トパーズの友達 3-4
人々は、ここまで褒められればさすがに悪い気はしないようで、ちょっと得意気な顔をしている。シドは続けた。
「ヒューゼノーツさんさえよければ、家の中を見てもらった方が早いんじゃないか? 俺達の他には誰もいないと確認できれば、みんな安心できるでしょう」
「家の中をですか? 構いませんけど、困ったな。エルヴィンがいい加減怯えていますから、早めに済ませて頂けると嬉しいです。……シドさん、セラとエルヴィンを頼みます」
ヒューゼノーツは表情にこそ出さないが、内心は困惑しているに違いない。彼はセラフローラとエルヴィンを自分の方へと呼び寄せると、二人をシドに託して、人々と一緒に家の中へ入って行った。
僕は不安そうにしているセラフローラの隣に並び、ニッコリと笑って見せた。
「大丈夫ですよ、心配しないで」
「えぇ……」
セラフローラは頷いたが、すぐに逃げられるようにするためだろう。買い物カゴを地面に置いて、エルヴィンを抱き上げた。
しかしシドが魔法を使ったのだから、それらも全て杞憂でしかない。
やがてヒューゼノーツが、人々と一緒に家の外に出てきた。
「やぁ、すまなかったね、ヒューゼノーツ。赤眼が町に入ったっていうんで、みんな不安になってるんだ。あんたはいつも旅人を家に泊めているから、つい」
「いえ、いいんです。私も気を付けておきます」
家の中からベルが消えていることに、ヒューゼノーツも驚いているに違いない。しかし、やはり神経の図太い男のようで、そんなことはおくびにも出さない。優しい微笑みで応対しながら、平静を装っていた。
「エルヴィンも、怖い思いをさせてごめんよ。お詫びに、今度新しい布を持ってこよう。サラサラでフワフワの、とびっきりを」
「……うん。ありがとう」
ヒューゼノーツの言っていた、洋裁屋の主人だろう。彼がエルヴィンの頭を撫でると、エルヴィンは怯えた様子を見せながらも、小さく頷いた。
「シドさん、あんたも悪かったな。明日、みんなに他の土地のことを聞かせておくれよ。あんたの唄、楽しみにしているからさ」
そうして人々は、ヒューゼノーツ達に謝罪の言葉を述べながら、彼らの家を立ち去っていった。
「……静かになったな」
シドはそう言ってエルヴィンの頭をポンと叩き、家の中へと戻って行った。
「ソラさん、ベルさんは一体どこへ行ったんですか?」
「心配しないで、ヒューゼノーツさん。ちょっとした手品みたいなものだから」
「手品?」
怪訝そうな顔をしたヒューゼノーツ。僕は頷き、シドに代わって、彼に頭を下げた。
「それより、すみませんでした、ヒューゼノーツさん」
「どうしてソラさんが謝るんですか?」
「僕達が不用意に黒い山のことを聞き回ったのは、原因の一つですから」
「あぁ……そんなこと、気にしないでください。シドさん達がいなかったら、切り抜けられなかったかも。――それよりベルさんの安否が気になります」
ヒューゼノーツは、セラフローラの腕からエルヴィンを抱き上げると、妻の額と娘の頬に優しくキスをしてから、家の中へと入っていった。僕もその後に続く。
「ヒューゼノーツさん!」
すると、シドがいつの間に魔法を解いたのか、ベルが階段を駆け下りてきた。ヒューゼノーツが彼の無事を喜ぶ暇も与えずに、彼はガバッと頭を下げた。
「本当にすみません、ヒューゼノーツさん、セラフローラさん!」
しかしそんなベルの尻を、あとからやってきたシドが蹴飛ばした。
「うわっ!?」
ベルは蹴られた勢いのまま前方へよろけ、そのまま見事にすっ転んだ。
「な、何するんだ!」
「余所でやれ」
シドは抑揚のない声で言い放ち、ベッドの下から出してきたらしい空のカップをぶら下げて、リビングに入っていった。
「あ~……」
僕は溜め息をつき、ベルが起き上がるのを手伝った。何となくシドの言いたいことはわかるのだが、いつだって彼は言葉が足りなすぎる。
「ベル、大丈夫?」
「あぁ……」
彼はヒューゼノーツを見上げ、そこでようやく、自分に注がれている一つの視線に気付いたようだ。ヒューゼノーツの腕の中、目隠し越しに、エルヴィンが悲しそうな顔で彼を見つめている。




