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吸血鬼さまのお気に召すまま  作者: 笹田葉
一章 吸血鬼さま、ご案内
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第16話

「魔力の色については実はあまりよく分かってないんだ。人間は適性を測るためにこういったおもちゃを使って調べるが、魔族は主に種族で色が変わるものでね。このおもちゃを最初に見たときは面白くていろんな生き物で実験したよ」


 手に持った球をおもちゃだとオズはバッサリ切り捨てた。


「ところで、魔力の感覚は掴めたかい?」


 この球を使った目的はそこにあるらしい。


「んー……なんとなく、何かが抜けてく感覚はする。あとは全然」

「君は魔力が多いから、この程度のおもちゃでは満足できないようだ。それなら実践といこう」


 そう言ってオズはズンズン歩みを進める。

 途中見かけた騎士に今度は訓練場に案内するよう声をかけ、移動した。


「ここなら安全にできる」


 開けた場所で、整然とした雰囲気の場所だった。

 広場と何が違うのかフェリスには分からなかったがオズには何か分かるらしい。


「ここは魔法の訓練を行うのに最適な場所でね」


 オズはパチンと指を鳴らすと炎でできた矢を作る。

 それをあらぬ方向に飛ばすと、透明な何かにぶつかって消えた。


「結界が張られているから何かあっても周囲に影響は出ない。君が失敗しても安心というわけさ」


 確かに最適な場所だ、とフェリスは思った。


「それじゃあ始めよう。指を鳴らして、手のひらの上に火が灯るのをイメージしてごらん」


 フェリスはオズの言葉に従って指を鳴らそうとするが指同士が擦れる音が鳴るだけでまともな音は鳴らなかった。

 当然、魔法も不発に終わる。


「……人間らしく、言葉を起点にしようか。確か人間の場合は火を使う魔法の時、フレイムと唱えていたかな」


 オズが気を取り直して別な方法を提案してきた。

 フェリスはうなずく。


「フレイム!」


 片手を器のようにしてそう声を上げるが、何も起きなかった。


「言葉はイメージを強くするものだ。さっき俺がやったように火が着くのをイメージしてごらん、もう一度見せてあげよう」


 今度はオズは指を弾かなかった。

 フレイム、と口にすると先ほどのように真っ赤な炎が手のひらの上に灯る。


「ほら、簡単だろう?」

「わ、私、もう一回やってみる」


 そうして、フェリスが何度目かのフレイムと唱えたとき、手のひらに豆粒ほどの小さな白い炎が現れた。

 同時に何か身体から力が手のひらに集中する感覚がする。


「やった……!」

「これはまた……やはり君は他の人間とは違うみたいだ」


 フェリスは何かが手のひらに流れている感覚が気になり、どんどん手のひらに集中していった。

 するとみるみる内に手のひらの炎が大きくなる。

 興味津々に覗き込んでいたオズは慌てて顔を離した。


「そろそろ魔力を抑えた方がいい。君まで燃えてしまうよ」

「魔力を抑えるって? ……あっ」


 フェリスの手のひらにはもう炎は無かった。


「君の集中がそれたから消えたんだろう。魔法を使い続けるには集中力が必要だからね」


 オズの言葉でフェリスの集中が途切れたために炎は消えたらしい。


「しかしこれで分かっただろう? 君には魔力が宿っていて、魔法が使えることが。」

「そうみたい。小さい時からずっと、魔法は使えないからって練習させてもらえなかったのに……」


 フェリスの言葉にオズは何か考えるように顎に手を当てた。

 そして何か納得したように頷く。

 その含みのある様子にフェリスは何か分かったのかと気になった。


「何か知ってるの?」

「いいや。今この場で話すにはまだ早い」


 幼子を宥めるような言葉にフェリスは追いすがる。


「知ってるんでしょ! 教えて」

「モノを知る方法は何も人に教わるだけではないよ。これは俺が教えるのではなく君自身が見つける事に価値がある気がするんだ」


 それに、と更にオズは言葉を続ける。


「俺の予感はよく当たるんだよ。従うのが吉というものさ」


 何を言っているのかフェリスにはちんぷんかんぷんだった。

 誤魔化されていることだけは理解した。

 フェリスは不満げに口をとがらせる。


「そう拗ねるんじゃない。ほら、フェリスが言い出した魔王討伐隊の出発地点にせっかく来たんだ。観光でもしていこうじゃないか」


 パチンとオズが指を弾くと本と光のオーブが現れた。


「歴史書も渡そう。これでよく見えるだろう?」


 本を受け取ったフェリスの手元を照らす様にオーブはふよふよ浮かぶ。

 ここに来た当初の目的はそうだった。

 これ以上オズを追求しても答えが返ってきそうもなく、フェリスは目的を果たすことにした。


 まずは来た道を戻って広場に行く。


「ここから魔王討伐隊の旅は始まったの」


 歴史書には西の国ウェスタリアの王立騎士団から選出された精鋭たちがここに集められ、出発したと記されている。

 広場には特に何もなく、門と詰所が見えるだけだ。


「朝になれば騎士たちが集まって朝礼でもしていたんだろうね。次の場所に行くかい?」


 フェリスは軍人でも兵士でも騎士でもない。

 これ以上ここでめぼしいものは無かった。


「そうしよう。ここに来れた事で十分だよ」


 フェリス達は場をあとにした。

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