「そうして世界は開かれた」
父「なぁ(君)。どうして(君)は生まれたと思う? 」
私の父親は、いつも突拍子のない事を言う。
学校に行く前の朝っぱらからこんな重い話題をしないで欲しいと常々思っている。
父親と母親の関係が現在悪い事も知っているので、彼らの恋愛事情には触れたくないと感じていた。関係が悪いのに、三人目の私を産んだ理由も勿論想像したくないことなのだが。
父「それはな、(君)が産まれてくるのを望んだからだよ。」
瞬時に私は、「エゴじゃ無いですか。」と言い返す。
体をまぐあわせて出来る生命には、多少の愛があると知っているが、私はいわゆる失敗作であった。
私は望んでいなくとも、父親が、母親が望んだことにより誕生するなら、それは紛れもないエゴでしかないと感じてしまう。
父「そうだろうね、だからごめん。(君)は他の人を見るたびに羨ましいと思うかもしれない。でも、可能性を見て欲しいんだ。(君)の世界を開くのは僕ら両親じゃなく、(君)なんだから。」
人形の様に、ゼンマイを巻いた後は自分で動けと言っているかの様で少しだけ不快になる。
当然、父親は気を使って謝罪しつつ願いを表明しているのだろう。
しかし、羽が無ければ鳥は飛べず、地が無ければ助走を付けれず、空気が無ければ生存できない。
我々はその様な生命体であるにも関わらず、しかし希望を見出すのだ。
目の前で縮こまっている父親の態度から見て取れるほどの優しさと申し訳なさを胸に、まず私は黙って家の扉を開いた。




