第13話 木の魔物の正体
「――あれか!」
木こりが、木の魔物の枝に絡めとられている。
こんな魔物は見たことも聞いたこともない。間違いなく新種だ。
「助けてくれえええええええええ!」
「待ってろ! 今助ける!」
俺は全速力で駆け、木の魔物の幹に斧を叩き込んだ。
だが、斧はわずかに食い込んだだけで、ダメージを与えた感じがまったくない。
「なんて硬さだ! 剣や槍ではまったく攻撃が通らないぞ!」
斧だから、多少傷付けられたという感じだ。
これが剣だったら、ノーダメージかつ、一発で折れていただろう。
「うわあああああああああああ! 食われるうううううううううう!」
「ウロに牙が……! あそこが口なのか!」
ウロの中にはびっしりと鋭い牙が生えており、それで木こりの足に噛み付こうとしている。
本当にこいつは植物なのか? 獲物を歯で噛み千切る食虫植物なんて見たことがないぞ?
「食らえ!」
俺は、木こりを絡めとっている枝の一本に斧を振り下ろした。
バキッ!
見事、枝をへし折る。
「折るには折れたが、やはり異様に硬い。おかしいぞ……!」
俺は枝の断面を見る。
「これは……!」
肉質がある!? まるで昆虫の足じゃないか……!
そうか……! こいつは昆虫型の魔物なんだ……!
「ナナフシのような、植物に擬態する能力を持った魔物という訳か……!」
であれば……!
俺はサイドバッグから、ビンを一つ取り出し、中身を斧に振り掛けた。
このビンの中身は殺虫剤。別名『青血毒』だ。
血液成分を破壊し殺す毒なのだが、青い血液にしか効かないので、人間を含めたほとんどの動物には無害だ。有効なのは昆虫だけである。
森の中はとにかく虫が多いので、麻薬工房で奪った錬金素材を使って調合し、持参していた。
これが役に立つかもしれない……!
「せいっ!」
俺は枝に斧を振るった。
幹を狙っても、固い外骨格に阻まれ、斧がなかなか肉に届かないからだ。
「どうだ!」
枝を叩き切り、肉に殺虫剤を触れさせた。
果たして効果はあるだろうか?
「お、苦しんでいる感じだぞ!」
魔物は、もがくように枝を動かす。
その隙に俺は、もう一発叩き込んだ。
「うあっ!?」
魔物が木こりを放す。
無事救出成功だ。
「大丈夫かお前たち!?」
「助けに来たぞ!」
親方と木こりたち、そしてアリスがやって来た。
「今、殺虫剤で弱らせたところです! これからとどめを刺しますが、危険ですから近づかないように!」
俺は殺虫剤を塗り直し、木の魔物に再接近する。
おそらく末端の枝を斬り落とすだけじゃ、致命傷は与えられない。
「もっと中枢を狙わないと……」
だが幹の部分は固い外骨格に覆われているので、傷を負わせることができない。
どこか弱点は……。
あった……!
「――ここだ!」
ウロの部分、つまり口に斧を叩き込む。
一発! 二発! 三発! 四発! 五発!
その間、魔物は苦しんでいるせいで、まったく反撃できない。
ひたすらもがくだけだ。
「六発!」
俺の渾身の一撃は、魔物の口に深く食い込んだ。
ズドオオオオオオオオオンッ!
魔物が倒れる。
「おおおおおおおおおおお! やったな新人! すごいぞ!」
「いや、まだ生きてるかもしれません。確実に殺します」
これをできるかどうかが、プロとアマチュアの違いだ。
俺たちプロは、確実に死んだと分かるまで、決して攻撃をやめない。
何度も魔物の口に斧を叩きつけ、周囲の外骨格を粉砕していく。
すると、肉が露出したので、それもさらに叩き切る。
青色の血液が飛び散った。昆虫の血液の色だ。
「うえええ……」
「ひいっ……」
親方たちは、青ざめた顔で俺を見ていることしかできない。
彼等には、俺が狂戦士に見えているのだろう。
「――おっ、これは脳か?」
口のやや上の方に、小さな脳を見つけた。
ここを<雷撃>で狙い撃ちすれば、一撃で倒せるかもしれない。
「死ね」
俺は脳に斧を振り下ろす。
魔物はピクリとも動かない。処刑完了だ。
「皆さん、安心して下さい。魔物は死にました」
「お、おお……それは良かった……」
「死体はどうする? 燃やした方がいいのか?」
魔物の死体を放置しておくと、それがさらに他の魔物を呼び寄せる原因になる。
そのため、魔物の死体は速やかに焼却するのが基本だ。
しかし……。
「やめておいた方がいいかもしれません……」
「どうしてだ?」
「フェロモンが辺り一帯に撒き散らされてしまうかも。そうすると、この魔物がどんどん集まって来てしまいます。調査が済むまでは、何もしない方がいいと思います」
「そ、そうなのか……分かった……」
昆虫の中には、卵巣に仲間を呼びよせるフェロモンを蓄えているものがいる。
燃やすと、そのフェロモンが大気中にばらまかれてしまうのだ。
こいつが同じ性質を持っていた場合、大惨事になる。
「むっ……仮にそうだとすると、マズくないか……?」
冒険者ギルドが送り込んだメンバーのうち、魔術師は全員火炎術師だ。
木の魔物を昆虫だと見抜けず、火炎魔法を連発していたとしたら……?
「……親方、もう一度冒険者ギルドに報告をお願いできますか? ナキルヤの森の魔物は木ではなく、ナナフシのような昆虫の魔物であり、炎は有効でないどころか、危険を招くおそれがあると」
「分かった! すぐに伝えよう!」
「あと、討伐隊がどこから森に入ったか案内してもらえませんか?」
「構わんが、何をするつもりだ?」
「彼等を追跡します。もしかしたらすでに全滅しているかもしれませんが……」
ガリム以外にも問題児が揃ったパーティーだ。
命を賭けてまで助けたいとは思えない連中だが、新人のことが気になる。
できれば助けてあげたいところだ。
「1人でか!? 危険すぎるぞ!?」
「大丈夫です。ムリはしません。危険と判断したら、すぐに帰還します」
魔法の援護無しで相手にできるのは1体まで。
それ以上の数に襲われたら撤退しよう。
「そうか……よし……ドルキ! 案内してやれ!」
「分かりやした! じゃあレイ、ついてきてくれ!」
「お願いします。――アリス、行くぞ」
こうして俺は、ガリムたちを追跡することにした。




