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なんでお前は婚約者の顔が分かっていないんだ!?  作者: 重原水鳥


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【09】企みの結果

 ――混濁していた意識が、浮上する。


「カルロス様……どうか早くお目をお覚ましくださいませ……」


 聞こえてくる声は、聞き覚えはあまりないけれど、誰の声かは思い出せた。


 ミュールプフォルテだ。


(ああ、成功した!)


 バルトロメは歓喜した。

 成功したのだ。あのうさん臭い、顔もまともに見なかった老婆が言っていた禁術とやらが、成功したのだ。

 ミュールプフォルテの声はすぐそばから聞こえてくる。


 世界は暗い。


(目が明かないのか?)


 瞼を開く。ただそれだけのイメージに合わせてみるが、体が動く気配はない。


(何故だ? 早く目を開いて、横にいるだろう女の顔を見たい……)


 あと少し。あと少しなのに。


(まだ魂が馴染んでないのか? カルロスは――もう、死んだ筈だ。この体は俺のものになった筈だ)


 早く体よ動け、動け、とバルトロメは念じる。


「カルロス様……」


 女の声を聞きながら、必死に、必死に、バルトロメは動く。

 口を動かして、女に反応を――。


「…………ミュールプフォルテ」


 低めの、ミュールプフォルテのものとは違う、男らしい声が響く。


 パッと、ミュールプフォルテが顔を上げたのが見えた。

 第二洗礼式で見た時よりも更に美しく、丸みが消えた頬。そこにあの頃と変わらない白磁のような透き通る白髪が張り付いている。潤んだ瞳からこぼれた雫が、そうさせているらしい。

 美しい、ブルーの瞳。

 まるで大海原を彷彿とさせるような、どこまでも広がるブルー。


(ああ、ああ! やはり容姿は、俺の隣に相応しい! この際、身分が低い事も許してやろう。俺の体も、卑しいカルロスのものになってしまったのだから……!)


 バルトロメは片手を上げる。そっと、ミュールプフォルテに近しい方の手で、彼女の頬を撫でる。


「カルロス様……。良かった。お目が覚めましたのね……」

「ああ……」

「お医者様を呼んでまいりますわ……」


 ミュールプフォルテが、目尻の涙をぬぐい、立ち上がる。


 その手を掴んで引き倒してしまいたい。――しかし、体がまだ自由に動かない。


 止める間もなくミュールプフォルテは退出し、少しして、多くの人間がなだれ込んできた。そうして医者が診察の為とバルトロメ――否、カルロスに手を伸ばした時。


「ごめんください。お通しくださいませ」


 と、一人の女が前に出てきた。ミュールプフォルテすら押しのけるような移動で前に出てきたのは、やたらと胸の豊満な女だ。ミュールプフォルテのまだ少女体形に近い体とは、比べるまでもない。顔の造形こそミュールプフォルテに劣るものの、体つきは間違いなくホワイトサファイア伯爵令嬢の中で一番という女だった。

 デヴォラの事であるが、バルトロメは名前までは憶えていない。


 寝台(ベッド)に寝たままのバルトロメでは、デヴォラの顔は良く見えない。胸が大きすぎるせいで、見えるのはその丸みばかりだ。


(ふむ……跡取りを作る順番は重要だが、最初に味わうのは、この女で良いか)


 バルトロメがそんな事を思いながらデヴォラを見上げていると、デヴォラの指がそっと、バルトロメの方に伸びてくる。誰に咎められる事もなく、そっと、デヴォラがバルトロメに触れた。そして持ち上げる。


(――ん?)


 ほんの少しの違和感をバルトロメが感じたその時、


「……デヴォラ嬢、()()()がどうかいたしましたか」


 と、カルロスの声がバルトロメに聞こえた。

 バルトロメは喋っていないのに、カルロスの体が、勝手に喋ったのだ。


(まて。待て。俺は喋っていないぞ、では、今、喋ったのは誰だ?)


 視界に映るのは、胸の大きな女性が半透明の石のネックレスを摘まんでいる姿。

 けれどそれと重なるように、その女の顔がすぐ近くにあるのが感じられる。


(なんだ? おかしい。何か変だ。俺はカルロスの体に入った筈で――カルロスの体を奪った筈で!)


 しかし、動かそうと思っても体は動かない。たびたび瞬きは入るのだけれど、それも、自分の意思での瞬きとはタイミングが違う。

 積み重なる違和感。けれどその違和感から、バルトロメは目を反らす。直視する事など出来ないのだから。


「デヴォラ。どうなさったの?」


 ミュールプフォルテが問う。


「……あの吹き筒に仕込まれていた呪術が何か、分かりましたわ」

「なんと!」


(なんだと!?)


 まさか、この女が――ホワイトサファイア伯爵家に関連する人間に、呪術に詳しい人間がいるとは全く思っていなかったバルトロメは焦る。自分の体はもう放置されている訳だが、()()()とハッキリと指定されている以上、バルトロメの使った手段がバレている事までは簡単に想像がつく。


(まずい。恐らくだが、何か俺は失敗した。――認めがたいが!)


 失敗したなど認めたくない。

 しかし、失敗したのだろう。体が上手く動かないし、視界も、先ほどからまるで二つの視界が重ね合わせてみているような状態だ。


「デヴォラ。何が仕込まれていたのです?」

「恐らくですけれど……他人の体を奪う呪術だったのではないか、と思いますわ」


 ざわつく室内の中、バルトロメは血の気が引いた。

 これでは、ここからなんとかカルロスの体を完全に奪えたとしても、周りが気が付いてしまう。カルロスの中身がバルトロメであるという事に。

 しかし、状況を変えようにも、今のバルトロメには何も出来ない。言葉をしゃべる事も、体を動かす事も。ただ出来るのは、見る事。それだけだ。


「っ、デヴォラ嬢。何がなんだか……呪術とは、どういう事だ?」


 カルロスの声がする。バルトロメの意思による言葉ではない。やはり、体を奪うのは失敗している。


「この場におられる方は皆さまご存じですので簡単に説明をいたしますと……カルロス様がお倒れになったのは、バルトロメ元アルヘンタ公爵令息が呪物を用いた為でございます」

「バルトロメが……? あの場の近くにいたというのか?」

「はい。もう、元の体は亡くなっておりますが」


(俺の体はやはり死んでしまったのか……だとすると、何がなんでも、カルロスの体を奪わなくては!)


 必死に、カルロスの体がある方を意識する。

 状況からして、バルトロメは今、魂だけの状態の筈だ。


(魂しかないのなら、逆に、容易にカルロスの体を奪う事も出来るのでは?)


 そう考えて、カルロスの姿をイメージし、そこに手を伸ばす。けれど煙を掴むような達成感しか得られない。


(今俺はどうなっているんだ?)


 ぺちゃくちゃと、周囲ではほかの人間たちが喋っている。しかしその内容も段々と、耳に入ってこなくなる。


(俺は、どうなるんだ?)


 術は失敗した。老婆は、この禁術が失敗した時どうなるか、なんて事は言わなかった。バルトロメも、成功しか想像せず、聞かなかった。


(た、助けてくれ……助けてくれ!!)


 バルトロメはそう叫んだ。けれどその声は、誰にも届かなかった。

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