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みじかい小説

みじかい小説 / 037 / 私の音

掲載日:2025/10/07

私は耳が聞こえない。


これは生まれつきなのだけれど、生まれつきだからこそ、私は音を知らずに生きてきた。

多くの人に聞こえている「音」ってどんなだろう。

音楽に合わせて踊っている人を見ると、独特のリズムがあるのが分かる。

けれど健常者の妹によると、音楽の持つリズムと、人がしゃべっている時のリズムは種類が違うということだ。

ふうん。

どうせ聞こえないから興味ないけど。

私が障碍者だとわかると、人は困った顔をする。

扱いに困るのだろう。

それまでしゃべっていた口を閉じ、スマホでのコミュニケーションをはかろうとする人もいた。

それはそれで親切だとは思うけれど、スムーズでなくてもよいなら私はしゃべれる。

ただ耳が聞こえないだけで、声は出るのだ。

私は普通に接してほしいだけなのに。

でもそれも無理な話だ。

多くの人が当たり前のように使っている声を、私は拾えないのだから。

そうして私はひきこもるようになった。

それが10代の頃のこと。

しかし転機が訪れる。

20歳になった頃、今の夫と出会ったのだ。

夫も、耳が聞こえない。

私たちは地域の手話サークルで出会った。

お互い耳が聞こえないものだから、手話での会話など、健常者の人より相手のペースが読みやすい。

それで、何度か交流を重ね、デートを重ね、逢瀬を重ねていき、昨年、結婚に至った。

私と夫に子供はいない。

二人で話し合い、持つことをあきらめたのだ。

私は何度も泣いた。

悔しかった。

そのたびに夫がなぐさめてくれた。

そのおかげで、今この年になるまで夫とはラブラブである。

私たちの世界に音はないけれど、それでも世界は鮮やかに語りかける。

せめてその色を、振動を、思い切り感じて生きていこうと思う。


※この小説は、youtubeショート動画でもお楽しみいただけます。

 以下のurlをご利用ください。

 https://youtube.com/shorts/bit-iaYkrx0

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