カルバス王国
応接室に移動して、新しくいれてもらった紅茶に口を付ける。
向かいに座ったシューの顔を見ながら、まずは何を聞こうか考える。
「シュー、倒れていた私を見つけてくれた時そばに荷物とか落ちてなかった?」
「ああ、一応調べたけど何も無かったよ」
やっぱり。
記憶では鞄に躓いて転んだから、この世界には手ぶらで来た事になる。
ということは私は無一文かぁ。
暫くの間、体調が良くなってこの世界に慣れるまではシューに厄介にならないといけないか。
「リノ は生活の心配はしなくても大丈夫だよ。王宮に挨拶に行ったら、多分王から話があると思う。
今までの渡り人と同じく、王国での身分の保証と、生活の保証は必ず認められるから」
「それと、リノはこの屋敷で自由に暮らしてくれていいから。慣れて落ち着いたら、好きな事やしたい事があれば言ってくれれば協力するよ」
「ありがとう。シューがそう言ってくれて心強いよ。甘えさせてもらうね、これからの事もゆっくり考えてみる」
シューは立ち上がり、私の前に来ると私に手をのばした。
握手かな?
そう思い手をのばすと、私の体をひょいと抱き上げる。
「シュー、抱っことか恥ずかしいよ」
「リノはまだ、本調子じゃないからね。しばらく部屋で休んだほうが良いな。
疲れた顔をしているよ。部屋まで送るからゆっくり休んで」
「うん、ちょっと疲れたかも。ベッドでゆっくりさせてもらうね」
シューは危なげなく、私を抱えたまま階段を登って部屋まで送ってくれた。
「リノが元気になるまでエミリアを専属に付けているから、わからない事とか色々教えてもらうと良い」
エミリアは、部屋で待機していてくれた。
「お任せくださいませ。シュランブルード様
精一杯勤めさせて頂きます」
シューは頷くと部屋を出ていった。
寝間着に着替えお昼ご飯まで少し寝ると疲れも取れた。
お昼ご飯を食べた後、エミリアに刺繍を教えてもらいながら、おしゃべりする。
「やっぱり言葉が通じるのって良いね。私お兄ちゃんしかいなかったから、エミリアが仲良くしてくれて嬉しい」
「私もリノ様とお話出来る様になって嬉しいです。リノ様、これから沢山おしゃべりしましょうね」
「あ、じゃあこの国の事教えて。私王様に会わないといけないみたいだし、色々教えて欲しい」
「そうですね。
まず、リノ様に知っていて頂きたい前提として、この国は王国です。
カルバス王国といって酪農と農業が盛んです」
カルバス王国はレントゥン・カルバス王 三十二歳が統治している。
非常にのどかで住みやすく、国民も穏やかでのんびりした人が多いらしい。
四季があるが過ごしやすく、災害や天災もほとんどないらしい。
カルバス王国には八つの領地があり、それぞれを領主が治めている。
なんと、その一人がシューだった。何気に偉い人だったんだ・・・
酪農や農業が主体なだけあって、自然が豊かで湖や森林がほとんどを占めている。
しかし、平和な王国にも問題があり、魔物が出る。その討伐に魔法使いが活躍しているが、魔法使いは希少でシューの領地には一人も居ないらしい。
何か在れば王都に申請し、魔法使いが派遣されるシステムになっている。
また、各領主は騎士も兼ねており、王国の要請に応える義務もあり、普段から鍛えているそうだ。
シューも私を部屋まで送ってくれた時軽々と抱き上げていたし、手のひらも固かった。
身長も高く多分百八十位はありそうだった。
私は百四十五センチなので、抱っこされた時視線が高くて少し怖かったのは内緒だ。
日本と気候も似ているみたいだし、魔物もこの辺には出ないらしいので安心して暮らせそうかな。




