序章 『人間狩り』
狩りは迅速に行わなければならない。
狩場の状態と獲物の行動パターンを見極めることも、ある程度の冷静さを保つことも重要だ。
けれど、何を心掛けているか? と問われれば、彼はそう答える。
次に重要なのは手加減だ。
最初は戸惑うばかりで、捕獲の仕方さえ分からずに早死にさせてしまった。
ようやくコツを掴んだのは獲物が十を越えてからだ。
捕獲したばかりの獲物は泣き喚く。
やがて、自分の運命を受け容れて静かになる。
心の芯まで絶望に染まったと言うべきなのかも知れない。
けれど、絶望した獲物は長く保たない。
動かなくなれば使えそうなパーツを抜き取り、残りは捨てる。
この半年は順調と呼ぶに相応しい時間だった。
そう、邪魔者が現れるまでは。
そいつは優れた狩人だった。
何度も、何度も追い詰められたが、幸運だったのはそいつにも邪魔者がいたことだ。
それも一人や二人じゃない。少なくとも二十人以上。
そいつは何度も邪魔者を蹴散らし、幾度かの戦いの末に動くのを止めた。
邪魔者と戦いながら自分を始末できないと悟ったからだ。
危うい均衡を保つ二つの勢力……その間を泳ぎながら今日も狩りを行わなければならない。
天秤が一方に傾けば、どちらかの勢力に殺されてしまうだろう。
だから、今まで以上に真剣になるし、今まで以上に獲物を得た喜びが大きい。
楽しいのだ。
これほど充実した時間は今までの人生で一度もなかった。
こんなにも真剣に生きようとしたことはなかった。
何かを忘れているような気がしたけれど、忘れてしまうくらいなら大したことじゃないだろう。
ゆっくりと巣穴から這い出し、月を眺める。
生きるために、人間狩りを始めよう。
精霊騎士ヴェルナ同様、某社に送って、一次選考落ちした小説です Orz
掛け合いに重点を置いたライトな小説を目標にしていたのですが……。