トパーズの友達 1-4
しばらく行くと学校らしき建物があり、砂埃の巻き上がる校庭で、子ども達が剣や槍を振っていた。みんな、なかなかの腕前だ。
「学校があるから、町中に子どもがいなかったんだ……小さい町なのに凄いね」
僕がシドに言った時、ちょうど道を通りかかった男が、シドに話しかけてきた。
「あの……すみません、旅人さんですか?」
「……あぁ」
シドは気のなさそうに頷く。そんな態度に、男は苦笑を浮かべた。
「こんな辺境の町へ、ようこそ旅人さん」
「…………」
「もしよろしければ、うちに泊まっていきませんか? 旅のお話でもお聞かせ頂けたらと思います」
「宿屋でもやっているのか?」
「いえ。たまに訪れる旅人さんに泊まって頂いて、お話を聞くのが楽しみなんです」
シドはしばらく思案顔になり、言った。
「連れがもう一人いる。それでも構わないなら」
「えぇ、もちろん構いません」
一体どういうことなのだろう。
「お連れ様がいらっしゃるなら、また改めて、どこかで待ち合わせをした方がよろしいでしょうか?」
「いや、一度そっちへ行って、それから探しに行く」
「わかりました。私はヒューゼノーツといいます」
「シドだ」
「よろしく、シドさん。では、付いてきてください」
ヒューゼノーツはニッコリと笑い、歩き出した。シドがその後に続く。
僕はシドの肩で足をぶらぶらさせながら尋ねた。
「ベルを誘うの?」
「いや、おまえを人間に変化させる」
「本当!?」
僕は嬉々としてその場で立ち上がったが、ヒューゼノーツが口を開いたので、シドは僕と話すのをやめた。
「そうだ。旅人さん、シチューはお好きですか?」
「え……あぁ、まぁ」
「それに、ビックリキノコのソテー」
「ビックリキノコ?」
聞き慣れない単語に、シドが怪訝そうに聞き返す。ヒューゼノーツは楽しそうに頷くと、一軒の家の前で足を止めた。
「そう、ビックリキノコ。多分、今夜の夕食です。シチューとキノコのいい匂いがしていますから」
ヒューゼノーツはそう言ったが、シドは全く興味の無さそうな顔をしていた。が、気になった僕は、クンクンと辺りの匂いを嗅いでみた。
「……。シド、服洗ったの何日前?」
シチューというより、しばらく前に食べた焼き魚のにおいがしたので、僕はシドを見上げた。当然のように無視された。
ヒューゼノーツは家のドアを開けると、「ただいま、帰ったよ」と中へ呼びかけた。すると誰かがパタパタと駆けてくる音がして、現れた一人の少女が、ヒューゼノーツに飛びついた。
「おかえりなさい! お客さんを連れてきたの?」
「あぁ。旅人のシドさんだよ。よくわかったね」
「町の人達と、少し気配が違うもの」
彼女はそう言って、ヒューゼノーツの脇から、ひょこっと顔を出した。
「!」
少女は、なぜか黄色い布で目隠しをしていた。背に届きそうな栗色の髪を揺らして、彼女は嬉しそうに笑う。
「こんにちは、シドさん」
シドは無視をするかと思ったが、無表情ながらも、彼の口が動いた。
「こんにちは」
ぶっきらぼうすぎる挨拶だったが、ヒューゼノーツも少女も、気にした様子は無かった。
「シドさん、娘のエルヴィンです」
「あぁ」
シドは短く応じると、荷物の中から何か取り出して、エルヴィンの方へ近付いた。
「エルヴィン、口を開けてみろ」
シドはヒューゼノーツの脇で、エルヴィンの背に合わせて腰を落とした。シドの手には板チョコの包みが握られていた。
「こう?」
エルヴィンは何の恐れも無く、小さな口をあーんと開いた。シドはそこへ、小さく割ったチョコレートの欠片を放り込んだ。
口を閉じたエルヴィンは、しばらくそれを口の中で転がしてから、パァッと顔を輝かせた。
「あまぁい! これ何!? 凄く美味しい!」
「チョコレートだ。……残りもやるよ」
シドはエルヴィンの手にチョコレートの包みを握らせると、彼女の頭をポンと触って、立ち上がった。なぜか優しいシドだが、はっきり言って、凄く気持ち悪い。




