怪物たちVSデスゲーム
こういうのがこの町の日常だったりする・・・かもしれないし、しないかもしれない。
私、喜多美樹が目を覚ましたのは真っ暗な部屋だった。部屋の奥から誰かの声が聞こえてきた。
「ドクター、喜多美樹さんがお目覚めになりました」
「うん?その声どっかで聞いたような・・・?」
声のした方向から淡い光が発せられた。そこに浮かんだのは龍宮工業高校のブレザーを着た女性だった。以前に誠の紹介で会ったドクターって人の助手だったと思う。
「やっと目覚めたの?こっちはもうみんな起きたわよ」
また別の場所で声がしたのでそちらを向くと・・・真っ暗で見えない。
「KTA01、明かりを強くしてやれ」
「了解、ドクター」
助手の人から発せられている光が若干強くなると部屋全体の様子が見て取れた。私以外にもこの部屋に何人か集まっているらしい。
「って守鶴先輩ですか?」
「やっほー、美樹ちゃん元気~?」
声の主は黒ギャルの守鶴先輩だった。他にはウチと同じ制服を着た黒ギャルっぽい女子と短い金髪のヤンキーっぽい男子が一人ずつ、先のドクターと助手の人と私を入れて六人がこの暗い部屋に集まっていた。
「守鶴様~~~。優子、チョ~こわ~い!ですわ」
「優子様、心配せずともこの轟雷寺にお任せください。ですからこんな牝狸なんぞから早く離れて下さい」
「お黙りなさい、轟雷寺!!貴方の立場は判りますが守鶴様を侮辱する事は許しませんわ」
「読みは“しゅかく”じゃなくて“もりづる”なんだけどね~」
「失礼いたしました、守鶴様」
「アンタ、ワザとやってない?」
どうやら、ここに居る人達はお互いどこかしら面識があるらしい。私はここに来た経緯を思い出そうとした。
「確か一人で帰ろうとして・・・」
「我々は何者かに拉致されたようですね。これでドクターの人間嫌いが益々悪化してしまいます」
ドクターがフンと鼻を鳴らすと部屋の明かりがパッと点けられた。そして部屋の隅にあるスピーカーから女性の声が聞こえてきた。
『皆様にはこれより我々の壮大な・・・』
「それにしても悪趣味なチョーカーね」
スピーカーの声を遮って守鶴先輩が文句を言いながら首の方を見ている。気が付かなかったけれど確かに首に変な物が巻き付けられている。
「こんな物はポイしましょ」
先輩が自分と私、そして優子様って人と助手の人の首にさっと手をかざすとチョーカーは手品みたいに一瞬で外れた。
『えっ・・・?それ、無理に外そうとすると爆発するのにどうやって!!?』
先輩は欠伸をしながら外したチョーカーを片手で弄んでいる。今、スピーカーから聞こえた不穏な単語なんてどこ吹く風といったところだ。
「おい、タヌキ女。俺達の分は外さないのか?」
「私は、段蔵LOVEだから他の男に触りたくないの!特に牝狸扱いする失礼な男にはね」
不良っぽい見た目の割りに意外と真面目な轟雷寺っていう人と先輩がやりとりしていると助手の人が前に出て提案した。
「轟雷寺様、よろしければ私がEMPにて首の装置を破壊いたしますが如何ですか?」
「EMPって確か・・・」
「そんな事も知らないの轟雷寺?EMPというのは電磁パルスで半導体や電子回路を損傷させたり出来るんですわ」
「電子回路を損傷って待った!待った!!俺、この前スマフォ買ったばかりだから電磁波はやめて!!」
そんなどこか緊張感の欠けたやり取りのなかでスピーカーから怒声が流れてきた。
『いい加減にしなさい、大人しくしないと残りの爆弾を爆発させますよ!!』
だけどドクターは不機嫌そうな顔で反論した。
「どこのどいつか知らんがやれるもんならやってみろ!!」
『それじゃあ貴方から死になさい!!・・・アレ?・・・・・アレ~~~~~~!?』
いつまで待ってもドクターや轟雷寺さんのチョーカーは爆発しなかった。助手の人が涼しい顔で答える。
「先ほどからそのチョーカーを制御していると思われる電波を受信していましたので失礼ながらジャミングさせて頂きました。無線制御は受付ませんよ」
『そ・・・そんな、我々が作ったゲームがこうもあっさり・・・我々こそがゲームキーパーの筈なのに』
どうやらこれで一件落着らしい、後は異変に気付いた誠や黒山先輩なりが来てくれるだろう。私は安堵して近くの椅子に座った。
「「「「「あっ・・・」」」」」
座った瞬間椅子から拘束具が飛び出し私は手足を固定されてしまった。
『・・・・・あっ!?す・・・座った?・・・・・ア・・・アハハハハハハ!!そ・・・その椅子はパネルに表示されたパズルを3分以内に解かなければ感電死よ!!』
声の主は私が罠に掛かった事に対して驚いたみたいで若干声が上擦っていたが自身の優位を理解すると調子を取り戻したらしい、迷惑な話だ。
「ドクター」
「KTA01、お前は一々俺に伺いを立てる必要は無いぞ。お前は自分の思った通りにやれば良い」
優子様と轟雷寺さんが前に出てパズルを解こうとし始めた。
「轟雷寺!!学友の危機ですわよ。早く解きなさいな」
「お任せください優子様!!この轟雷寺、見事こちらの女子生徒を救い出して見せます!!」
しかし助手の人が待ったをかける。
「お待ちください轟雷寺様、念の為タイマーを変更させていただきます」
『・・・へ?』
助手の人が椅子の側面を触って何やらブツブツ言っている。
「タイムを無制限にしようと思いましたが解析の結果このパズルは絶対解けないように出来ている事が判明しましたので即時拘束を解除させていただきますね」
その瞬間カチャンという音と共に私の拘束は外された。守鶴先輩がやれやれといった顔で私の手を引っ張ってくれた。
「答えの無いパズルを仕込むとはデスゲームが聞いて呆れるわ・・・C級映画でももう少しマシな展開を用意するものじゃがのう」
「先輩?口調が何か変わってますよ?」
「おっと、ついつい地がでちゃったわ。美樹ちゃんサンクス・・・っとそろそろ待ち人が来たみたいよ?」
その時スピーカーから色々な声や音が聞こえて来た。
『何?何なのよアナタ達は?総員迎撃の・・・』
何やら物騒な銃声らしき音や爆発音も混ざり始めた。
『オラオラ!!美樹を攫ったのはテメェ等か!!覚悟は・・・』
『ウチの美樹をよ~く~も~』
『ヒッ・・・弾が当たらな・・・』
『コロス!!』
『遠藤先輩やめて!!残しておかないと尋問出来ない』
『おっ!遠藤先輩はやる気満々だねぇ、イイゾ~そのまま殺っちゃえ~』
『おい!!誠!!先輩を煽るんじゃ・・・待ったせんぱ・・・』
スピーカーの向こうから妙に湿っぽい『ゴキュッ』という音が聞こえた。
『あっ・・・あ~~~あ』
『オイ!!これどうすんだよ!!』
『安心しろ黒山、多少“欠けた”が口は利ける・・・ブツン』
そこでスピーカーからの音声は途絶えた、どうやら美月ちゃんも来ていたらしい。私達を攫った連中は許せないがそれでも相手が悪すぎて多少同情してしまうのは私も力無い一般人だからだろうか?とにかくこれで今回の事件の幕が下りた。
◇ ◇ ◇
「で?コイツどうする?」
「尋問が終わったら死なないようにドクターや新堂に預けるよ」
「そりゃ死ぬよりきつい無間地獄だな」
反則な方々にデスゲームをやらせてはいけません。