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なんでお前は婚約者の顔が分かっていないんだ!?  作者: 重原水鳥


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10/12

【10】答え合わせ 前編

「つまり、何がどうなっていたのだ?」


 カルロスは困ったような顔で、そう言った。

 意識が戻った後一通りの検査を受ける事となった彼は、元々疲労も蓄積していたのか、意識を失ってしまった。なので術がどうのとか、バルトロメがどうのとか、そういう細かい話は、後回しにされていたのだ。


 無事、カルロスが回復して目を覚ました事で、視察にやってきていた全員が揃って、話をする場が設けられた。


 カルロス、ミュールプフォルテ、そしてエンスリーン、デヴォラ、ライエ。

 白髪の美しい女四人に囲まれているような構図であるが、カルロスが腰を抱き寄せているのは妻であるミュールプフォルテただ一人である。


「とりあえず、こちら御覧くださいませぇ。こちら、亡くなったバルトロメの遺体の傍にあった吹き筒と、カルロス様の御守りですわ」


 と、デヴォラが出したのは、吹き筒とお守りである。


 吹き筒にはよく分からない、文字らしきものがびっしりと描かれている。木製だ。

 そしてお守りはというと、半透明の石――白い(ホワイト)青玉(サファイア)がはめ込まれた、ネックレスだ。


 ミュールプフォルテとカルロスの婚約が正式なものとなり、二か月がたった頃――だから今から数えると一年と少し前ぐらいの昔の話だ――ミュールプフォルテが、カルロスに贈ったものである。


 ――どうか、さまざまな災いから、貴方を守りますように。


 その言葉と共に贈られたその小さな宝石がついたネックレスを、カルロスはいつでもどこでもつけて出た。


「……濁っている?」


 本来は半透明で美しい白い(ホワイト)青玉(サファイア)だった宝石は、今は、少しくすんだような色に変化していた。


「はい。こちら、確実なお話は高名な神父様か、修道女(シスター)様か、或いは良き魔法使いに視ていただく必要があるにはあるのですが……」


 と、前置きした上で、デヴォラは説明を開始した。


「まずこちらの吹き筒ですね。こちら、なにがしかの呪い――禁術を行使する為の道具だと思われます。ああ、どうやら使い捨てのようで、既になんの力も持たない木材ですので、ご安心ください」


 距離を取りそうになったカルロスに、デヴォラはそう補足した。

 既に何も恐ろしくないとも言われ、カルロスはよくよく吹き筒を観察してみる。木製だが、表面に、なにがしかの文字が書かれている。


「……どこの国の言葉だ?」


 この国の言葉でも、ジュラエル王国語でも、カルロスが把握している近隣諸国の言葉でもない。


「ご存じなくとも無理はありませんわぁ。こちら、古代語――えぇと、こちらの言葉ではなんと説明するのが正しいのか、少し迷うのですけれどぉ――(いにしえ)の言語でして、現在口頭で会話に用いる方はいらっしゃらないと思いますわ。恐らく残っているのは、こういった術の使用で使われる分だけです」

「なるほど」


 もはや、特殊な分野の専門用語になっているという事である。


「ただ、少し滲んでいて読み解くのが難しかったのですが……こちらのお守りの状況を見て、理解出来ましたわぁ」


 吹き筒から、濁った宝石に視線を戻す。


「……流れからして、こちらのお守りが濁っているのは、術の効果という事か?」

「結果的に、そうなったという事ですわね。術が一部失敗した結果、濁りに繋がったのです」

「その、術の内容は? 遠まわしにしなくて良い。教えてくれ」

「他者の体を奪う術ですわね」


 カルロスは言葉が出なかった。

 ミュールプフォルテたちは狼狽えた様子がないので、カルロスが目を覚ます前に共有していたのかもしれない。


「こちらの吹き筒を用いて――具体的な方法までは読み解けませんでしたが――吹き筒の使用者の魂を、対象の体へ飛ばす。そして、対象の体に魂を根付かせ、体を奪う。そういう術です」


 一拍置いて、デヴォラの説明を飲み込んでから、カルロスは問う。


「一部失敗……つまり、体を奪うことは出来なかった。そういう認識で良いだろうか」

「間違いありませんわ。カルロス様が倒れられる直前、カルロス様の胸元で白い光が飛び散ったのを目撃した平民が多くいたそうですわ」


 護衛の騎士たちは、カルロスよりも周囲に気を配っていた。

 逆に、カルロスを見に来た平民たちは、カルロスに集中していた。


 なのでこの白い光の目撃情報は、平民に偏っていた。しかし、一人二人ではなく、十人を超える人数が見たというのならば、実際にあった出来事だと言える。


「白い光……胸元……!」


 ハッとした顔で、ネックレスを見る。


 お守りのネックレスは普段、カルロスの胸元あたりにちょうどくるように首から下げていた。


「カルロス様が気づかれました通り、恐らく、こちらのお守りの効力が発揮されたのです。それにより術は完全には成功しなかった。バルトロメの魂は自分のものである体を離れ、カルロス様まで飛んでいきましたが、完全に乗っ取る事は出来なかった。……と、ここまではほぼ確実と言ってよいでしょう。ここから先は、あくまでもわたくしの予想でしかありませんが……。恐らく白い(ホワイト)青玉(サファイア)の淀みは、バルトロメの魂かと」

「これが、バルトロメ……?」


 カルロスの顔が歪む。表面に浮かぶ怒り、悲しみ、憎しみはどれか一つとするには弱くて、けれどすべてを混ぜ合わせたような重いものがあった。


「この中に、人がいるという事? デヴォラ」


 カルロスの横で黙って話を聞いていたミュールプフォルテがつい、という様子で口を開く。


「はい。そうですわね」

「なら廃棄しよう」


 異母兄を完全に殺す為の判断を即座に下すカルロスに、待ったをかけたのはエンスリーンだ。


「お待ちください、カルロス様。デヴォラはわたくしたちの中では一番この手の事に詳しいですが、専門家ではありません。此度の事は魂が関わる、複雑な事案。このお守りはあくまで簡易的なものでした。このお守りにより御身が守られた事はホワイトサファイアとしては誇りに思いますが、完全に貴方の身を守ったとは判断しきれません」

「ではどうする」

「先ほどデヴォラも申し上げましたが、お守りを廃棄するのは専門家の判断を待ってからでも良いかと思います」

「遅効性の術であったらどうする。元来、即座に体を奪うのではなく、じわじわと奪うものであったら?」


 険しくなる声に、デヴォラが「それはないですわ。他者の肉体、とありましたからぁ……あと、このような単純な道具で、そこまで手の込んだ事は出来ないと思いますわ」と口を挟む。


「もしカルロス様の想定するような術ならば、お守りに最初から仕込まれていないと難しいかとぉ」

「…………僕はそちらの方面への知見はないので、デヴォラ嬢の言葉を信じるとしよう。しかし、処分は早い方が良いだろう。父母が処分を迷った故に、今のような出来事が起きたのだから」

「万が一、半端に術が成功していた場合、バルトロメの死にカルロス様が影響されないとは限りません。わたくしが懸念しているのはそこでございます」

「半端に――まさか、僕の体に一部バルトロメがいるのでは、という事か? まさか! 僕は今、自分の意思で体を動かしている! 何より、宝石に魂が入っていると言い出したのはデヴォラ嬢であろう」

「そこを、確認してからでも遅くないと考えます」


 カルロスは黙った。


 自分の中に、兄が――忌々しい異母兄がいるかもしれないと思うと、身の毛もよだつ。引きずり出せるのならば、胸を引き裂いてバルトロメを出してしまいたいと思うほどである。


 だがしかし、現時点では未確定な情報が多すぎる。


「アルヘンタ公爵家の伝手がある聖職者や魔法使いの類の方にもご連絡を入れるよう、お願いしております。平行して、ホワイトサファイアの縁ある者も呼んでおりますので、ほんの少しお待ちくださいませ」

「……理解した。あとの対応は、任せる」

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― 新着の感想 ―
下世話な話し、下だけアイツとか嫌だよねぇ。
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