4話
すぐに行動する理由はなくなったものの、何もしない理由にはならない
大きな目標に向かって前進をすべきだ
殿下の足跡をたどり、彼女のその後を知るべきだ
それこそがかつての私への報いであり、これからの私が目標を手に入れるための過程になるだろう
それからのことはそのあとに決めればよい
決意を固めれば、視界が広がったように感じ、思考はより洗練されたものとなった
気になることといえば、果たしてこの時代に人類は残されているのだろうか
あれは人類が簡単に太刀打ちできる存在ではなかった
帝都が落とされたとなれば、東の【魔の領域】との境界線に対し兵站の補給もままならないだろう
必然的に残された人類は西へと追いやられているはず
帝都は大陸中央に位置しているとされたが、実際のところ東の果てを目にした者はおらず
災厄発生の直前には人類活動圏が東に拡大したこともあり、実際の位置としては大陸西側の国に過ぎない
魔の住人たちによる建造物も確認されていた以上、彼らがこの機会を逃すとは思えない
しかしながら、その帝都がいまやこの森である
正確には、最期に戦った皇城の広間ではなく城下町あたりまで吹き飛ばされているのだろうが
多少動物のような気配は感じるものの、手入れのされている人工物は一切ない
この様子では魔の住人たちは西方までは浸食してきてはいないのだろうか
遠くに魔力による知覚を伸ばせばなんとなくより大きな建造物があるように思う
あのあたりには皇城に続く門があったはずだ
災厄がどこへ去ったかは分からないが、少なくとも帝都の全てを跡形もなく破壊してから去ったのは間違いない
災厄の気配がないにも関わらず魔の気配もないということは、とりあえずここは安全とみていいか
だいぶ思考の遠回りをしたが、安全が確保されたことで、作業に集中できる
もともとの作業に戻る
先ほど蒼水銀により融合を深めたことでより一層記憶と私とが結びつきを深めた
この魔導核は既に殆どの蒼水銀は揮発したのか、最初から残量がすくなかった
つまり残りの性能を十分に引き出すには、魔導核にもともと搭載されていただけの蒼水銀を集める必要があるだろう
そして、生命ともまだ完全に融合しているわけではない
きっと失われたままの記憶や知識もあるはずだ
性能を引き出すためにも、生命との結びつきを強化するためにも、蒼水銀の確保は急務だ
蒼水銀は上位の魔導核ほど大量に含まれているものの、最期まで身に着けていた中位魔導核でさえこの程度の残量だった
自律形態で切り結んだ精霊兵の下位魔導核などもはや中身は枯れて久しいだろう
現に、私以外の精霊が融合した精霊人形は周囲にいない
城から吹き飛んだ距離を考えて、ほかの中位以上の魔導核がどこにあるかなど皆目見当もつかないが
時間はある、地道に探すことにしよう
(とりあえずはまずは移動手段だ)