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彼女の事情

金蘭鳥

この鳥は性別を持たないで生まれ

運命の相手を見つけると

自然と雄と雌に性が固定されるという。

そんな不思議な鳥。


この世界は不思議に満ちている。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「早朝からいつもありがとうございます。」

メアリは焼き立てのパンを袋に詰めると客に手渡した。


朝もやの中、街の中心からは少し外れた郊外にひっそりとたたずむ一軒の店がある。有名店でもないそこには焼き立てのパンの香りを求めて時折ふらりと客が訪れる。

最近、味が気に入ったのかここ数日は同じ客が通い詰めてくれていた。


「こちらこそ、いつも笑顔をありがとう。朝早くから開いていてこんなに美味しいパンまで購入出来て。本当に良い店を見つけたよ。」


老紳士は袋を受け取ると店を出ていった。

入れ替わりに別の男女が入ってくる。


「姫様、午後からは来客が来られますのでお仕事はここまでで。」

「わかったわ。明日の仕込みと片付けをするからそこに座っていてちょうだい。あと、残りのパンは孤児院に寄付を。」


二人のためにお茶を出し、朝食代わりにまだ湯気が上がる売り物のパンのいくつかをテーブルに置く。


手短に支度を済ませると用意していたここには似つかわしくない上質な洋服に袖を通した。

そしてメアリから笑顔が消える。支度を整えて奥から出てくると二人の食事も終わっており棚にあった残りのパンも丁寧に袋詰めされていた。


いつの間にかもう一人女性が増えている。王女の専属侍女のメリーアンだ。


「では行きましょう。陛下がお待ちです。」


店の前で二人、町民に扮した騎士たちと別れる。彼らはそのままパンを届けに孤児院に行くのだ。メアリはメリーアンの後ろをそっとついて行く。


城門をくぐり衛兵に会釈をすると軽く会釈を返してくれた。そしてそのままメアリたちは城の中に入っていった。



「彼女、メリーアン様の娘さんですよね。あんな大きな痣が顔にあるなんて可愛そうに………」

彼女たちの後姿を見ながら先程メアリに会釈を返した衛兵がぽつりと呟いた。


「ああ、早く良い相手が見つかればいいが。」


自分の娘ほどの年齢の彼女の事を彼らは朝見かけるたびに心配していた。


体質の為いくら食べても肉が付かないという身体はやせ細り、いつ倒れてもおかしくないほどに弱々しい。

そして長い茶色の髪で隠してはいるものの額から頬にかけては、大きな痣がある。恐らくメリーアンは自分が仕事に言っている間、家に一人で残す娘を心配して同じ城での仕事を進めたのだろう。


「よそで仕事をさせられないからと言って伝手でここで下働きの仕事をしていたら尚更、外での出会いがない。仕方がないとはいえ心配だよ。」



「姫様、その香ばしいパンの匂いのする服をすぐに着替えますよ。今日は隣国の王子がご挨拶にいらっしゃいます。こちらとしては夜会を指定したのですがどうしても日中の早い時間をご希望だそうです。」


部屋に着くと数人のメイドが待機していてすぐにメアリの身支度が始まった。


髪を整え金髪のウイッグをつける、更に体系の隠せるドレスに着替え最後に薄い桃色のベールが付いた髪飾りを頭の上にのせた。見事に別人の出来上がりだ。


「さあ、アメリ様、陛下とお客様がお待ちです。行っていらっしゃいませ。」

メリーアンを筆頭にメイドたちが一斉にアメリに向かってお辞儀をした。


アメリは、呪われている。

朝になると身体がやせ細り、見事な金髪も茶色へと変化し顔には痣が出来る。

そして、日が暮れれば元の姿が戻ってくる。


顔にはホクロの一つもなく、健康的な白い肌の金髪の姫。それが本来のアメリ王女なのだ。


二人いる姉たちも同じ呪いにかかっていたが、運命の相手と出会った途端に呪いが解けた。


今は嫁ぎ先で幸せだと便りが来る。


アメリにもそんな時が来るのだろうか?

夜会で出会う男たちは魅力的だが皆、アメリの王女という地位と外見だけに吸い寄せられているようにしか見えない。

アメリはそんな人を愛するつもりはなかった。


見た目が変わりすぎるので日中は部屋に閉じ籠るしかない生活。それにも厭きてきたころに王妃からパン屋の売り子をしてみないかと言われた。

孤児院に卸すだけだったパンを郊外で販売して売り上げを寄付するらしい。幸い日中なら誰にあっても自分が王女だとは気がつかない。


外の世界を見るいい機会だった。


朝の数時間、店頭に出て笑顔を振りまく看板娘メアリ。それが昼間のアメリだった。

パンを買いに来る客としか会話はしていないがそれでも知らないことを教えてくれる客がたくさんいた。だから彼女はとても楽しかった。


「いっそ、パン屋のメアリが本当の私なら良かったのに。」


そうしたら、本当の自分だけを見てくれる人を自身で探しに行ける。

アメリは応接室の扉の前で入室の挨拶し、返事を待つ。


警護の騎士が扉を開けた。

「アメリ、こちらがチェスコ王国からいらしたアルス王子だ。」


部屋中は記憶に新しい香ばしい匂いが溢れていた。

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