無言のドライブ
母の運転する車の中で、私は小さめの段ボール箱を膝に抱えている。
中に入っているのは、五匹の子猫だ。ミューミュー鳴いては、
箱から出ようと必死にもがいている。
それを押さえつけて逃がさないようにするのも私の役目。
やがて、大きな橋が見えてきた。私はすばやく車を下り、
人目がないのを確認すると、流れの速いところめがけて段ボール箱を放り投げる。
子猫たちは、じきに、夜の黒い川に飲み込まれていった。
母とは視線を合わせるだけで、お互い、無言のままのドライブ。
膝の上の温もりがを失って、私は急に切なくなった。
家に帰ると、親猫がこちらを睨んで、プイ、と走り去っていく。
毎年のことに、猫はもう慣れている。
人はまだ、慣れない。