第一章 『戦闘』
『ステータス』の魔法に詠唱を付けたので確認をお願いします
ヘッズウルフが目の前に現れたのは認識してから数十秒たってからだった。
ヘッズウルフの見た目はハークで見た通りだったが相対したときの威圧感は別物だ。漏れ出ている魔力が重く俺にのしかかってくる。
「グルルッ!」
低く唸っているヘッズウルフにとうとう尻餅を俺はついてしまった。それが幸をそうしたのか俺の頭があった所に風の刃が通過し後ろにあった木が削られる。
「ひっ!」
後ずさり少しでもヘッズウルフから離れようとするが瞬く間にヘッズウルフは俺に近寄り鋭利な爪を振り下ろしてくる。とっさに両腕で爪を防ごうと前にだす。
「え?」
両腕が宙を舞っていて俺から1メートルぐらいのところに落ちる。
呆然とした。目の前にヘッズウルフがいるが気にならないほど腕の状態の急変は凄まじかった。
肘から先がなくなり血が吹き出る。
「あ、あれ?ああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
腕がなくなったことにより混乱してしまう。
後ずさりしようとするが腕がないので倒れることしかできない。
そんな隙を魔物が、ヘッズウルフが逃すわけがなくさらに爪を振り下ろしてくる。それを横に転がり避けようとするが避けきれず背中が抉れ血がでてくる。
腕と背中から血が絶え間なく溢れでてくる。血の流しすぎで意識が朦朧としてきた。混乱していた頭が冷えていく。
朦朧とした意識で最後に見たのはよだれを流して俺を見下ろすヘッズウルフだった。
ああ、俺は死ぬのか。
体の感覚がない暗くなった中で俺が思ったのはそれだけだった。
それは俺がもっとも求め、渇望していた死だ。
死をくれたのが魔物というのがなんともいえないが俺は心から感謝を送ろう。
「ありがとう」
言葉が発せたかはわからないが気持ちをヘッズウルフに伝える。
ああ、やっと死ねる。
それを最後に俺の意識は完全に消えた──
──はずだった。
暗い森に光が溢れ始め周囲を照らし始める。
俺の体を食べていたヘッズウルフは光り出した俺の体に警戒し10メートルほど離れ静かに様子を見始める。
その現象は異常だった。
腕がなくなり胴体が半分ほど食べられた人間が急に光り始め、まるで時間が巻き戻るようにヘッズウルフにつけられたら傷が塞がり腕が戻っていく。
戻った体は傷だけでなく体中の青痣も癒えている。多分足の骨も正常になっているはずだ。
元の状態に戻ったためか光は消えていった。
俺は死んだはずだ。完全に、完璧に、明確にだ。死ぬ間際まで行った俺が言うのだから間違いない。あの境界線を俺は越えたはずだ。
なのに、なのに、なのに、なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのにっ、ナノニィィィィィィィィ!!!!!!!!
「なんで俺は死ねてないんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
わかってるんだ、俺が死ねなかった理由なんて。わかってるわかってるんだっ!でもっ、期待したかったんだよっ、期待しちゃったんだよ!あの安らぎを感じてしまったんだよ!それをただ、ただっクソみたいなもので奪われるなんて許せるわけないだろ!?死は俺にとって唯一の救いだろうが!?何がスキルだ!何が『不死の加護』だ!?そんなの求めてないんだって言ってんだろぉが!!!!
「ガァッ!!」
叫んでる俺にヘッズウルフ吠えながら飛びかかり爪を振り下ろす──
「黙れ」
が爪は俺に当たらず逆に俺の拳が一方の顔にあたりヘッズウルフが吹っ飛んでいく。
「お前が、お前がっ!希望を持たせたからっ、俺はこんなにも苦しくなっちまったんだよ!ああ、これは八つ当たりだよ。お前のせいじゃないってことは十分にわかってる、全部、全部っ、全部!あの愉快犯のせいだってことは!知ってるんだよっ。だったらこの感情はどうすればいい!?愉快犯はいない。ここにいるのは俺と魔物だけだ。ならお前にっ、ここにいる魔物にぶつけるしかないだろ!?」
理不尽だ。ヘッズウルフはただ腹を満たす為だけ、生きていくための殺人を行っただけなのに殺した人間は蘇り顔を一つ潰され八つ当たりされている。
だが魔物はヘッズウルフは戦意を一つも怯ませず俺に殺意を向けている。
それが癪にさわる。
「イラつく、ああイラつくっ、魔物も愉快犯もこの世界もっ何もかもが癪にさわる。だから殺してやるよ俺をイラつかせた魔物を!」
戦闘が始まった。
持っていたナイフは腕を飛ばされたときに遠くへいっている。持っている武器は何もない。
最初に攻撃したのはヘッズウルフだった。
両者は10メートルの間合いを開けている。それを瞬時に詰め首に噛みついてくる。
俺は横に転がり避けすぐに立ち上がり魔法を使用する。
「『ハーク』」
使用したのは空間魔法『ハーク』。この魔法は展開した範囲の情報を得る魔法だが、暴走させたときに気付いたことがある。『ハーク』は範囲内の情報を正確に得る。それが筋肉の動き、鼓動の音、範囲内の攻撃の次の位置まで明確に捉えることができるのだ。それは俺の使用者の動きも全てだ。
ただ範囲は5メートルに設定する。。5メートルに設定したのは広すぎると俺の頭が情報を処理仕切れなくなってしまうからだ。魔法はイメージと魔力の操作が大事だと思う、多分だが。だからイメージをきちんとして魔力を操作する。
『ハーク』が発動しヘッズウルフの方を向こうとしてまた横に飛ぶ。
頭があったところを風の刃が通り過ぎる。『ハーク』の範囲内に入った時に通過位置をすぐに理解し避けたが『ハーク』を展開していなかったら頭を切り刻まれていただろう。
「予想通り!」
俺がイメージした通りの効果を『ハーク』は発揮してくれたが入ってくる情報が多すぎる為頭が痛くなり始める。だが我慢できないほどの痛さというよりこれより痛いものを徐々に負わされていくのをやられたのがあるのでこの程度の痛みは痛みとして感じられなくなってしまっている。そんな自分が大嫌いだが『ハーク』を使うには適しているのでひどい皮肉だが。
立ち上がりヘッズウルフの方を向く。
必殺のタイミングだったのを避けられのでヘッズウルフは警戒を強めその場で唸っている。
魔物が魔法を使えることに驚いたが魔力を持っている時点でその可能性を思いつかなか自分に怒りがわく。その怒りも全てヘッズウルフに叩きつけるようにこちらも魔法を放つ。
「『焔よ敵を穿て』『フレイムバレット』」
使ったことのない魔法だがイメージをし6つの炎の球を周囲に展開させヘッズウルフに向かって放つ。
ヘッズウルフは炎の弾をかわしながら俺に突っ込んでくる。だが俺の『ハーク』はまだきれていないため5メートルに入って爪を振り下ろすがそれをくる位置がわかっている俺にはかすりもしない。
物理技は当たらないとわかったのか5メートルの範囲内で魔法を放ってきたがこれも難なく避ける。
懐に入り拳を握りヘッズウルフを殴る。力を込めた一撃でまたヘッズウルフは吹き飛び一方の顔が完全になくなった。
「『私の涙は敵を貫く』『ウォーターバレット』」
水の球が周囲に展開しヘッズウルフに向かって飛んでいく。かわしきれなかったのか6つの弾のうち3つが被弾し足が一つ吹き飛ぶ。
ヘッズウルフは俺に勝てないとわかったのか背を向け逃走を開始する。
「逃がすかよ!」
限定的に広げていた『ハーク』を大きく広げヘッズウルフを捉え追いかける。俺をまくためか魔法に当たるのを防ぐためかジグザグに走ったりし狙いを定まらせないようにしている。
足が一本無いにもかかわらずヘッズウルフの逃げるスピードは速く追いつけない。
魔法でヘッズウルフを狙う。だが直線的な軌道しかいかないバレット系ではあのように動くものには当てずらく何発撃ってもかすりもしない。
「どうすりゃ当てられる!?」
考えてる時でもヘッズウルフは遠くへ遠くへ逃げ続ける。
考えろ、考えろっ、考えろ!思考を止めるな、敵を殺すにはどうすればいい!?使える魔法には敵を追いかけて当たるのはない。考えろ、考えろ、考えろ──
──一つの可能性に思い当たった。
思いついたのは一つ。できるかどうかわからないが迷っている暇はない。即興だろうが何だろうがやれるもんをやるしかない。
大事なのはイメージだ。明確にイメージし頭の中で構築する。
そしてそのイメージを詠唱する。
「『焔よ敵を追い穿て』!『フレイムバレット』ォォ!!!!!」
魔法は発動されヘッズウルフに向かっていく。ジグザグに走ろうがどうしようがイメージ通りなら確実にこの魔法は当たる。
即興で試した魔法は狙い通りにジグザグに逃げるヘッズウルフを追う。
狙い通り6つの炎弾はヘッズウルフに当たり燃やす。ヘッズウルフは途中で息絶え、その場から動かなくなる。火はまだ消えず、ヘッズウルフの体を焼き尽くす。全てが灰になりヘッズウルフがいた場所にはコロンと石が残る。
結果は勝利。圧倒的とまではかないが魔物は死に俺は生き残ったのだ。
「俺生き残ったのか……」
感慨深いものなんてない。あるのはただ死ねなかった悲しみしか俺にはなかったのだ。
「この世界に俺を死なせてくれるやつはいないのか…?」
その疑問は吹いてきた風に溶けて消えていった。