」


「くだらんことで起こしたら、殺すからな」


「え? あの、ソラはこのまま……?」


「それはくだらんことのうちの一つだ。あいつの本来の姿は今の状態だからな。これで普通だ」


「えぇ?」


「訴えても伝わらない。存在するがわからない。ただ、そこに在るのみ。それがソラだ。……じゃ」


 シドは面倒臭そうにヒラヒラと手を振り、そのまま寝入ってしまった。ベルはしばらく呆気にとられた顔をしていたが、やがて、小さく吹き出して言った。


「ソラ、あんたのツレは無茶苦茶だな」


 ベルはシドの所業を恐れるどころか、面白がっているようだった。ベルにしてみれば、〝人間〟一人が消えた状態である。それを「普通」と言われて受け入れられるような人間は、そうそういないだろう。


「怯まないベルにびっくりだよ、僕は」


 聞こえないのは承知で、僕はクスクスと笑って応じた。すると、ベルが更に言葉を続けた。


「ソラ、俺は今まで色んなものを見てきたけど、こんなのは初めてだよ。……こんな気持ちも、初めてだ」


「そう――それってさ、どんな気持ちなの?」


「……おやすみ、ソラ」


「えぇー」


 せっかく会話している気分になっていたのに、ベルは地面に横になると、シドと同じく目を閉じた。間もなく、寝息を立て始める。


「シドもベルも、寝付き良すぎだよ。ったく」


 僕はプリプリしながら羽を畳み、彼らに倣って横になった。


 意識はすぐに、安らかな闇へと溶けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ