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しろがねの翼  作者: 夢屋満月堂
chapter5「蒼樹の森と花守人」
30/36

29:幻惑の森

 太陽が中天に差し掛かる頃。波間を駆ける船の行く手に、光をはじく何かが現れた。


「姉ちゃん達、もうすぐ到着だ! 降りる準備をしてくんな」


 甲板に立つルヴィエは目を細め、近付く物体を視界に収めた。突如現れたそれは、大きな三角の鏡を張り合わせた四角錘だ。曇りのない銀面が眩しく輝いている。

 人呼んで"鏡のピラミッド"――海底遺跡の入口となる転送陣施設だ。

 船どころか城塞でも呑み込める大きさの構造体は、普通に見ただけでは本物の鏡で出来ているように思えるだろう。しかし精神位階に感覚を巡らせれば、その認識が誤りだとわかる。

 目の前にあるのは実際のところ只の力場だ。硬い質感を感じさせる鏡面は、風雨を防いでもヒトやモノを遮ることはない。

 それを実証するように船は目の前の鏡面をすり抜けた。


 外見は鏡そのもののピラミッドだが、中からは壁など存在しないかのように風景が素通しだ。しかし力場の恩恵で波風は凪いでおり、気温や湿度も快適に保たれていた。

 平らな水面の中心には純白の円が浮かんでいる。まるで舞台のような白い浮島だ。その中心にあるのは、もちろん遺跡への転送陣だ。

 船は滑るように接岸し、ルヴィエとエルは転送陣の傍らに降り立った。

 彼女らを見送るのは船主である男と操舵を手伝っていた少年である。


「明日また迎えに来るから、今と同じ時間にここで待ってな」

「ええ、遅刻しないよう気を付けますわ」


 ルヴィエは右手に持つ懐中時計を軽く掲げた。時計はそれなりの高級品だが、遺跡では時間感覚が曖昧になりがちだ。携帯している探索者は多い。

 ルヴィエは文字盤に目を走らせた。現在は丁度十二時半。


「あ、あのっ。明後日まで戻らないようだったら、協会から調査隊が出ます。でも、どうかちゃんと無事に帰って来てくださいねっ!」


 操舵室に籠もっていた少年が頬を赤くしながら言う。懸命な態度が微笑ましい。


「死体を積んで帰るなんざ気分のいいこっちゃねえし、綺麗な姉ちゃんが減んのは世界にとってひでぇ損失だ。てなわけで健闘を祈るぜ!」


 傍らに立つ船主は親指を立てて"幸運の印"を作り、日に焼けた顔でニヤリと笑った。


「了解した、ここまで連れてきてくれたことに感謝する」

「では、また明日お会いいたしましょう」


 探索へ向かう二人を残し、海の男たちは外洋へと漕ぎ出して行く。船は素早く風を掴むとぐんぐん遠ざかっていった。

 船影をしばし見送った後、隣の女剣士が息をつく。


「……行くか」

「ええ、そうですわね」

「ではお二方、気を引き締めて行きましょう。僕は何か異変が起こらないか見張ってますよ」


 ルヴィエは小さく頷きを返すと、燐光を放つ陣に足を踏み入れた。

 光が弾け、空間がぐにゃりと歪んだ。



* * *



 一行を迎えたのは深い青に包まれた世界だった。とても静かな空間だ。地上よりもゆっくり時が流れている気がする。

 上を見やれば、細く差し込む光の筋が儚くたゆたっていた。


「珊瑚の森……。こんなに規模が大きいなんて思いませんでした」


 アークが感嘆の声を上げる。陣の周囲にはぐるりと珊瑚が生えており、その多くは巨大に育った株だった。

 成人男性が数人がかりで腕を回しても、なお余るような太い幹だ。それが幾本も生えている。網目状に分かれた枝は、天を突くばかりに伸ばされていた。


「物凄くでかいな。それに綺麗な色してる」


 エルもまた、周囲の様子に目を奪われているようだった。大樹は全体を鮮やかな青に包まれているが、その色合いはそれぞれに異なる。澄んだ浅葱に鮮やかな群青、夜空の瑠璃に紫紺の暁闇。少しずつ違う青が繊細なグラデーションを描いている。

 それらの足元には二回り小さな珊瑚が生えており、こちらは赤色を基調としていた。種が異なるのか枝振りはずっと華奢だ。血赤や濃緋、桃や薄紅に染まった枝々が、青の世界にはっとするような華やかさを添えている。


「不思議な気分になりますね……」

「遺跡は大抵が現実離れした造りだけれど、ここも凄いな」


 地面には白い石片が敷き詰められ、青白い蛍火を生み出していた。舞い踊る光に濃淡を描く景色はまるで御伽噺の挿絵のようだ。

 世界中探してもここでしか見られない絶景である。しかし彼女達は物見遊山に来たわけではない。


「さて、見とれるのも程々に。目的地はあちらですわよ」


 ルヴィエは手を鳴らすと同行者たちの注意を引いた。時間は有限である。

 すいと手を伸ばして宙の一点を示す。指の先、珊瑚の枝が重なる向こうに蒼銀にきらめく水晶の塔があった。

 離れていても良く目立つ、大きな建物だ。

 これは探索者たちに"蜃気楼の塔"と呼ばれる存在だ。ただの幻なのか、確かな実体を持つのか、それすらも定かではない謎めいた建造物。


「これから嫌でもこの景色を見続けることになりますわ。ですから早く先へ進みましょう」

 

 なにしろここは迷い森と呼び習わされる場所、数刻後には二人とも今の言葉を身をもって実感するだろう。

 そう考えつつ、ルヴィエは鋭く塔を見据えた。



* * *



 ――そうして、森の奥へ進み始めて数時間後。


「来ました。右手方面に敵群! 左上方から大型個体もこちらに向かってます。数は三体」


 幾度目かの襲撃を感知して、アークが声を張り上げた。ルヴィエは待機させていた術式を立ち上げる。

 彼女達は間断なく襲い来る守護体相手にずっと戦い続けていた。評判通り、敵との遭遇はかなり多い。珊瑚の陰からひっきりなしに湧いてくる。


「またか……全く、次から次へと」


 エルの悪態を耳が拾う。ちなみに海底という場所のせいか、守護体は海棲生物を原型としたものが多かった。今現れたのは獰猛な牙と鋼の鱗を持つ魚群だ。

 体長は生まれたばかりの赤ん坊ほど。普通の魚と変わらない大きさだが、それら数十体が一群となって突き進んでくる様子は迫力がある。カチカチと歯を鳴らす風貌は明らに肉食性で、ぼんやり立っていればすぐ噛み裂かれてしまうだろう。

 だが彼女たちにとっては恐るに足らない。ルヴィエは宙に手を差し伸べた。


「鬱陶しい魚ですこと」


 バチィッ! と雷撃のはぜる音が響く。不用意に近づいた魚が数匹まとめて吹き飛んだ。

 素早い起動と堅牢さが持ち味の術式は敵の侵入をしっかり防いでくれるだろう。球状に障壁を展開し終えたルヴィエは小さくため息をついた。

 初手の対処はこれで良い。だが相手を倒すためにはもう一段高い火力が必要だ。

 少しばかり手間ではあるが、障壁の維持と平行して別の魔術を構築していく。用いるのは高威力・広範囲の殲滅用術式だ。

 両手それぞれに術式を掲げるルヴィエ。その傍らでは、エルが別の方向に意識を尖らせていた。


「デカいのも来たな」


 視線の先にはひときわ大きな影がある。珊瑚の隙間からのそりと現れたのは、鮫の特徴色濃い守護体だった。

 小舟を丸呑みできそうな体躯に、鋭い輪郭を持った個体だ。とりわけ目立つその鼻先は、まるで槍のように長く突き出していた。


「アレに突っ込まれたら流石に防げませんから。ちゃんと牽制しておいてくださいましね?」

「わかってる」


 探索者達から突撃鮫と呼ばれる守護体は、尖った鼻先をこちらに向けてぴたりと構えた。無機質な目が赤く光り、鋭い切っ先に周囲のマナが集まっていく。

 "突撃攻撃の威力は高く要注意。だが溜め中の隙は多い"

 そんな情報を思い出すルヴィエの横で、エルは腰に収めたナイフを抜いた。鋭い呼気と共に両手で放たれた刃は六本。目にも止まらぬ速さで空を走り、鮫の鼻先に命中する。

 接点が小さな爆発を起こす。守護体が溜めていたマナと、投げたナイフに込められていたマナ。両者が衝突し、力が相殺されたのだ。

 小さくない衝撃を受けた鮫は、たまらず身をくねらせる。消滅させるには程遠いが、出鼻を挫くには十分だ。


「よっ、と」


 役目を終えた刃は空中で反転し、吸い込まれるようにエルの手へ戻る。おそらくは挙動制御を仕込んだ魔術具だろう。


「面白い道具です。その指輪とナイフにそれぞれ術式が刻まれてるんですか?」

「ああ。おかげで投げてもこの通り。結構マナを喰うけどな」

「自由自在ですねー」


 水晶と呑気な会話を交わしながらも、彼女の手は閃き続けている。鮫へ放たれる刃は正確無比だ。過たずに鼻先を捕らえ、マナの蓄積を許さない。

 突進攻撃は厄介な威力を持つが、出を潰していれば大した脅威にならない。そして時間を稼いだ後は再びルヴィエの出番である。


「さあ、仕上げますわよ」


 術の構築を終えた彼女は式の円環を閉じた。文言が繋がり合って意味を成す。巡る力は世界へと働き、意図した現象を引き起こす。

 術式環が光を放ち、大きく弾け飛んだ。膨れ上がった光は敵に触れた瞬間に爆炎の花を咲かす。紅蓮の狭間に影がのたうち、それらが消えるごとに大量の魔石がばらまかれていった。

 魚達は数こそ多いが防御力は高くない。おかげで魔女の歌――魔法を用いるまでもなく焼き尽くせる。


「楽勝だな」


 エルの言葉に軽く頷く。戦闘は軽くこなせている。


「当然ですわね。けれど問題はこの先でしてよ」

「本当ならこの調子でどんどん進みましょう、と言いたいところなんですけどねぇ」

「そうだな。塔も近いしそろそろか……」


 三者いずれの声にも、疲労と警戒の色が混じっている。珊瑚の枝の合間には、ぐっと近くなった陽炎の塔が見えた。

 このまま進んだならば、五分と経たず塔の正面へと辿り着けるだろう。

 きちんと前進できればの話だが。


 唐突に、鈴を振るような音がした。硬く透明に響く音だ。

 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ――。聴覚を鈴で埋め尽くすように音の驟雨が降り注ぐ。同時に景色が融け始め、視界がとろりと混ざっていく。

 そして。


「また、戻りましたわね……」


 気付いた時には、見覚えのある光景が広がっていた。彼女らが今立っているのは、魔術文字の円盤の上だ。

 珊瑚に囲まれた白い転送陣。つまり探索の出発点である。


「また戻ったな。アーク、今度は何かわかったか?」

「いえ全然……。警戒を続けていましたが、術式発動の気配はなし。マナの状態にも変化が見られません」

「わかってはいましたけれど、難物ですわね」


 眉根を寄せてルヴィエは言う。戻されるのはこれで三度目だ。神経を尖らせ、術を巡らせ、現象の仕掛けを解き明かそうとしているのだが成果は出ない。


「ああもう、何が起こってるんだ!?」


 エルが呻く。陽炎の塔は変わらず目の前にそびえている。

 蒼樹の森に張り巡らされた不可視の術。

 それを破るすべは、未だ見えない。



* * *



 何度塔へと向かっても、前触れなしに"戻される"。このまま歩き回っても事態は好転しそうにない。

 そうした訳で一行は探索を中断していた。現在は作戦会議を兼ねての休憩中である。


「気を付けていれば何かしらわかると思ってたんだけどなぁ……」


 地面にどかりと座り込み、携帯食をかじりながらエルはぼやいた。口にしているのは木の実入りの小麦菓子だ。蜂蜜の甘さがささくれた心に染み渡る。

 彼女たちが居るのは転送陣のすぐ近く。周辺は小さな空き地となっており、守護体たちの来ない安全地帯となっていた。

 

「転移ではなく幻術かしら。それにしてもマナの動きが無さ過ぎますわね」


 香草茶を口にしながら語るのはルヴィエだ。仕草は変わらず優雅であるが、目許に浮かぶ表情は険しい。


「僕も幻術の可能性が高いと思います。転移ならもっと分かり易くマナが動くはずですから。でも、術の起点がわかりませんね」

「いくら隠してたって、仕掛けた瞬間は変化があるはずなのにな……」


 この三人、特にアークは感知能力が飛びぬけて高い。だというのに何も掴めないとは予想外だった。油断しきっている時ならまだしも、警戒した状態で異常を感じ取れないとは思えないのだが。

 エルは頭痛を感じて首を振る。彼女たちを出し抜くほどの隠蔽が為されているのか、あるいは何か見落としているのだろうか?


「そもそも術の起点は森の入口か、歩いている最中か……。どこからどこまで幻なんだろう」

「まるきり全てが幻覚ではないと思いますわ。この地で命を落としたり傷を負う探索者がいるのですから。魔石もきちんと得られますのよ?」


 そんなルヴィエの台詞に、「だよなぁ……」と同意してエルは頭を抱えた。この森に足を踏み入れた者はやがて入口へと戻される。たとえ物言わぬ死体でも例外なく戻るのだ。転送されている感じは受けないというにも関わらず、気付けば景色が変わっている。

 故に幻術かと考えた。

 しかし、森の中での体験は極めて自然なものでもある。負傷はするし腹も減る。遺跡から持ち出される物も実際にあり、特におかしいとは思えないのだ。


 だが、少しの沈黙を挟んでアークが反論の声を上げる。


「……待ってください。幻術内部での行動に応じた損傷の再現、及び物質生成が行われているならば。戦闘をしている最中も僕らは眠っていて、実は全てが幻かもしれない」

「んな無茶苦茶な……いや、道理を曲げて無理を押し通すのが遺跡だったか」


 否定の言葉をエルは途中で呑み込んだ。そんなものは反則だと言いたいが、あらゆる不条理がまかり通るのが遺跡というもの。なにせ千年の時を越えても解き明かせない、本当に人の手が産んだかすら怪しい存在なのだから。


「あれこれ悩むのが馬鹿らしくなってくるような仮定ですけれど、何か根拠がおありかしら」

「……どうしても、ここの空気に嘘臭い気配を感じるんですよ。整い過ぎているだけではなく、どこかずれている。何かおかしいのは間違いありません」


 鋭く問う魔女に対してアークは強く言い切った。彼なりの確信があるらしい。

 嘘臭い気配と言われてみればそんな気もしないではない。エルは改めて周囲を見回した。

 マナは整然と流れ、僅かな綻びひとつない。完璧に調和した環境だが、その揺らぎのなさは確かに自然ではありえない。

 だが、彼女はまるで気に留めていなかった。遺跡に入った瞬間からずっとこの状態だったからだ。ここには"海底に居住空間を構築する"という途方もない術式が敷かれている。他と違う空気で当然だと思っていた。


「――最初からずっと、か」

「どうかしましたの?」


 彼女はすぐには返事をせず、地面を見つめて考え込む。


「なあ、海の上にあった転送陣。あそこなら余計な仕掛けがあってもわからないんじゃないか?」

「――あ」


 数時間前を思い出す。いつものように気軽に跳んだ。だがあの瞬間なら、多少の"混ざりもの"があってもわからない。


「入口が既に罠だった可能性は、十分にありえますわね」


 顎に指を当てて魔女が呟く。目に宿る苛立ちが薄れ、鮮やかな光が戻っている。


「では、一度戻って調べてみましょう!」


 アークの声も弾んでいる。

 袋小路を出られるかはともかく、まだまだ足掻くことは出来そうだ。

 エルは残りの携帯食を口に押し込むと、勢いよく立ち上がった。



* * *



 海底から海上へ。鏡のピラミッドまで戻った一行は、最初の転送陣の前に立っていた。

 エルは水晶を左手に握り、術式と対峙している。アークと視界を共有する彼女には陣を構成する式の全貌が見えていた。

 円陣に刻まれた文字を起点として複雑な式が広がっている。三次元的に重なる数十個の術式環。膨大な文詞の連なりを見た瞬間に彼女は読み解きを諦めた。解析はアークに任せ、彼が能力を発揮できるように集中する。


「巧妙に隠されていますが……転移と併せて幻術が組み込まれていますね。エル、貴女の推測が大当たりです」


 術式と向かい合ってしばしの後、アークが明るい声で言った。それを聞いた残る二人は深く安堵のため息をつく。どうやら、この探索行が無為にならずに済みそうだった。

 彼は引き続きより深い階層で解析を行っている。体内を巡る光を感じながら、エルはぼんやりと思いを馳せた。


「タネがわかれば単純な仕掛けだったな。……私が思い付いたんだ、これまでも誰か気付かなかった筈が無いのに。何で今まで情報が無かったんだろうな?」

「調べても確証を得られなかったのだと思いますわ。この術円陣、わたくしの目からは転移以外の機能があるようには見えませんもの」


 口惜しげな声でルヴィエが返す。そこにアークも言葉を添えた。


「かもしれませんね。とっても意地悪な隠し方をしてますし」

「幻術に関わる部分はどこなのかしら」

「ちょっと待ってくださいね。今わかりやすくしますから」


 声と共に術式の一部が明るさを増していく。そうして浮かび上がったのは、文章ではなく単語ばかりだった。細切れの言詞が全ての輪の中に飛び飛びで存在している。


「こんな感じであちこちの環に分割記述されてますよ。二重に意味を担わせてますから、転移術として不自然な記述はありません。惚れ惚れするほど巧妙な暗号ですよ……疑いを持って眺めなければまず気付かない」

「……で、貴方はコレを解きましたのね?」

「はい! そこはそれ、この道の専門家ですから」

「専門家、ね……」


 頭痛を堪えるようにこめかみへ指を当てる魔女。「くっ、わたくしもまだまだですわね」と呟く声が微かに聞こえた。

 本来ならルヴィエこそ魔術の専門家だろうに、アークのあの言い様は堪えるのかもしれない。とはいえ彼はおそらく規格外の存在だ。あまり気にしない方が良いと思うのだが。


「と、ともかくこれで先へ進めるんだよな。術式の書き換えは可能なのか?」

「全て解析しましたので、施設中枢への侵入は可能です。また貴女の身体をお借りすることになりますが……」


 遠慮がちな答えが返ってきたが、その程度は想定の範囲内だ。


「構わない。さっさと進もう」

「では。失礼しまして」


 彼の言葉と共に身体の主導権が入れ替わった。真綿で包み込まれるように、柔らかく意識が閉ざされていく。

 深く深く沈み込み、胎児のように丸くなる。


 ――次に目覚めたとき、きっとそこからが本番だ。


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