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怪物たちVS  作者: 樫屋 Issa
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先生VS怪奇機械 後編

相も変わらず遅いですがお楽しみください

急に飛び出して勝手に伸びてしまったアホの古賀を引きずって一時別の部屋に退避した私達、幸い向こうは足が遅く直ぐに追いつかれる事は無いみたいだがここはいわば奴の体内、居場所なんかとっくにバレているだろう。

古賀がもぞもぞと動いたのでそっちを見ると


「か~・・にゃ・・しぇんしぇ~」


などと喚いたあといきなり抱きついてきたので驚いてしまった。


「この、ボケ!いつまで寝ぼけてやがる!!」


思わず一発頭を殴ってしまったがこの程度どうということもあるまい。それよりもさっさと体勢を立て直さなければマズイ。


「んぐぐ、イタイ・・・」

「起きたか?ならばとっとと帰るぞ、ありゃ何かに取り憑かれている。残念だが借金の取立ては諦めるんだな」


古賀は暫く動きを止め考え込んだあとチッと軽く舌打ちした後渋々「わかった」と一言だけ答えた。

そうと決まれば長居は無用、勢いよく扉を開け出口に向かって走り出すが妙な事に気がついた。


「おかしい、さっき通った時はこの廊下こんなに長くなかったぞ」

「それよりも前後から嫌な気配が」


電気が来ていないハズなのに何故か薄ら灯る照明の向こう私達を挟んだ両端に機械人間が一人ずつ、腐臭と機械油の匂いが廊下一杯に充満する。


「私は前を、古賀は後ろで」

「OK」


私は特製爆薬付きの棒手裏剣を投げつける。機械人間の胸から突き出た歯車の間にガッチリと手裏剣が挟まり破裂、裂けた腐肉と機械の中を見てみると、生物的な部分は意外に少なくほとんどが機械の塊だった。


「そっちはどう?」


古賀の方を見た私はズッコケた。アイツは渾身のパンチを機械人間の金属部分に当ててしまい悶絶している。ギャグ漫画か!?


「ええい、世話の焼ける男ね!」


私はもう一人の機械人間の頭部にも手裏剣を叩き込んだ。仕込んだ爆薬が破裂するとこちらも中身が飛び散ることがなくバチバチと火花を散らして倒れた。


「これで終わりか」

「ぐおおおおおぉぉぉ」


古賀のバカはまだ悶絶していた。


「さっさと立って行くぞ」


古賀を促したと同時にバラけた機械人間のパーツがふわりと宙に浮かび上がった。


「マズイ!!ダーーーッッシュ!!」


私は古賀の手を強引に引っ張りながら正面のパーツ群をナイフで斬り払い道を作って廊下の突き当たりにあった扉に駆け込んだ。


「痛っつぅぅ、何なんだよこの館は?機械で出来たゾンビとか洒落になんねぇぞ」

「この館の主だった夜霧氏は優秀な機械技師だったそうよ、他にも時計の構造に詳しく高級な時計を取り扱って財を成したとされている」

「現代科学でも難しいのにウン十年も昔の技術でサイボーグが作れるってのか?」

「普通は無理でしょう、だけどここがどんな土地か忘れた?」

「ああ~、そういう事か」


そう、この土地には善も悪も魔法も科学も武人も忍びも山ほど集まる神聖で邪悪な街なのだ。今更オカルト混じりのオーバーテクノロジー程度でビビってたんじゃこの街で商売なんか出来やしないって事ね。


「こうなると強盗が押し入って一家惨殺ってのも怪しいわ、当時外部から侵入された形跡はあったらしいから強盗が来たのは間違い無いでしょうが」

「あ~詰まる所その強盗も機械人間にされちまった?」

「さっきのどっちかがそうなのかもな」

「うへぇ」


扉の向こうは上へ向かう階段が続いていた。私達はその階段を登って上の階に行くと複数の部屋の扉に混じってひと部屋だけ大きな金属の扉が如何にも入って下さいと言わんばかりに佇んでいた。


「ボス部屋だな」

「ボス部屋だね」


古賀は何の躊躇もなく扉を開けて中に入ってしまったので私もそれに続いた。

中は・・・まあ予想通りの血と錆の匂いがこびり付いて不気味な器具や機械が散乱した直球なホラー映画そのものの悪趣味な広間だった。

そこには照明に照らされた手術台と最初にエントランスで出会ったあの機械人間が居た。


「ザッザザー 来たか・・・ズッ 。ザザ 早速部品を取らせてもらうとしよう」


相変わらずのノイズ混じりの言葉に頭が痛くなってくる。

機械人間が手術台を指差し告げた。


「ザッ この男のヨウニな」


台の上を見るとそこには赤黒い物がこびり付いた骨が散乱するばかりだった。


「って事はこいつが?」

「夜霧氏本人って事ね」


どこに潜んでいたのか部屋中から機械人間達が集まってくる。まだこんなに居たのか。


「ズズッ 女は“あの娘” ザッ ・・・部品に・・・」

「先手必勝だぜ」


古賀が勝手に夜霧に向かって飛びかかった。

(アイツはまた勝手に、うん?)

ふと古賀の口元を見ると何やらピクピクと動いていた。

(・・・そういう事・・・)

私は取り巻きの機械人間達を押さえつけることにした。

機械人間達は迂闊にバラすとパーツが飛んでくる危険がある。私は特殊なワイヤーを取り出しふん縛る作戦に出た。


古賀が夜霧を攻撃するが夜霧は大きめの歯車を盾代わりに使い捌いている。すると夜霧が手下の機械人間に向けて手をかざすとそいつが勝手にバラけてしまった。


「ヤバ、それ反則」


一気に形勢が不利になり私達は機械部品に囲まれてしまった。


「はぁ~マズったな」


そんな古賀の言葉に私は怒りを込めて答えた。


「ホントにねっ!」


機械人間と部品の群れがゆっくりと近寄ってきた。壁際に追い詰められた私達は遂にその音を聞いた。


ドガガガガガッガ・ガリガリガリ・バキバキバキ

馬場丈達と別れてからきっかり一時間あんなフザケた顔してても案外真面目なのね。


「ザザっ 何だ何かか私の体を カラダヲ コワシテ る」


機械人間や空飛ぶ部品たちの動きが鈍くなっている、チャンスだ。

私はまた古賀の手を掴んで部屋を飛び出した。広間を出てすぐに半壊した廊下から外が見えた。


「ラッキー」


少々高いが私は廊下から外へと迷わず飛び出した。外を転げ回り気分は最悪、でも今回も生き残れたらしい、命があったことに感謝感激。


「へへへっご両人無事脱出出来たみてぇだな」


あのヘラヘラ笑いを浮かべながら馬場と助手の少女がやってきた。


「ええ、何とかね」


大きな工事現場用のライトに照らされながら夜霧邸が解体されていく、重機で破壊される館の影の中にあの人影が混ざって居たような気がしたが直ぐに崩壊する館の中に消えていった。


「この後土地の浄化よね?久郷さんがやるの?」


いつの間にか近くに来ていた久郷さんが答えた。


「いいえ、今回は魔法使いを特別ゲストで呼んでいます。彼なら確実でしょう」

「そっか、じゃあ次やることあるし私は行くわ」


古賀が呼び止める。


「車乗ってかないの?」

「“今回は”遠慮する」


挨拶もそこそこに私は目的地へと向かった。


???


私は一軒の家の前で深呼吸した。そして呼び鈴を鳴らす、深夜だろうとお構いなしに。

ピーンポーン


「はーい、どなたですか」


出て来た女の首を私は迷わず切断した。

女の首はガシャンと重々しい金属音を立てて落下した。残った胴体の首からはバチバチと火花が散っている。

半壊した女の頭からあのノイズ混じりの声が聞こえた。


「ザザッ な・・・ゼ」


何故も何も古賀はムカつく男だがそれでも私と同レベルの戦闘力と判断力を持っている。そんな男があれだけ私の足を引っ張るなんて事は“何かトラブルでも無い限り”ありえないのだ。


「貴女、古賀に催眠術を掛けたな・・・いえ古賀だけじゃなくて今までの貴女の元カレ全員に」


女の豆電球が仕込まれた瞳が明滅する。


「成る程、その目に仕掛けがしてあったのか、光の点滅で催眠術を掛けるってのは漫画で見た事あるが実物は凄まじいな」


つまりはそういう事、古賀が最初に出会った元カノとやらこそが


「夜霧の娘ってわけだな」


あの館で古賀が戦いの中で唇を動かしていたが読み取れた“アヤツラレテイル”という言葉が決定打だった。

機械人間は体からガガーピピッと電子音を発した後煙を噴いて動かなくなった。これにて一件落着だ。


「古賀の催眠状態は・・・まあ魔法使いが何とかするだろ、この家も後で浄化だな」


◇ ◇ ◇


俺は白いモヤの中ゆっくり車を走らせていた。

やがてモヤの中でアウトドア用の椅子とテーブルを用意してお茶と菓子を楽しんでいる高校生くらいの男を見つけ車を止めた。


「おっ催眠状態にありながら自力で此処までたどり着くなんて流石は黒山君の部下っすねぇ」


俺は車を降りてゆっくりと魔法使いに近づいた。


「ああ、慌てなくてもちゃんと催眠術は解いてあげるっすから落ち着いて」


俺はこくりと頷いた。


「しかしまさか妄念だけで機械に意識を宿らせるとは、まるでクトゥルフ神話の時計男みたいっす。えっ?クトゥルフ神話知らない?設定とか楽しいから一度読んでみることを・・・えっ?別にいい?そうっすか・・・」


酷くガッカリした様子の魔法使いは俺を椅子に座るよう促した。


「それで催眠術の解除っすけどこっちも慈善事業じゃないんで何らかの対価がいるっすね、そんな顔しないで欲しいっす。貰うのはコレっす」


そう言うと魔法使いは俺の服の襟にいつの間にか引っかかっていた小さな歯車を掴み取った。


「お代はこの妄念がたっぷり染み込んだ歯車で十分っすよ、むしろ貰い過ぎなんでお釣りは200万程振り込んでおくっす」


不安げな俺の表情を読み取ったのか魔法使いは言葉を続ける。


「ああ、ドクターが欲しがってたんっすよ。まあ、あの人は人間嫌いっすけどそれでも悪い事には決して使わないから安心していいっす」


魔法使いはお茶を一口飲むと立ち上がり携帯端末を取り出した。


「それじゃあ、解除するっすよ?3・2・1」


パチンと指が鳴った。


◇ ◇ ◇


今日の授業も無事終わり放課後の職員室で私はテストの採点をしている古賀先生を見つけた。

いつも素敵な笑顔を周囲に向けてくれる人だけど今日は何だか沈んでるみたいです。


「古賀先生、浮かない顔していますけどどうかされたんですか?」

「ああ、片桐先生」


古賀先生は作業の手を止めるとちょっと困った様な顔をしてから話し始めた。


「実は昨日、私用で出掛けていたのですがその時に同行していただいた方に酷くご迷惑を掛けてしまったんですよ。どう謝ったものか困ってしまいまして」


意外だった。いつも素敵な古賀先生でも失敗することがあるんだ。ふと私は昨日の事件を思い出した。

(同姓同名のコガ シンイチでもここまで性格が違う物なのかね?アッチの古賀にも見習って欲しいな)


「そんな時はチョコレートです」

「チョコレートですか?」

「ええ、チョコレートを食べればみんなハッピーなんです。その方も許してくれますよ」

「そうですか、チョコレート・・・チョコレート」


何回かチョコレートという言葉を繰り返してやがて古賀先生の中で答えが出たのかいつもの明るい笑顔で私にお礼の言葉を言ってくれた。

やっぱり古賀先生は笑顔のままでいつまでもいてほしい、古賀先生だけじゃなく多くの人達に笑っていて欲しいから私“キリエ”こと“片桐愛美”はこれからも戦い続けられるんです。


◇ ◇ ◇


安いと評判のステーキハウスにて


大学生くらいの女性二人が向かい合って食事を楽しんでいた。


「それじゃあ竜の巫女様?今回の賭けは私の勝ちということでステーキ一枚追加ですねBBQソースで」

「その竜の巫女様ってやめてください倉田さん、高校時代からの付き合いじゃないですか」

「ふふふ、でも“あの”黒山君と寝たって事はそういう事なのよ?山根美子いえ、黒山美子ちゃん」


美子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「そんなストレートに言わなくったって・・・」

「ごめんあそばせ、でも彼の力は身体的にも社会的立ち位置としてもまともな人間の範疇を超えちゃってるから、美子ちゃんもその内ソレに合わせた力を身につけて行く事に・・・いえ、もうある程度自分が変わってきてる自覚があるんじゃないかな?」

「・・・」

「そんな顔しないの、少なくともこの街じゃあそれは悪い事じゃないんだから」


んふふ~ん♪と楽しそうに「天川」副頭領(頭領がいろんな事情で動けない為実質頭領)の倉田有紀は笑う。

対して「黒龍」トップ黒山竜也の婚約者“竜の巫女”こと山根美子は相変わらず恥ずかしそうに俯くばかりであった。

恥ずかしさを誤魔化すように美子は切り出した。


「そんな事より今回の賭けの内容です」

「ああ、ウチのキリエとそちらの古賀真一はお互いの正体に気が付くか?でしたわね、結果は気付かないに賭けた私の勝ちって事で」

「直接教えたらダメってルールでしたけどそれでもあんなに一緒に仕事出来るように手配してるのに気付かないなんておかしいですインチキです」

「そりゃ私がわざわざ偽物の資料を造って古賀真一を同名の別人だと思わせてるからね」

「やっぱりインチキじゃないですか」


美子が抗議の声を上げるが有紀はどこ吹く風で受け流す。


「答えは教えてないですよ~だ。・・・まあ、本音を言ったらむしろあの程度は自力で見破って欲しいんだけどね。あれじゃあまだまだキリエちゃんは下忍のままだねぇ~」

「こうなったらヤケ食いです、私もステーキ一枚追加ネギ塩ソースで」

「また太るわよ、胸が」

「せせっセクハラはやめてください」

「いいじゃない、それで旦那様が喜んでくれるなら」

「むぅ~~~」

「アハハハハッ」


ひとしきり笑った後、有紀は少し真面目な顔になった。


「それで、本当に私が次の“玄武”で良いわけ?私、外部組織なんだけど?」


美子がステーキと格闘しながら答えた。


「良いんだそうですよ?竜也さんも新堂君も下手に世襲制にするからダメなんだって言ってましたから」

「魔法使い新堂英一が・・・か」


有紀は少し考えた後答えた。


「そういう事なら有難く受けよう、だが私は黒龍だけに肩入れする気は一切無い、もし黒龍が私達の邪魔をするなら容赦はしないって覚えておいてね」

「いいですよそれで、でも黒龍はともかく私が困ったら高校の時みたいにまた助けて欲しいかな?」


美子はネギ塩ソースで口元が汚れた顔で微笑んだ。


「っ・・・敵わないなぁ~、ほらもう社会人なんだから口元をちゃんと拭く」

「えへへ~」

「そういう事なら前金でもっと奢ってもらうからね!!ステーキ追加ガーリックソースで、あとワインゼリーとシャーベットと紅茶」

「おっお手柔らかにね」


この街の夜はまだ始まったばかりだ。

次は馬場さんメインの話かも・・・気長に次もお楽しみに

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