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1話

 朽ちた建造物の散乱する森の中

 一つの淡い光が魔力に惹かれて、その源である塊に吸い込まれるように潜り込む




 真っ暗な闇の中に漂い、ただ流されているだけのそれは

 深い水底に沈んだ物体が水泡に包まれて水面に浮かび上がるように

 意識が覚醒していく


 ?

 ここはどこだ


 眠りから覚めたばかりでまだ頭がはっきりとしないように

 突如として目に映りこむ光に眩暈がする


 しかし、どこか視界というにはぼんやりとしている

 これは見えているわけではない

 感じているに近いだろうか


 朝露に濡れる草、少しの湿り気を帯びた土、吹き抜ける風に揺れる木々の気配

 どこか奇妙な感覚

 目は開かないのにまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 自分は知らない間に超感覚でも体得したとでもいうのか

 現状を把握すべく体を起こそうとして


(まったく動かないが...体?)

 動かすべき感覚が存在しないことに気が付き戸惑いを覚える

 地面から身を起こすための手を、立ち上がるための足を、胴体を、腰を、首さえも

 全くと言っていいほど感じないのだ


 持ち上げる瞼もないというのに周囲を把握するこの感覚は一体


(...これは魔力(マナ)か?)

 肉体の強化、武技の使用に必須となる魔力の存在、

 この周囲に広がる薄い感覚はどこか似ているように思った


 試しにと、己の内に集中しそれを魔力だと仮定し、集めた瞬間


 ?!


 凄まじい勢いで収束したそれに驚きを抑えられない

 これまでの人生、これほどの速度で魔力を練れたことはない

 驚きのあまり、集中をといてしまう


 しまった、と

 途中で収束が中断されたことによって来るであろう反動に対し、身構えた


(......なんともない?)


 一度体内で集めようとした魔力を途中で手放す行為は、魔力通路への魔力の逆流を招く

 これほどの収束に当然訪れるであろう反動と、それに耐えるべく力を籠める肉体

 その双方がまるで自身から切り離されたように存在しない


 これはどうにもおかしい

 肉体が負傷し感覚が失われたのであればともかく

 周囲を把握することができ、魔力の収束と、それをを感じとることはできる

 しかしながら肉体に依存する感覚だけがどこか遠くに行ってしまったような


 一旦落ち着いて自身とその周りを把握すべきだ


 意識して魔力を広げると、やはり以前より素早く周囲に展開される


 そして、再び広がった感覚で俯瞰的に自分を眺めてようやく気が付いた

 自分の体は、全体が魔力で覆われていた


(覆うというよりは、魔力の塊そのものか??)


 存在するはずの人の形はそこになく、橙色の光が地面に落ちているばかりである

 この見た目には覚えがある


 全く持っておかしいことだとは思うが、現状把握できる要素にこの事実を否定する材料がない


 どうやら私は、精霊(エレメンタル)になってしまったようだ


 ・・・

 ・・・・・

 ・・・・・・・・


(いやいや...あり得ないだろう!!)


 自分が人間なのは間違いない、現に人としての知識は存在しているし

 その知識の中から、今の自分の見た目が精霊であることもわかった


 なんなら昨日は、


 昨日は


 そこまで考えて、その先が思い出せないことに気が付く


 一体何の冗談だろうか

 自身は人間であると確信しているのにそれを証明する記憶がない


 人の世の知識や常識はある、すぐに思い出せる

 しかし記憶はすっかり抜けてしまったように思い出せない


 先ほどから繰り返し突き付けられるあり得ないの連発に驚きは止まらず

 代わりに自分から失われたであろうものが多すぎて眩暈がする



 しばらく経ったか


 思い出せないことに対しての衝撃は収まらないものの

 何が思い出せないのかがわからないというのは、逆に幸せかもしれない


 中途半端に失われたのであればこの程度では済まないだろう


 人が精霊になるなど常軌を逸している、自分の身に何があったかなど想像もつかない


 少なくともこれ以上考えていても何も進まない

 散らばる思考をまとめつつ、目の前にある事実の検証を行うべきだ


 精霊の体になったというのであれば、先ほどの異常な収束現象にも納得がいく

 精霊というのは、世界に溢れる元素の化身である


 (ウィンド) (ウォーター) (ファイア) (アース)

 そして(ライト)(ダーク)


 基本の4大元素と2つの特異な元素をもって構成する


 存在するすべての現象や物は元素の活性によって生じており、元素を宿している

 そして、純粋な元素が多く集まる場所からはときおりその属性の精霊が誕生するのだ


 複数の元素の影響と様々な要因の重なりで生まれる我ら生物と違い

 純粋な元素のみで構成された精霊は、己の属性に対して絶対的な親和性を持つ

 ゆえに、先ほどの魔力の収束は


 黄に近い橙色


 今の自身がおそらく、地の精霊(アース・エレメンタル)であることに起因しているのだろう

 山脈や地下をはじめ、自然の恵みを帯びた地上においても、地の精霊ほど土属性に親和性があるものはいまい

 先ほどから次々わいて起こる不思議が一つ解けたところで新たな問題もある


 なぜ人の意識が精霊に生じたのかだ

 こればかりは人間としての常識と知識をもってしても図れそうにない

 暫定的に答えを出すのであれば


(これは...まさか中位魔導核(ミドル・マジックコア)か)

 自身のさらに内側、魔力に覆われるようにして存在する冷たく固い物体

 成人男性の拳より大きい程度、白磁のような輝きを帯びた少し厚みのある六角形の石

 中央には半分程度の大きさの淡く透明な結晶がはめ込まれている



 これは中位魔導核で間違いない

 近衛と上位騎士用に配備される精霊兵(エレメンタル・ガード)の核は、下位の五角形と違い六角形をしている


 精霊兵とは自律形態と武装形態に変化可能な鎧のことだ

 魔導工学の結晶たる、魔力武装(マジックギア)精霊人形(ゴーレム)を融合させた新時代の武装である


 精霊人形は魔力の宿る物質や霊物に精霊が入り、周囲の元素を纏った怪物のことを指す

 本来は自然の環境において稀に発生する程度の存在だ


 しかし人類は人為的に元素の滞留を起こし高濃度の魔力結晶を精製する技術を手に入れた

 これを内蔵した武具を魔力武装と呼んだ

 さらにそこへ、魔導工学の力をもって精霊を人工的に発生させる手段を確立したのだ。


 そうして誕生した精霊を魔力結晶に宿らせて、蒼銀(ミスリル)氷亜竜(アイスワイバーン)などの氷系魔物から採取した低温素材で常温液体にした金属

 蒼水銀(ア・リウム)で融合させ、人の魔力との繋がりが通りやすくしたもの

 これを内蔵した生きる鎧こそ、精霊兵である


 その精霊兵の中でも、人工中位精霊を宿したものこそが中位魔導核であり

 私のような近衛や高位の騎士のみが身に着けることを許された......


(?)


 何かが引っかかる

 何か大事なことを思い出せそうだったのだが


 気のせいか?


 ずきりと頭が痛むような感覚を覚えた

元素=魔力

自然に発生したものをまずは元素と呼び

それらで別の現象を起こす時に魔力と呼称します


水槽のフィルターを通した後の水、前の水のようなイメージです

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