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第4話 最底辺の仕事

 牢屋で一夜過ごした俺は、朝日が昇るころ釈放される。


 トボトボと家に向かう俺。

 汚い裏路地に入ると、酔っ払いがゲロを吐いている隣で、浮浪者が物乞いをしている。


 教会と貴族の力は絶大である。

 三子爵家ににらまれた今、俺を雇ってくれるところなど一つもないはずだ。

 数か月後には俺もこうなるだろう。

 そして1年後には、奴隷となり、彼以下の存在となるのだ。




 家についた。

 今にも崩れそうなボロボロのアパートだ。


「ただいま……」


 俺を迎えてくれる者はいない。

 ずっと1人で生きてきたのだ。親もいない。


 いや、正確に言えば、幼少の頃に仲間と呼べる者たちがいたのだが、全員死んだ。

 それからはずっと孤独である。



 俺は、荷物を錬金台の上に置く。

 この錬金台を使うことも、もうないだろう。

 いよいよ金がなくなったら、質屋に持っていくしかない。

 きっと、パン1個しか買えないような値段で買い取られるのだろうが。



「とりあえず寝よう……そして、仕事を探そう……」


 牢屋では眠ることができなかった。

 常に衛兵たちが、口汚く罵ってきたからだ。


 これでようやく眠れる。

 俺はベッドに倒れ込むと、目を閉じた。



 ああ……このまま目が覚めない方が、幸せなんじゃないだろうか?

 今すぐ君のところに行きたいよ、アリス。


 薄い水色のロングヘアーと瞳を持つ、美しく優しく残酷な少女。

 俺は、亡き幼馴染の顔を思い浮かべながら、深い眠りへと沈んでいった。





 目が覚めた時には正午を回っていた。

 まだひどいダルさがあったが、すぐに仕事を探さなくてはいけない。

 重い体をなんとか起こし、街に仕事を探しに行く。


 石運び、水汲み、そういった過酷な単純労働なら、もしかしたら雇ってもらえるかと思ったが、考えが甘かった。

 すでにゲラシウスから圧力がかかっているようで、即追い払われる。

 ろくに話すらできなかった。


「となると、あとは底辺の中の底辺と呼ばれる仕事だけか……」


 最底辺の仕事は墓堀り人だ。

 墓を掘るだけの仕事で、あらゆる人たちから忌み嫌われている。

 だがこの仕事は世襲制(子孫が代々継承する制度)なので、俺が就くことはできない。


 次の底辺は運搬人だ。

 何を運搬するのかって? それは人糞だ。

 各家で貯められた人糞を桶で運び、堆肥場や農地へと運ぶ仕事である。


 臭い。汚い。きつい。

 底辺と言われる理由を、これ以上説明する必要はないだろう。


 誰もがやりたくない仕事だ。きっと手を必要としているはず。

 俺は運搬人の親方をたずねに行く。




「――おお、ちょうど良かったよ! 先日1人やめちまってね。明日からさっそく頼んでいいかな? 給料は1日40ラーラだ」


 この給料では、1年で3万は貯められない。

 だが仕事に就けるかどうかすら怪しかったのだから、ここは素直に喜ぶべきだろう。

 とりあえず、しばらく生活していくことはできるのだから。


「本当ですか!? ありがとうございます! よろしくおねがいします!」


 俺は深々と親方に頭を下げた。




 翌日から俺は運搬人の仕事を始める。


「おう新人、どうだ? やっていけそうか?」

「はい親方! 大丈夫です!」


「おうそうか! がんばってくれ!」


 先輩方の話では相当に過酷とのことだったが、臭いと汚さにさえ目をつむれば、なんとかなるレベルというのが正直な感想だ。



「ギルドで散々しごかれたからな……」


 俺はゲラシウスや上級ギルドメンバーの3人から、「武術も魔法もからっきしの無能錬金術師の使い道は、荷物持ちくらいしかない」と言われ、毎回重い荷物を持たされていた。おかげで荷物運びには慣れており、こうして今役に立っている。


 ちなみに魔法が使えないのは事実なのだが、武術に関してはウソをついている。

 実は、それなりの武術を会得しているのだ。


 なぜ自分の能力を隠すのか?

 それは、俺の武術が暗殺術だからだ。

 それを見せてしまうと、「いったいレイ・パラッシュとは何者なのか?」と、探られてしまう。それだけは絶対に避けなくてはならない。


「あいつらが、とんでもないヘタレだったのは良かったのかな……」


 遺跡奥の魔物を倒す際、奴らの前で暗殺剣の一部を披露してしまったが、あいつらは痛みにもだえて俺の動きなどまったく見ていなかったようだ。

 それについてだけは幸運と言える。




「おーい、正真正銘のクソ野郎!」


 城門をくぐろうとしたところで、3人組に声をかけられた。

 言うまでもない。紅蓮の魔術師ガリム、氷の貴公子ディリオン、雷神ヴァルフリードの3人だ。


 どうやら俺が運搬人になったのを嗅ぎ付け、ずっと城門前で張っていたようだ。

 他にやることがないのだろうか?

 まあないのだろう。ゲラシウスはこいつらに名誉のある仕事しか回さない。


 ギルドの仕事のほとんどは、農村地に出没した魔狼やゴブリンの駆除だ。

 前回のように、事件の調査なんていう依頼は、月に1回あるかないかといったところなのだ。



「糞桶がよく似合ってるぶふぅ! ぶひひひひひひ!」

「ああ、くっさいくっさい! 家に帰ったらママに洗濯してもらわないと!」

「それ以上俺に近づくんじゃねーぞ! 臭いが移っちまうぜ! ぎゃはははは!」


 笑いたければ笑え。

 俺は奴らを無視し、そのまま歩き続ける。


「強がった振りすんじゃねえぶふぅ!」

「ふんっ、これで終わりだと思うなよぉ!」

「ケッ……なんだよ、つまんねえな」


 無視を続ける。

 こんな連中を相手にする必要はない。



 ――だが今思うと、ここで悔しそうにわめいていた方が奴等を満足させることができ、これ以上嫌がらせを受けることもなかったのかもしれない。


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