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SoraShido  作者: 真城 成斗
トパーズの友達
37/59

トパーズの友達 2-3

「待て」


 しかし彼女が僕の分を注ごうとしたところで、シドがそれを止めた。


「ソラに酒は駄目だ。……何か別のにしてくれ」


「え~、いいじゃん。僕もワイン飲みたいよ」


「おまえはタチが悪い。……子どものいない時にしろ」


 僕にとっては覚えの無い話で心外だが、セラフローラはシドに従うことにしたようで、僕の前からワインボトルを引っ込めた。


「じゃぁ、ソラお兄ちゃんは私と一緒ね」


 エルヴィンが僕のグラスを取り上げて、台所へ駆けていった。戻ってきた時、グラスには無色透明な液体が注がれていた。


「はい、お水」


「ありがとう、エルヴィン」


 僕はグラスを受け取って、エルヴィンの頭をポンポンと撫でた。


 全員に飲み物が行き渡ると、ヒューゼノーツがグラスを持ち上げた。


「シドさんとソラさんの行く先に光を。乾杯」


「乾杯。ありがとうございます、ヒューゼノーツさん、セラフローラさん」


 水の入ったグラスを二人と交わし、僕は最後に、エルヴィンにグラスを差し出す。


「エルヴィンも。君が幸せでありますように」


「ありがとう、ソラお兄ちゃん」


 一方で、シドは既にグラスを置いて、料理に手を付け始めていた。


「どうですか? お口に合うといいんですけど……」


 尋ねたセラフローラに、シドはシチューを啜りながら小さく頷く。


「シドってば、よっぽどお腹減ってたんだね。……だけどさぁ、もうちょっと愛想良くしたら?」


「黙れ」


「もうっ。このツンデレ!」


「ツン?」


 ヒューゼノーツが怪訝そうに眉を寄せ、シドは嫌そうに溜め息をつく。


「うるさい黙れとか言ってるシドが、チョコレートをくれて頭をポンポンしてくれる。『べ、別におまえのこと嫌いってわけじゃないんだからなっ』」


 そんな説明をすると、ヒューゼノーツは「あぁ」と納得したように頷いて、当のシドは、テーブルの下で僕の脛を蹴飛ばした。


「痛っ!」


 思わず声を上げると、今度はエルヴィンが怪訝そうに首を傾げた。


「どうしたの?」


「な、何でもないよ」


 ひきつりそうな顔で痛みを堪え、僕はシドへの復讐を胸に誓う。けれどそんな思いも、シチューを一口含んだら、一気に吹っ飛んでしまった。


「美味しい! 今まで食べた中で一番だよ!」


「そうでしょう? 妻の料理は絶品なんですよ」


 誇らし気にそう言ったヒューゼノーツに、セラフローラが嬉しそうに笑う。


 いいな、仲良いんだ。


 そう思いながらビックリキノコを頬張って、僕はキノコの名の通り、ビックリして目を見開いた。


「ふわっ?」


 高級ステーキなんて食べたことが無いけれど、これは間違いなく高級ステーキの味だ。他のどんなキノコも、これには敵わないだろう。噛んだ瞬間肉汁が一気に溢れ出し、口中で香ばしい匂いが一気に弾けた。


「これ凄い!」


 初めての味に、僕は大興奮。シチューとビックリキノコを、無我夢中で頬張った。携帯食料生活が長かった上に、美味しいものはほとんどシドが食べてしまう――普段の僕は小さいから、パンくずでお腹一杯になってしまうのだ――から、うっとりするほどの幸福だった。


 皿が空っぽになってお腹が満たされると、セラフローラは葡萄の房をテーブルに持ってきた。シドが早速手を伸ばし、一方でエルヴィンは、待ちきれないと言わんばかりの様子で、テーブルに身を乗り出した。


「ねぇ! シドお兄ちゃん、ソラお兄ちゃん、早くお話聞かせて!」


「こら、エルヴィン。お行儀が悪いよ。ちゃんと座りなさい」


「え~」


「え~、じゃないの」


「……はぁぃ」


 ぶーたれた様子で、エルヴィンは渋々、お尻を椅子の上へと戻す。シドはワインを一口飲んで、僕を見た。語る気は微塵も無いのだろう。


「そうだな……じゃぁ」


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