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SoraShido  作者: 真城 成斗
アメジストの雨恋
16/59

アメジストの雨恋 1-1

 ――僕達は今、果てしなく広がった、対照的な青と赤の中にいる。


 天には美しく澄み渡る空。足元には水分を失って干からびた大地。


 かつてそこに水が存在していた気配すら見当たらないが、村は確かにそこにあった。


 こんなところに果たして人が住めるものだろうかと、僕は一人首を傾げる。


 村の外れの畑では、すっかり枯れきった葡萄の木が、今にも崩れ落ちそうな様子で風に揺れていた。赤茶けた土は水分も養分も失って、ひび割れている。


 村の中央部へ歩を進め、周囲の景色が畑から民家に変わっても、辺りに人の気配は無かった。乾いた風が吹き荒び、埃っぽい空気が肺に入り込んでくる。砂埃が喉に引っ掛かるのか、シドは時々、乾いた咳を繰り返していた。


「参ったな」


 人っ子一人いない道を歩きながら、シドは小さく呟いた。


「誰もいないらしい」


 聞くなり、僕は口を開いた。


「じゃぁ、喋ってもいい!?」


「黙ってろ。――ちょっと上から見てきてくれ」


 暴言を吐かれたが、優しい僕は彼の右肩を軽く蹴り、宙へと舞い上がった。


 背中の羽を震わせて、民家よりも高い位置へと移動する。辺りを見渡すと、地平線まで赤く乾いた大地が広がっていた。


 シドのところに戻ってそう伝えると、彼は溜め息をついて空を仰いだ。


「気長に探すしかないな。……とりあえず、この村に関する書物でも探そう」


「その前に何か飲みたいよ。もう喉がカラカラ」


 しかし僕の要望は見事に無視され、シドはスタスタと歩き始めた。


「あ、ちょっとシド!」


 僕は慌ててシドの後を追いかけたが、不意にシドが立ち止まったせいで、彼の背中に顔面から激突した。


「あだっ!?」


「うるさい。静かにしろ」


 いけしゃぁしゃぁとシドは言う。誰のせいだと思っているのだろう。


 僕がムスッとしながら口を閉ざしていると、どこからか滑らかな笛の音が聞こえてきた。軽やかな鈴が、その音色に合わせて跳ね踊っている。


 どうやら人がいるようだ。


「行くぞ」


 言うなり、シドは大きな手でむんずと僕を掴んだ。彼が掴んでいるのは、僕の羽と右足だ。


「どーしていつもそうなんだよ! もっと優しく扱って!」


 抗議してみたが、彼は特に興味を示すこともなく、僕を上着の胸ポケットに突っ込みながら歩き始めた。


 僕はポケットの中でゴソゴソと体勢を立て直し、外に顔を出した。軽やかなリズムは、前方の広場から聞こえてきているようだ。


「わぁ……」


 そこには、たくさんの鈴が付いた腕輪を鳴らして舞い踊る少女と、笛を吹く青年の姿があった。地べたに座っている青年には、左足が無かった。


 少女の舞う姿は流れる清水の如く美しく、鋭い笛の音は乾いた空気を切り裂いて、天にも届いてしまいそうなほどに見事だった。


 シドは少し離れたところで、じっとそれを眺めていた。


 やがて笛と鈴の音が止むと、なぜか突然、二人が縋るように空を仰いだ。僕も倣って空を見上げてみたが、澄み渡る青が広がっているばかりである。


「シド、あれって何やってるの?」


 尋ねたが、シドは黙って二人を見つめているばかりだ。


 しばらくして空から視線を落とした少女は、地面に置いてあった、木材を組み合わせて作った松葉杖を青年に差し出した。青年はそれを受け取り、支えにして立ち上がった。


 ちょうどその時、二人はシドの視線に気付いたようだった。二人は訝しげにシドを見つめていたが、シドが特に動こうとしないのを見て取ると、青年を先頭にして僕達の方へ近付いてきた。


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