ミミちゃんの願いごと
夜もおそく、たぬきのポンくんが森を散歩をしていると、うさぎのミミちゃんと会った。
「あらポンくん、こんばんは」
「やあ、ミミちゃん。こんばんは。こんなところで会うなんてめずらしいね」
冬の森には雪がふりつもって、辺りはまっしろだ。
ふさふさの毛並みのポンくんも少し寒いなと思うくらい、雪はつめたい。
「ミミちゃんは寒くないの」
「ちょっと寒いけど、大丈夫。だって冬の森って楽しいもの!」
そう言って、ミミちゃんは駆けまわった。
きれいな雪の上がミミちゃんの足あとでいっぱいになる。
ポンくんも、いいなあと思って、いっしょに足あとをつけて歩いた。
「それに今日はね、ほら!」
ミミちゃんは夜の空を見上げた。
黒い空に、きらっと光が走る。
「流れ星!」
ミミちゃんが指さして教えてくれた。
「きれいでしょ。願いごとをしなくっちゃ」と笑う。
「願いごと?」
「うん。ポンくん、知らないの?流れ星に願いごとをするとお星さまが叶えてくれるんだって」
ミミちゃんはにこにこしたまま、流れ星を探している。
だけど、ポンくんは知っているんだ。
「あれは、お空のごみなんだって。にんげんが言ってたよ」
「ごみ?」
「うん、お空のずーっと上から小さなごみくずが落ちてきたものなんだって」
「ごみぐずが光るの?」
「うん、すごーくはやく落ちてきて、光りながら消えるんだって。だからあれはごみくずが消えるときの光」
ポンくんは、前に聞いたにんげんの話を教えてあげた。
光るごみくずに願っても、願いごとなんか叶わないんだ。
本当のことを聞いてミミちゃんは悲しんだかな。
ちらりとミミちゃんを見ると、少し驚いていたけれど、にこにこ顔のままだ。
「そうなの?ごみくずが光るなんて、すごいねえ!とってもふしぎねえ!」
ミミちゃんは空を見上げる。また流れ星を探しているみたいだ。
「……お星さまのにせものにお祈りしたって、叶えてくれないよ」
「えー、そうかなあ」
ミミちゃんはまた流れ星を見つけてはしゃぎ、今度は手を合わせた。
そんなにミミちゃんは何をお願いしたいんたろう。
「流れ星、とってもきれいだよ?」
ポンちゃんはこくん、とうなずいた。「それは、そうだけど」と空を見るのをやめて、雪に足あとをつける。
ミミちゃんはあきらめられないのか、ずっと空を見上げていた。
「きれいでふしぎなものにお願いごとをすれば叶えてくれそうだけどなあ」
「お星さまじゃないんだ。叶えてはくれないよ」
「えー、そうかなあ」
「そうだよ」
願いごとが叶わなかったとき、きっとミミちゃんは悲しむと思うから。
ポンちゃんは叶わないよと言い続けた。そのあいだにもポンちゃんの足あとはどんどんふえる。
「でも」とミミちゃんはポンちゃんをひっぱった。ポンちゃんの足がようやくとまる。
「わたしのお願いごとは叶えてくれたよ」
「え、どんな?」
ミミちゃんが空にむかって手をあげた。
ポンくんも空を見る。
「きれいなもの、たくさんポンくんといっしょに見られますようにって」
夜の空にはいっぱいの流れ星が光っていた。




