狂気VS忍 前編
予告通り馬場先生のお話です。楽しんでいただければ幸いです。
街の繁華街にある一棟の三階建てビル、中は三階とも風俗店となっている・・・表向きは、の話だが。
実際は自警団“黒龍”が所有する物置である、そのビルに隠された地下一階を拠点の一つとしている男がいた。
名前を馬場丈といい黒龍所属の土地・建築物管理調査の専門家だ。
隠された地下一階は“ジョーククラブ”と呼ばれ乱雑にパイプ椅子が複数置かれ正面には一段高いステージが色とりどりの悪趣味な電飾に照らされている、時には黒龍メンバーの交流等も行われる一室だ。
現在ステージ中央はスポットライトで照らされ、安っぽいアダルトショップで買ったみたいなコスプレナース服を着た馬場が大げさな身振り手振りで観客席に物語を語っていた。
「俺達“黒龍”がお前達“玄武”の事が大っ嫌いな理由を今から聞かせてやろう・・・ヒヒヒッ」
パイプ椅子に座った観客は何も答えず、食い入るように自分の足元ばかりを見ている。
「遥か昔、黒山家のご先祖様は四神を従えた黒龍としてこの土地を治めうんぬんかんぬん、四神は黒龍の配下としてこの土地を守護する事を命ぜられた・・・まあ、そんな昔話がホントかウソかは知ったこっちゃ無いがこの四神の末裔ってのがお前達も良く知っている“虎上”“鶴田”“亀石”“龍美”の四家って触れ込みでこの内亀石家がお前さん達“玄武衆”の頭領の家ってわけだな、へっへっへっ。おや?下ばっかり見てないで話ている人の方を見て聞くもんだって学校で習ったろう?」
観客の足元をオモチャの機関車がプラスチックのレールに沿って走り去っていく。
「事の発端は黒山家現当主のガキ様がまだ当主じゃなかった数年前、黒山家も他四家もヤーさん集団に成り下がった現状を嘆いていたガキ様はもっと強い集団を作って現体制をブッ壊そうと考え、街中の見所ある実力者に声を掛けて密かに俺達“黒龍”を結成した。そう、本家にも他四家にも秘密でな」
馬場がスイッチを押すと客席後方のスピーカーから『ギャハハハハハ』と複数の下品な笑い声が響いてきた。観客は無反応である。
「だが、ここで黒山のガキんちょ以外にも腐った現状を嘆いていた奴がいたんだ。誰かわかるか?ハイ!そこの観客席のお嬢さん答えをどうぞ~・・・無視かよ」
観客席の少女はパイプ椅子の上で滑稽にももがいている。
「そう、四家の内の虎上家現当主、虎上白衣ちゃんだよ。同じ高校だったけ?見た事ある?え?学年が一コ下?アイツ今、大学生だからお嬢ちゃん三年生か?ふ~ん」
観客席に複数ばらまかれた笑い袋から一斉に笑い声が鳴り響いた。
「白衣嬢ちゃんは同じ高校で同学年の亀石・龍美の当主のお嬢ちゃん二人とあと後に巫女様になる当時は堅気の女の子と仲が良かったんだがその一方で現状打開の機会を狙っていた。そんな時、黒山のガキ様の宿敵である山岸誠と出会いそのまま弟子みたいな関係になったらしい・・・お嬢さん顔色が良くないよ・・・トイレはそこ出て左な」
客席の少女はもぞもぞと足元を見ながら荒い息で現状を打開しようと奮闘していた。
「結果、狼の異名を持つ山岸の弟子になった事で才能を開花させ恐ろしい程強くなっちゃった白衣ちゃんは黒龍の存在を察知してそのメンバーを次々打ち破り自分の配下に加えて行った。まあ、俺達は強い奴に従うってルールがあったから白衣ちゃんに従う事に異論は一切無かった。一方その頃黒山家前当主が事故で死に・・・まあ本当に事故かは知らんが、ガキ様と巫女様は色々あって恋仲にまで進展、昏睡状態から復帰したガキ様の養母も愛人として名乗りを上げた事でうらやまけしからんハーレムルートが形成されつつあった。白衣ちゃんの目的は愛するガキ様を自分の夫にする事だった、だがその事で親友である巫女様と争いたくなかった彼女は『そうだ、どっちも自分のモノにしちゃえばイイんだ』というシンプルな発想で黒龍メンバーを従え大反乱を起こした。これが第一次四神の反乱だな」
客席に飾られている風船が2・3コ破裂した。観客席のガムテープで口を塞がれた少女がビクッと身体を震わせる。
「まあ、俺達はそもそも悪を殺す大悪人だから、自分達すらブッ殺す狂った自殺軍団なのさ、そんな俺達に対してガキ様は協力組織“天川”の構成員を高いカネで雇って対抗・・・まあ、ガキ様が強すぎて援軍雇う必要も無かった気もするが戦いは白衣ちゃんとガキ様の一騎打ちになった。俺達?ボコボコにされてダウン中、天川はサッサと帰ったよ。一騎打ちがガキ様の圧倒的勝利で幕を閉じようとしたその時、巫女様が竜の巫女としての力に覚醒し俺達に愛の呪いを掛けたのさ。そう、巫女様を敬愛し続ける呪いをな。この事で俺達黒龍は巫女様の悲しむようなマネは出来無くなり白衣ちゃんは想像以上の実力を身につけた事を認められガキ様の愛人ポジに収まった。白衣ちゃんと巫女様の友情も百合っぽく深まり巫女様の一人勝ちで幕引きと相成ったわけよ」
『パン』馬場が鳴らしたクラッカーから無数の針が飛び出し客席に座っていたマネキンに勢い良く突き刺さる。最早少女に一刻の猶予も無い、少女の足元には大きなプレゼントBOXが置かれており、その上には不自然な目覚まし時計が置かれ箱の中とカラフルなケーブルでつながっていた。時間が迫っている。
「だがそんな時、空気を読まないバカが現れた。お嬢ちゃんならもう分かったよな?そう、お前ら玄武衆頭領の亀石黒衣だな。奴はいつの間にか恋仲となったガキ様と巫女様の関係が認められず難癖を付けて巫女様の暗殺を企てた。滑稽だったのはお前ら“玄武”が忍集団にも関わらず俺達“黒龍”や“天川”の存在に全く気が付かなかったって事だな、ひゃはははははは超ウケる~。暗殺は俺達“黒龍”に阻止されて遂にガキ様は玄武殲滅を指示、指揮官には暗殺未遂に一番ブチ切れしてた白衣ちゃんが選ばれお前達は壊滅したって訳だ・・・お前達本当に忍者か?警戒心無さ過ぎじゃね?何せ壊滅した後でやっと誰に攻撃されたか気づいていた位だからな~・・・とりあえずこれが第二次四神の反乱だな、鶴田家も龍美家もガクブルってたらしいぜ」
『ジリリリリリリリリ!!!』プレゼントBOXの上の目覚まし時計がけたたましく鳴り響き蓋が勢いよく開いた。中から巨大なハンマーを担いだ不気味なデザインのピエロの人形が飛び出しパイプ椅子に縛られた少女めがけてハンマーを振り下ろした。
「ギャ~~~~ッハッハッハッハッハァァァァァ!!」
ハンマーの下には粉砕されたパイプ椅子の残骸が転がるばかりだった。
「あれ~?おっかし~な~?」
馬場は舞台の上に置いておいた妙にファンシーな飾りの付いたバールを拾い素振りをする。
「ど~こ行っちゃったんだ~?ヒト様の家に勝手に忍び込んでおいて真逆タダで済むとは思ってね~よな~」
すると舞台袖から拘束を自力で脱した少女が両手を上げてゆっくり現れた。
「待ってください勝手に入ったのは謝ります。貴方が私達玄武衆を嫌っているのも分かりました。ですが落ち着いて私の話を・・・ヒッ!」
馬場が振り下ろしたバールが舞台の床を貫いた。「よっこいせ」と言って引っこ抜いた拍子に砕かれた床板が周囲に飛び散る。
「俺達の偶像を殺しかけておきながら“分かりました”“落ち着いて”?だとぉ~?ヒッヒヒヒヒヒヤ~~~~ッハッハッハッハッハァ~!!こいつは飛んだジョークだぜ」
横薙ぎに振るわれたバールが壇上のマイクを飛ばして耳障りなハウリングを起こす。客席側に逃げた少女がオモチャの機関車を踏み潰して転倒、馬場はパイプ椅子の一つに置いてあった緑色スライムのオモチャが入った器を器用にバールで引き寄せ少女に向かって投げつける。少女はミントの香りがするスライムを大量に被り不快な感覚に襲われた。
「おいおい、泣きそ~な顔してど~したの~?若い女の子にそんな顔されるとおじちゃん・・・骨をバキバキに折っちゃいたくなるだろ~」
「く・・・狂ってる・・・」
「そいつは褒めコトバだぜ~ィ!!でも、まるで“自分は正常です♡”みたいな態度が超ムカツク~~~~死ね」
少女は話し合い不可と判断して十字手裏剣を投げつけるがあっさりバールで弾かれてしまう。そこで終わらずに小刀を構え馬場に突進する。
「ハイ♪ざんね~ん」
少女の喉にバールが強く押し当てられそのまま顎を打ち据えられてしまった。
「頑張ったご褒美だ。今度は口塞ぐのだけはカンベンしてやるか・・・」
薄れゆく意識の中で少女はそんな声を聞いた。
少女が目を覚ました時、またパイプ椅子に縛られていたが今度は物騒なプレゼントBOXは置かれていなかった。
目の前の男、馬場丈は今度は派手な紫のスーツを着て少女の前に立っていた。
「お嬢ちゃん、先ずはお名前を聞いちゃおうかな?」
リボルバー拳銃を弄びながら馬場は少女に問いかけた。
「妃玻璃です・・・」
馬場先生と少女は某アメコミキャラのパロディーです藤〇〇治氏と矢〇〇友里氏のイメージでお読みください。