旦那が浮気をしているかもしれない
最近旦那の様子がおかしい。
私に何か隠し事をしているみたいだし、休日はコソコソしながら長い間外に出ていたりする。
これはもうあれだ。浮気かもしれないな。最近ご無沙汰なのはそういうことだったのね。
しかし断定するのはよくない。まずは確認しなければ。
かといって探偵を雇うほどお金はかけたくないし、よくわからないからとりあえず本人に話を聞いてみることにした。
「ねぇ、最近何をコソコソしてるの? 休みの日はどこに行っているの?」
「えっ!? いやぁ……ちょっと散歩?」
この驚き方、怪しい。なぜ疑問形なのだ。まぁこれで私にばらしたくないことがあるのは確かだろう。
「ふーん、そっか。最近さみしいんだからちゃんと相手してよね。」
「わかってるって。 お前はそういうところ、ほんとにかわいいな。」
旦那の必殺技笑顔でなでなで。この技に私が何回やられたことか。でも今日の私は違う。絶対に尻尾をつかんでやるのだ。
翌週から、休日の旦那を尾行することにした。
意外と旦那の行動範囲は広く、足も速いので追いかけるだけで疲れてしまう。
二人の時はゆっくりなのに……ちょっと待ってよ。
そうして必死で追いついた先で見てしまった。私より若くてかわいい子と花を買っているあの人を。
あんなにやさしくて好きだった人に裏切られたショックで、私はもう何もかんがえられなくなった。
とぼとぼと家に帰り、家事もせずに寝室にこもり泣いた。ただ泣いた。
目を覚ますとすでに夜中だった。泣き疲れて寝てしまっていたのだろう。
「おはよう、疲れがたまってたのかな? 朝まで寝てた方がいいよ。」
優しい気づかいもうわべだけのものであることを知った私は、鳥肌が立ち、吐き気を催した。
「いい、それより話があるの。」
「なに?」
「最初に、今日あなたを外で見たわ。」
驚きを隠せない表情をしている。焦ってももう遅い。
「なにしてるか、知っちゃった。」
「いやぁ、ばれちゃったかぁ……」
その口調が許せなかった。
「ばれちゃった? 何なのその軽い言い方は! あなた自分が何をしたかわかってるの!?」
「え……?」
「最低ね、この浮気男。あなたに限ってそんなことないと思ってたけど、あなたも他の人と同じ。私に飽きたらすぐ捨てるんだ。」
「ちょっと! なんのこと? 僕は浮気なんてしてないよ!」
「じゃあ一緒にいた女はだれなの!? 若くてかわいくて、あなたのタイプの子じゃない!」
「あの人は違うって、とりあえず落ち着いて? ね?」
「何が落ち着いてよ! 知らない! 出てって!」
「話を聞いてよ、お願いだから。」
「うるさい!」
私はこの男を殴った。思いっきり、顔面を。
「あ……」
急に冷えていく。私の前には口から血を出した旦那が壁にもたれかかっている。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だから。 落ち着いた? 僕の話を聞いてくれる?」
うなずき、傷口をすすぎに行った彼を椅子に座って待つ。
死にたい。彼を傷つけ、彼に捨てられた私に生きてる意味なんてない。
帰ってきた彼の手には花束。
「それって……」
「今日買ってきた君へのプレゼント。それとこれも。」
さし出されたのは手紙だった。
「読んでいい?」
「もちろん。」
そこにはこう書かれていた。
『沙也へ。 沙也に伝えなければいけないことが2つあります。口ではうまくいえそうにないので、手紙にしました。
一つは、感謝。 いつも家のこと、ありがとう。家事のできない僕は大助かりです。
僕を癒してくれてありがとう。仕事から帰ってきたら君がいて、
僕はなんて幸せなんだろうといつも思っています。
僕と結婚してくれてありがとう。君との夫婦生活、とても楽しかったです。
他にもたくさんのありがとうがあるけど、言葉にしきれないので形にしようと思い、
今日は花束を買ってみました。
ダリアには感謝の意味があるんだよ? 知ってた?』
一枚目はここで終わっている。私は泣いていた。どうしてこんないい人を疑ってしまったのだろう。まして殴るなんて。
「ごめんなさい、私……」
「いいのいいの、気にしないで。勘違いされる方も悪いんだから。」
「そういえばあの女の人はだれなの?」
「二枚目に書いてあるよ。」
『実はお花を買うっていうのは僕が考えたんじゃないんだ。
仲良くなった看護師さんに、妻へ感謝の気持ちを伝えたいって言ったら、これを提案されてね。
このお花も選んでもらったんだ。
実は最近、休日は病院に行ってたんだ。僕、そろそろ死ぬらしいよ。
明日から入院しなくちゃいけないみたい。
それだけはってなんども引き延ばしてもらってたんだけどね。
あと一か月くらい? 退屈だよね、一か月も病院で暮らすなんて。
というわけで、離婚しよっか。
妻をおいていなくなっちゃうやつのことなんか忘れて、新しい幸せを見つけてください』
「どういうことなの、これ?」
「そういうこと、なかなか言い出せなくてさぁ。」
涙が止まらない。なぜこいつが死ななきゃいけないのか。
「離婚届、用意してきたんだ。書いてくれるよね?」
破り捨てた。
「あなたが死ぬまで、私は一緒にいる。そうしたいし、そうしなくちゃいけない気がする」
「そう言うと思ってたんだよな。」
つらいぞー?とおちょくるような彼を見ていると本当に死ぬのかわからないな、と思う。
その日は一緒に寝た。
代わり私が死ねるならいいのに。というと彼は怒って私をぽかぽかとたたく。そんなことが幸せに感じた。
「入院してる間は、毎日お世話しにいくから。」
「いいよ頑張らなくても。」
「いやいや、頑張らせてくださいよ。あっ、そうだ。私もあなたに言ってなかったことがあるの。」
「なに?」
「私、妊娠してる。」
「ほんとに? もっと生きたかったなぁ。子供の顔は見たかったかも。」
「空から見ててよ。私たち二人で頑張るから。」
「そうだね、目が離せないよ。」
「もっと安心しててもいいのに。」
「はは、君だから心配なんじゃないか。新しいお父さん、見つけてきてもいいんだよ。」
「いらないよそんなの。」
「普通に考えたら生活厳しいでしょ。俺の友達に奥さん死んじゃった人いたじゃん。あの人も再婚してたし。したくなったらすればいいよ。君やこの子は、僕の分まで幸せに生きてもらわないと僕が怒る。」
「わかったわかった。おやすみ。」
次の日から彼は入院した。私は約束通り毎日通った。もう、一人の体じゃないんだからゆっくりしてなよ。なんていわれたが、お前は人の気持ちを理解していないぞ。旦那よ。
許可が出たら散歩して思いでの場所に行ってみたりもした。
子供の名前は自分でつけたい!と言って一緒に考えたりもした。生まれるころにはもうあんたいないじゃん。なんでそんなに楽しそうなんだよ。
彼が死ぬ前の日、私に言ってくれた。「最後までそばにいてくれてありがとう。早くいなくなってごめん、許して。愛してる。」と。
私も愛してる。そう伝えて私は最後のキスをした。