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最終章  『回帰』


 終業式の朝、今日も今日とて圭はローランド邸に続く坂を上る。

 生活に余裕が出たお陰で自転車の重みも悪くないと思えるようになった。

 金がなくて乗ってるんじゃねーぜ。

 兄貴がくれた自転車だから乗ってるんだぜみたいなノリだ。

 黄色の通学帽が数メートル先で揺れている。

 いつもより三割増ではしゃいでいるのは明日から夏休みだからだろう。

 ちなみに圭の予定は白紙だ。

 いつものように小学生が、

「「「「「モーニン!」」」」」

「おはようございます」

 相変わらず無表情なセシルさんの挨拶に苦笑い。

「おはようございます……兄、じゃなくてセシルさん」

「ええ、おはようございます」

 ザッ、ザッと道路を掃くセシルさんを見ながら圭は自転車を止めた。

 この人が兄貴なんて信じられないよな。

 オッパイだけじゃなくヒップラインとか女性そのものだし、と心の中でセクハラ発言。

「そう言えばさ、あの事件ってどうなったんだ?」

「犯人は死んでしまいましたし、警察が辻褄を合わせるのでは?」

 セシルさんは興味がなさそうに答えた。

 と言うよりも本気で興味がないのだ、この人は。

「一人暮らしを続けるつもりですか?」

「血縁はあっても戸籍上は他人だからさ。世間体が悪いじゃん。俺がいたらシャノンさんとエロいことができなそうだし……つーか、子どもが二人もいて、どうしてるの?」

「こ、この、訴えますよ」

 セシルさんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「シャノンさんのお陰で遺産も取り戻せそうだし、大学を卒業するまで援助してくれるって言ってくれたし、それに好きな女の子と一つ屋根の下って拷問じゃん。下手に手を出したら兄貴に殺されかねないもん」

「同意の上ならば構いません。もっとも、あの子は恐がりですから余程のことがない限り気持ちを打ち明けないでしょうが」

「ん?」

 セシルさんは太股を指差す。

 これもよく考えれば分かること……セシルさんがクリスの足を治せない訳がない訳で、

「実の母親から愛されなかったことが原因なのでしょう。クリスは他人から向けられる好意に懐疑的で、とにかく最初は他人を遠ざけようとします」

「ああ、それで」

 あの刺々しい態度も、シャノンさんが後悔している理由もそれが原因だったのだ。

「ちなみに、カルはMです」

「聞いてねーよ!」

「私を暗殺するために派遣されたのですが、ボコボコに殴った後で拷問に掛けたら、驚くほど臆病で、苛められるのが好きな娘に」

「あれはアンタが原因か! つーか、何をした!」

「水を飲ませて、こう、逆さの状態でM字開脚を」

「聞きたくなかった! 俺のセシルさんのイメージが壊れた!」

「失礼な。こう見えても、私はシャノン以外の男性は知りません」

「女は……って、指で数えてる!」

「カルを含め、五人くらい」

「多いよ!」

「女性に対しては百戦錬磨の私もシャノンに対しては防戦一方になってしまうのですから不思議なものです」

「聞いてねーし」

 でも、あの恥じらうような仕草が演技じゃなくて安心した。

 シャノンさんの懐の深さは同じ男として学ばなきゃいけないような気がする。

「話を戻しますが、クリスは圭と一緒にいたいと考えたのでしょう。けれど、告白する勇気がないから、歩けないと嘘を吐いた」

「流石、母親」

 全く、何処までこの人の手の上なのか。

「待たせたな。母上、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 セシルさんは恭しく頭を垂れた。



「知らない人がおいでおいでしてるぅ! えっ、三途の川? 三途の川なの? 出掛けな~い! 口笛吹けな~い! びっくりしようよ! わっは~! 調べて納得! 声優のチョーはチョーさんだったんだよ! なんだってぇ!」

「朝っぱらから、無駄にテンションが高いなぁ」

「うむ、『たんけんぼくのまち』をラップ調で歌ってみた」

 いつものように藤山公園を迂回、クリスと益体のない会話をしながら高校へ続く坂を下る。

「ケイは……セシルと一緒に暮らしたくないのか?」

「一緒に暮らしたいって気持ちはねーな。気持ちの整理がついてないってのもあるし、今更感があるのは否定できねーし、他にも理由はあるんだけど、兄貴がセシルさんとして手に入れた居場所に割り込むのはダメな気がするんだよ」

「そうか」

 それ以上、クリスは何も言わなかった。

 校舎裏の自転車置き場に自転車を止める。

 教室に入るとクリスは優花の所へ、圭は自分の席へ。

「どうして、お前がここにいるんだよ」

「……私がここにいちゃダメなの?」

「悪くねーけど」

「じゃあ、良いじゃない」

 どんな理屈だよ、と思っても黙っておく。

 美咲は圭の机に寄り掛かり、

「……傷の具合は大丈夫なの?」

「セシルさんに治療して貰ったし、病院にも行ったから心配すんな」

「別に心配なんてしてないわよ」

 プイと顔を背ける仕草は少しだけ可愛らしい。

 あまり挑発的なことを言わなくなったし、美咲なりに責任を感じているんだろう。

 予鈴が鳴り、美咲と交替するようにクリスが席に着く。

 ふと優花と目が合う。

 だが、優花は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 小便漏らしてんじゃねーの? 発言が悪かったようだ。

「……委員長と何を話していたんじゃ?」

「ケガの調子はどうよ、って今更な話だよ」

「ふ、フラグが立ちまくりじゃ!」

「立ってねーだろ。優花なんて目も合わせてくれねーし」

「皆さん、おはようございます♪ 明日から楽しい楽しい夏休みですね♪」

 投げやり気味なハイテンションで西郷先生が教室に飛び込んできた。

「こら、石動君! 先生の話を聞きなさい!」

「はい、申し訳ありません」

 圭は立ち上がり、西郷先生に深々と頭を下げた。

 これが西郷先生との約束……真面目に授業を受けて、自分が悪くないと思っていても注意されたら謝ること……である。

 この取引は西郷先生にとってメリットがあったらしい。

 具体的には不良である石動圭を従わせられると言うことで教師としての指導力を高く評価され、生徒からも一目置かれるようになったと。

 申し訳ないと思っているらしく放課後は図書館で勉強を教えてくれたり、休みの日には手料理を作ってくれたりする。

「分かれば宜しい♪」

「むぅ、むぅ」

 圭は不満そうに唇を尖らせるクリスから顔を背けた。

 フラグが、フラグが、と熱に浮かされたように呟いているが今更だ。

 こいつは馬鹿みたいに鈍感なのだ。

「ああ、でも、ハードル高いよな」

 鬼よりも強い兄貴……セシルさんを思い出し、圭は頭を抱えた。



『鬼、来たれ!』を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。

最初に触れましたが、こちらも某社に送り、落選した作品です。

もう5回も、6回も二次選考落選を繰り返して、

一時は「俺はダメだ! 仕事も、小説も、何一つできないダメ人間だ!」

などと鬱になっていましたが……お陰で気付いたこともあります。

馬鹿でも、ダメでも、私はお話を考えることが好きなのです。


では、繰り返しになってしまいますが、

拙作を読んで頂き、本当ににありがとうございました!

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