表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SoraShido  作者: 真城 成斗
トパーズの友達
38/59

トパーズの友達 2-4

 シドの思惑はともかくとしても、話をするのは嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。僕は今までのことを思い返しながら、エルヴィン達に旅のことを話して聞かせた。幻石の件を伏せるために、ちょっとした脚色は交えたが。


 気高い山脈も、雄大な海も、荒涼とした大地も、美しい花の野も。僕の目で見たもの全てを、物語に変えた。エルヴィンは顔を輝かせて、僕に色々な質問をした。森の緑はどんな匂いがするの? 海の煌めきはどんな音がするの? 空と大地だけの場所は寂しい? たくさんの色に囲まれるとどんな気持ち?


 目の見えないエルヴィンは、どんな世界を思い描いたのだろう。僕は、彼女に少しでもたくさんの世界を伝えることができただろうか。


 夜も更けてエルヴィンがユラユラと舟を漕ぎ出した頃、葡萄の房は、ただの枝になっていた。


「夜更かしさせちゃいましたね。すみません」


 話を切り上げてそう言うと、ハッと目を覚ましたエルヴィンは、目をゴシゴシ擦りながら僕を見た。


「それで? それでお姫様はどうなったの?」


 その言葉に、僕は思わず吹き出してしまった。先刻まで僕が話していたのが、裁縫好きの海賊の話だったからだ。お姫様の夢でも見ていたのだろうか。


「エルヴィン、もう遅いから、また今度にしよう」


「今度っていつ?」


 エルヴィンに尋ねられて、僕はシドを見た。居眠りでもしているかと思ったが、シドはちゃんと起きていて、ヒューゼノーツに視線を移した。ヒューゼノーツは、シドが何か言う前に、彼の意を汲んだ。


「旅のことを話して頂けるのなら、シドさん達の必要なだけ泊まってください」


 ヒューゼノーツはそう言って、にっこりと笑う。すると、シドは短くエルヴィンに言った。


「明日だ」


「本当? 約束よ?」


「あぁ」


 ぶっきらぼうに頷いて、欠伸を一つ。


「いいんですか?」


 明日もここに泊まることを勝手に決めたシドの傍若無人さに、僕は申し訳なく思いながら、ヒューゼノーツに尋ねた。だが家主のヒューゼノーツは、嬉しそうな顔をしていた。


「えぇ、もちろん。エルヴィンも喜びます」


「そうですか。……ありがとうございます」


 シドの代わりにお礼を言うと、セラフローラに連れられてリビングを出て行くエルヴィンが、「おやすみなさい」と手を振った。僕はニッコリ笑って、それに応じる。


「おやすみ、エルヴィン。セラフローラさんも」


「えぇ、よい夢を」


 セラフローラのポカポカした優しい微笑みに癒されながら、僕はヒューゼノーツにも挨拶をして、シドと共に二階の部屋へと戻った。


「随分、長話だったな」


 いつものことだが、急に棘のある言い方。どうやら、僕の話が気に入らなかったらしい。


「いいじゃない、たまには」


「そのよく動く口を切り落としてやりたい」


 シドはぶつぶつ言っているが、彼自身も、自分がいつもより饒舌なことに気付いているのだろうか。いつものシドなら、ここで「黙れ」がくる。


 珍しくシドが相手をしてくれるので、僕は嬉しくなって調子に乗った。


「シドって、意外と子ども好きなの?」


「どうして俺が」


「エルヴィンにチョコレートあげるなんてさ。普段じゃ考えられないくらい優しいもん。悪人系仏頂面は相変わらずだけど」


「音速で死ね」


「あれっ!? 優しさはどこへ!?」


「その手のサービスは取り扱っていない」


「……どうしちゃったの。今日のシド、面白すぎるんだけど」


 するとシドは「ふん」と鼻を鳴らし、本棚から適当に本を見繕って、ベッドに腰かけた。


「僕、先に寝てもいい?」


「あぁ。二度と目覚めるな」


「本当に目覚めなかったら寂しいくせに」


「……。俺が黙らせてやってもいいんだぞ?」


 シドは僕を睨み、腰のナイフに手をかけた。僕は慌てて、首を横に振る。


「な、何でもない! おやすみなさいっ!」


 僕はベッドに潜り込み、シドに背を向けて目を閉じた。それからしばらくの間は、シドがページをめくる音だけがしていた。やがてそれも遠ざかり、僕の意識は闇の奥に吸い込まれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ