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第11話 破滅の第一歩

「ひいいいいいいいいいいいいい!」

「なぜこんなに利益が下がっているのだ!? ええ!?」


「そ、それはですね……1回の依頼にかかる時間が大幅に伸びてしまったせいでございまして……」

「どういうことだね!?」


「えー……これはあくまでギルドメンバーが言っているだけなのですが、レイがいなくなったからではないのかと……」

「そんな訳あるか! あんな無能が一人いなくなっただけで、変わるはずがなかろう!」


 ゲラシウスが拳を机に叩きつけると、ワイングラスが倒れた。


「それがですね……奴は特定の魔物をおびき寄せる薬と、毒を仕込んだエサを使って、かなり効率的に魔物を退治していたようなのです」

「誘引剤と神経毒だろう? そんなものなら、錬金術師なら誰だって用意できる! ウチにももう一人いただろう!? なんだっけあいつ……」


「フベルカーンですね。彼の調合した薬では、あまり効果が無いようです。ギルドメンバーいわく、範囲が狭すぎるし、毒も弱すぎると」

「むう……使えん奴だな……だがそれだけで、こんなに利益が減るのか!? 他にも理由があるはずだぞ!?」


 グスターボが申し訳なさそうにうなずく。


「ええっと……実は、マジックポーションが不足し、薬屋で購入しないといけなくなったため、経費がかさむようになってしまいました」

「なんだと!? フベルカーンは何をやっているのだ!?」


 ちゃんと仕事をしていないのか!?

 だとしたらクビだ!


「可能な限り調合をおこなわせてはいるのですが、彼の作るマジックポーションは回復量が小さく、また作業速度も遅いため、購入せざるを得なくてですね……」

「むうう……! では、マジックポーションに使用制限をかけろ! 一つの依頼に持っていける数は4つまでだ!」


「それだと依頼の成功率が――」

「つべこべ言うな! クビにされたいのか!?」


「ひぃ! も、申し訳ありません! すぐに、そのように手配いたします!」

「うむ、そうしてくれ。これで再び大黒字となろう。――さて、他になにかあるかね?」


「はい。新種の魔物の調査はどういたしますか?」

「ああん?」


 新種の魔物……?

 ああ、遺跡の奥で見つかったやつか。

 調査なんかしても、たいして金にならんからなぁ……。


「調査の予算と人員を決定していただきたいのですが?」

「ああー……予算はそうだな……」


 食費と雑費あわせて100ラーラもあれば十分か?

 ――いや、ダメだ。


「50ラーラ」

「ご、50ですか!?」


「む、まだ多いか?」

「あ、いえ……他の街では、1万単位の予算を投入するのですが……」


「馬鹿者! 魔物の調査に、なぜそんなに金がかかる!? 行って帰ってくるだけだろう!?」

「あ、ええと……生態や習性を調べるとなると、かなりの長期間になりますし、学者なども雇う必要がありますので……」


「そこまでやる必要なかろう! 魔物など、どれも弱くて一緒だ!」


 魔狼、ゴブリン、大ガエル、大イナゴ、どれも人間の敵ではない。

 チームで追い詰めて、魔法で一気に殲滅する。戦い方も全部同じだ。

 そんなザコどもに1万単位の金をかけるなど、他のギルド長はバカしかおらぬのか!?

 きっと、コネでギルド長になった奴ばかりなのだろう!


「しょ、承知いたしました! では、人員はいかがいたしましょうか?」

「手の空いている奴は誰だ?」


「えー、今空いているのは、ボーニーとモティフですね」

「ウスノロとマヌケか。まあいい、その二人にやらせろ」


「かしこまりました。では2人に伝えておきます」

「うむ、頼む」


 グスターボは頭を下げ、ギルド長室を後にした。



 しばらくするとドアがノックされる。


「どうしたのかね?」

「レベンダル様が会いたいそうです」


 現秘書ベロニカの声だ。


 まったく何度も言っても分からんな、あのバカ女は!

 貴族を呼ぶときは、“様”じゃなくて“卿”をつけろと何度言ったら分かるのか!

 やはり元々売春婦だったので、頭が悪い。


 毎日通うほどのお気に入りの売春婦だったので、それだったら雇った方が早いんじゃないかと思って秘書にしたのだが、失敗だったかもしれんな。


「通してくれたまえ」

「分かりました」


 ドアがガチャリと開き、レベンダル子爵が姿を見せた。


 用件はなんとなく察している。おそらく麻薬がらみだろう。

 この馬鹿は、裏で麻薬の密造・密売を組織的におこなっているのだが、どうやら何者かに嗅ぎ付けられたようなのだ。

 麻薬工房の一つが潰され、こいつが黒幕だという噂が流布されている。

 おそらく、こいつと犬猿の仲であるリッター子爵の差し金だろう。


「やあごきげんよう、ゲラシウス殿」

「ごきげんうるわしゅう、レベンダル卿。――本日はどのようなご用件で」


「あー……私の“稼業”でちょっと問題が生じてね。よからぬ噂をたてられてしまっているのだ」

「私の耳にも入っております」


 バカが……せめて他の街でやればいいものを、デポルカの街に工房を作るから、すぐに足がつくのだ。

 まあこいつの献金の一部が、私の懐に入っている訳だから、そう悪くは言えんがね。


「そういった噂を吹き飛ばすような活躍を息子にさせたい。何か良い依頼はないのかな?」


 なるほど。ガリム卿を英雄にすることで、悪い噂を打ち消そうということか。

 しかし……。


「今そのような――」


 そのような依頼はないと言おうとしたところで、再びドアがノックされた。


「どうしたのかね?」

「失礼します!」


 ドアが開き、グスターボが顔をのぞかせる。


「領主ラペルト卿より、緊急の依頼です! ナキルヤの森にて、木こり2名が木の魔物に喰い殺されたと!」

「木の魔物だと!? そんな魔物聞いたことないぞ! また新種か!?」

「木か……では、火に弱いのではないかギルド長!? これは紅蓮の魔術師と称される、我が息子の出番だぞ!」


 ゲラシウスはレベンダル子爵に大きくうなずいた。


「よし! この依頼、ガリム卿に任せるとしよう!」




 これが彼等の破滅への一歩であった。


 ……いや、それは誤りか。

 レイ・パラッシュを追放したことが、真の第一歩なのだから。


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