第7章第1節 初源
本章からは、帝国に伝わる歴史を紐解きたい。
なお本章以降を書くに当たっては、神話目録を参照した。本書においても、神話目録より話をとるが、分かりやすいように一部改変を加えている。本筋には関係が無い上に、侍従長並びに最高神官より許諾を得ている。そのため、知られているものとは多少異なる場合があるが、了承頂きたい。
初めに神がいた。
スワミイズル神とイスルード神は互いに夫婦だった。
上も下もなく、右も左もない世界だけが、夫婦を包んでいた。
スワミイズル神は、
「私が思うに、この世界には"秩序"がありません。そこで、私が持っているこの杖で、世界を一つにまとめあげたいと思います」
イスルード神は、
「それは、とてもいいことだと思う。是非ともしてみよう」
そう言って、スワミイズル神が持っていた、身の丈の半分ほどの杖を彼らの足元で円を描くように回す。
すると、徐々に世界の形が出来上がっていった。
幾時か過ぎ、かき回すのを終わる頃には、空と地上が分かれていた。
だが、地上は、未だに地中と地上と水の部分に分かれようかとしているところであり、それぞれが未だに分かれていなかった。
「私たちは空を治めるのがよろしいかと思いますが、地上は誰が治めるのがよろしいでしょう」
スワミイズル神がイスルード神に聞くと、スワミイズル神が持っていた杖を手にとり、3つに分けた。
「彼らが互いの領域を持ち、互いに支え合い、信じあえば、自ずと互いの領域に分かれていくだろう」
イスルード神が妻であるスワミイズル神の杖から作った神の名は、上の部分からはイカムルード神と言い、中の部分からはスワキサルザ神、下の部分からはジルサンデル神と言った。
イスルード神は、
「イカムルード神は海の部分を治め、スワキサルザ神は地上を治め、ジルサンデル神は地中を治めよ」
イスルード神がいうと、彼らはそれぞれの領域を治めるために降りていった。
彼らが互いの領域を侵さずに治めている間に、海は海へ、地上と地中も分かれ、世界が完成した。
3柱の神の代表であるスワキサルザ神がスワミイズル神とイスルード神に報告をすると、イスルード神は、
「それぞれの神には、それぞれの目的がある。その目的を見出し、実行せよ」
スワキサルザ神が再び降り、イカムルード神とジルサンデル神に伝えると、それぞれが見づからの手先となる為の人形を作ることにした。
イカムルード神が最初に創ったが、海の底の泥より作りだした人形はすぐに元の泥へと戻った。わずかに産まれた者たちも、手先となるほどの存在にはならなかった。
イカムルード神は、
「自分が創った存在では、この世界を治める一助にはならない。よって、スワキサルザ神とジルサンデル神が創り上げる者たちにとって、必要となるであろう存在として育てることにしよう」
これは、今の海や川に生きている魚などの初現である。
続いて、ジルサンデル神が地中奥深くより作り上げた土をこね、人型を作り上げた。しかし、あまりにも軽かったためそのまま空へあがっていった。
ジルサンデル神は、
「自分が作った存在では、この世界を治める一助にはならないだろう。よって、イカムルード神が創り上げた者たちにとって必要であろう存在と為すことにしよう」
これは、今の空に飛び回っている鳥などの初源である。
最後に、スワキサルザ神が地上にあるそこそこ硬く、そこそこ重い土より、神にそっくりな形を作り出した。
その者は、何事もなかったかのように行動を始めた。
スワキサルザ神は、
「この者たちこそが、私たちの世界を治める一助になるべき存在である。よって、イカムルード神とジルサンデル神が創り上げた者たちを食べつつも、生きていけるようにしていこう」
これが、我々人間の原初である。
人間を使い、スワキサルザ神が世界をよりよくするために動き出した。
まず、ジルサンデル神に言って、地中に人間が掘りだそうとする目的をもつための物を生むように命じた。
ジルサンデル神は、
「ならば、新しい神を産み出し、彼らにそのことを託しましょう」
そして、ジルサンデル神が自身の髪の毛を抜き、ひげを抜き、爪を切り、垢をそれぞれ別々のところに埋めた。
すると、髪の毛からイツムロカキ神が、ひげからツクスイルベ神が、爪からツツカム神が、垢からサルイルフミ神が生まれた。
それぞれが地中に埋まっている鉱物や岩石などの神となっている。
続いて、イカムルード神が海の上に浮かんでいた氷を砕き、それを海にばらまいた。
そこから、大きな氷からはツカミムロヌ神が、そこそこ大きな氷からはイワルフクロマ神が、中くらいの氷からはスベツカイ神が、そこそこ小さな氷からはアクルイツ神が、小さな氷からはツベクウイワ神が生まれた。
それぞれは、すでに産まれていた魚の神である。
かれらは、それぞれの担当している種族や大きさの魚や鉱物などの量を調節し、人間が世界を構成し、そのことが世界を動かしていくという構図が、このとき成り立った。
スワキサルザ神は、全ての事業を終えたことを報告するために、スワミイズル神とイスルード神のところへ出向いた。
スワミイズル神は、
「ならば、その人を統べるものが必要になるでしょう。あなたの子々孫々は、人とともに生き、人とともに死に、人とともに楽しみ、人とともに悲しみなさい。そのために、あなたは人の中の王、諸侯を治め、世界を統治するために必要なものを授けます」
それこそが、いまエルハンドラ帝国に伝わりし、冠、杖、服である。
この3種を総称し、神より頂けし物という意味で、神頂物[しんちょうぶつ/かみいただきもの]と呼ぶ。
イスルード神は、
「スワミサルザ神の子々孫々にわたるまで、人間を治めるために、皇帝として人の上に立つ者となるだろう」
スワミサルザ神の子々孫々こそが、エルハンドラ帝国の皇帝である。
スワミサルザ神は、
「しかし、私だけがそのような特別礼遇を受けるわけにはいきません。どうか、再びご一考を」
スワミイズル神は、
「ならば、残り二人も連れて再び来なさい。その時に、決定をしましょう」
スワミサルザ神は一礼をし、イカムルード神とジルサンデル神を連れて、再びスワミイズル神とイスルード神の元を訪れた。
イスルード神は、
「イカムルード神とジルサンデル神の子々孫々は、3人の長であるスワミサルザ神を支え、よく友として生きていくよう」
イカムルード神の子々孫々は皇帝付き最高神官であり、ジルサンデル神の子々孫々は、皇帝付き侍従長である。