『オオカミと老夫婦とプレスマンの折れた芯』
あるところに、とても貧しい老夫婦がいました。熱い食べ物は、必ず半分に分けて、はふはふ言いながら食べるくらい貧しかったのですが、わかりにくい上に、この話の本質とは関係ありません。
この老夫婦の家の周りを、オオカミが歩いていました。オオカミも、ほどよく歳をとってしまい、獲物がとれないのでした。オオカミは、人間の家の周りなら、食べ残しや何かがないかと思ってうろうろしてみたのですが、貧しい老夫婦の家なので、何もありませんでした。となれば、老夫婦を食べるしかありません。戸口の前で中の様子をうかがっていますと、夫婦の会話に、気になる部分を見つけてしまいました。いわく、おじいさん、さっきオオカミの遠ぼえが聞こえましたねぇ、おばあさん、聞こえたねぇ、怖いですねぇ、怖いねぇ、でも、オオカミなんかより、あれのほうが怖いですねぇ、ああ、あれねぇ、怖いねぇ、オオカミなんかよりはるかに怖いねぇ。
オオカミはいぶかりました。オオカミと言えば、生態系の頂点です。たまに自分で自分が怖くなることすらあるのに、オオカミより怖いものなんて、世の中にあるでしょうか。
オオカミがそんなことを考えていると、家の中から、おじいさんの叫び声が聞こえました。おばあさんが言います。おや、おじいさん、言っているそばからあれにやられましたね。本当に怖いですね、あれは。オオカミは、ずっと聞いていましたが、おじいさんは返事をしません。苦しそうな息づかいが聞こえるばかりです。オオカミは怖くなって、山へ帰っていきました。
家の中では、おばあさんが、おじいさんの足の裏から、踏んでしまったプレスマンの折れた芯を抜いてあげていましたが、細かいものが見えないので、おじいさんの苦しみは、そこそこ続くのでした。
教訓:プレスマンの折れた芯は、どこにでもある。そう、あなたの足の下にも。




