第24話 豚退治
時は、レイが日記を読み終わった時点までさかのぼる。
「――25日目。肉の正体を突きとめようと思います。多分私は殺されるでしょう。これを読んだ方、どうか私の仇を討ってください。人食い豚を殺してください。お父さん、お母さん、ミミット、ごめんなさい。――コレット」
これで日記は終わりだ。
「25日目……今日じゃないか……! まだ間に合うかもしれない! アリス、森の奥に続く足跡を追うぞ!」
俺は走って足跡を追跡する。
そしてすぐに見つけた。
おぞましい現場を。
「ここで解体したんだな……斧と杖が落ちている。ギシュールとグレタで間違いない……」
このままにするのは気の毒だが、今は新人治癒士を助ける方が先決だ。
俺は一番小さい足跡を追う。
「……走って逃げているな。しかも追いかけているのはガリムだけでなく、フベルカーンもだ。奴も人食い豚に成り下がったようだな」
走って追うこと数分、女の悲鳴が聞こえてきた。
俺は全力で森を駆ける。
「――いた!」
フベルカーンが、小柄な茶髪の女を組み伏している。
俺は即座に、奴の頭頂部に斧を叩き込んだ。
処刑完了。
治癒士の上に倒れ込んだフベルカーンを横に転がし、斧を引き抜く。
「大丈夫か? 怖かっただろう? 1人でよく頑張ったな」
「あう……うう……うああああああああああああああああ!」
治癒士は泣き叫び、俺に抱き付く。
今の声でガリムが気付いただろう。
「よしよし、もう大丈夫だ」
俺は彼女の頭を撫でると、周囲を見渡す。
「――ふっ、それで隠れているつもりか?」
6時方向の茂みがガサガサと揺れている。
俺は小石を拾い、茂みに向かって投げた。
「いええええええ! ぶひいいいいいいいいいい! 新鮮な肉ううううううううう! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 食う食う食う食う食う食う食う食う!」
よだれを垂らしながらガリムが突進してくる。
なんと醜悪なツラだ……これなら魔物の方が百倍マシではないか。
「あのブタは最強火炎魔法が使えるんです! 射程に入ったら終わりです! 木こりさんに勝てる相手ではありません!」
確かに正面から戦いたくない相手ではある。
「大丈夫だ。木こりは結構強いからね。君は向こうに逃げていてくれ。その方が戦いやすい」
「し、しかし……!」
「問題無いと言っている」
「わ、分かりました。ご無事をお祈りしています」
コレットは申し訳なさそうに森の奥へと走り去る。
おっといけない。ちょっと威圧感がでてしまったかな? 彼女を怖がらせてしまったかもしれない。
許してくれ。戦うところを見られたくないんだ。
俺はチラリと樹上を見る。
うん、もう少しだ。
「殺す手段などいくらでもあるんだが、捕まえるとなると、けっこう面倒でな。色々仕掛けてみたが……さて、うまくいくかな?」
ガリムがさらに接近してきた。
「犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯すうううううううう! 犯して食う! 食って犯す! ぶひいいいいいいい!」
パンッ!
破裂音が森に響き渡る。
「ぎゃあああああああああああ! 目が! 目がああああああああああああ!」
奴は、トウガラシの粉末が入った革袋を踏んづけたのだ。
さすがにこれはうまくいかないだろうと思ったが、とんでもない間抜けである。
地面をのたうちまわるガリムの上に、何かがボトッと落ちる。
スライム形態に戻ったアリスだ。
彼女はガリムの顔にへばりつき、口をふさいだ。
これで奴は魔法を使えない。
「ごめんなアリス。そんな気色悪いものを触らせて」
ガリムが戦闘不能のうちに、手を縛り、目隠しと猿ぐつわをする。
「――よしアリス、もう戻っていいぞ」
人間形態に戻ったアリスに服を着せる。
奴の口を封じてくれと命令しておいたのだが、まさかこんなにうまくいくとはな。
俺の言葉を理解できているだけでなく、戦術も分かっているようだ。
「お前は頼もしい相棒だな」
俺はアリスをなでなでする。
「えいっ! えいっ! 死に……さらせ! この……ブタ野郎が!」
「ふがっ! ふがっ! ふががががが……!」
コレットは、ガリムの顔を何度も蹴り上げている。
「そのへんにしておくんだ。それ以上やると、裁判で不利になる」
「裁判? ここで殺さないんですか?」
「ふががっ!?」
なかなか恐ろしい発想をするな。
地獄を味わったせいで、破ってはいけない殻を破ってしまったようだ。
「こいつは公の場で裁かないといけない」
「三子爵を相手に、裁判で勝つのは無理だと思います」
コレットの言うとおりだ。
事実を闇に葬り、嘘の話をでっちあげるだろう。
そして逆にこっちが処刑台に立たされる羽目になる。
「大丈夫さ。正義は勝つよ」
「……分かりました」
どういうことか聞きたそうだが、「今の回らない頭で聞いたところで理解できないか。ここはお任せしよう」コレットはそんな表情をしている。
「という訳だ。――おいガリム、歩け。久々デポルカの街に帰れるぞ」
「ふごっ! ふごっ!」
俺を先頭に、アリス、ガリム、コレットの順で歩く。
ガリムが不審な行動を見せたり、まっすぐ歩かなかったりすると、コレットはメイスで奴を打ち付けた。
なかなか頼りになる看守である。
そして25日目の日没前、ついにガリムとコレットは森を脱出できたのである。




