表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/32

第10話 嫉妬ではない

 時は、レイの就職が決まった数時間後。


 ここは冒険者ギルド、ギルド長室。

 ギルド長ゲラシウスは、機嫌よく高級ワインを飲んでいた。

 上等なチーズをつまみにして。



「わははははは! 愉快! 実に愉快! クソ運びしている姿も良かったが、毎日毎日仕事を探している姿は最高だ!」


 わざわざ奴の様子を見に、街へ繰り出した甲斐があったというものだ。


「――うむ、うまい! 奴のあの哀れな姿を思い出すと、さらに味が良くなるな! わはははははは!」


 ゲラシウスは満足気にうなずき、グラスを置いた。


 ――私の根回しが上手くいったようだ。

 レイの奴めは、最底辺の仕事にすらありつけない。

 あといくばくかもすれば、物乞いとなった姿を拝めるだろう。

 そしたら、5ラーラくらい恵んでやりに行ってやるか。


「グスターボ! グスターボ!」


 ゲラシウスは、副ギルド長のグスターボを大声で呼ぶ。

 このギルド最高のイエスマンだ。


「いかがいたしましたか!?」


 グスターボがギルド長室に入って来た。

 手には書類の束を持っている。


「カビの生えたパンを用意しておけグスターボ! レイが物乞いとなったら、施しに行ってやらねばならん! わははははは!」

「いひひひひひ! 承知いたしました! 良いお考えですね! さすがはギルド長です!」


 うむうむ、良い返事だ。さすがは我が腹心よ。


 レイにはもっと地獄を味わせてやらねばならん。

 奴は完全に私を怒らせたのだ。


 私は大学で錬金術を24年学んだが、基礎スキルまでしか習得できなかった。

 だがあの男は、上級錬金スキルを習得しており、それをこれ見よがしにみせつけ、マウントをとってくるのである。本当に許せぬ!


 しかも、私がギルドにいる時に限って、あのゴミクズ野郎は錬金をおこなっているのだ。なんと性格の悪いことか!


 ちなみに一つ断っておくが、嫉妬ではない!

 奴のねじ曲がった性根が許せないというだけだ!



「グスターボよ。レイの奴めは、なぜ私がギルドにいる時にのみ、錬金をおこなっていたかを知っているかね?」

「はあ? まあギルド長は、ほぼ1日中ギルド長室におられますので、そうなるのかとは思いますが……私にはなんとも……」


 見ろ! 私の次に知恵者であるグスターボですら、把握できていないのだ!

 レイの奴めが、いかにツラの皮の厚い男だったか、よく分かるわ!

 そんな悪人は追放して正解だ! 私は正義をなしたのだ!



 そしてもう一つ!

 あの男は顔がいい。ギルドに入った時から、女メンバーに人気があった。

 私はそれが許せなかった。


 いや、もちろん嫉妬ではない! それは断定できる!

 奴が、ギルドの調和を乱すのが許せなかったのだ!


 当時金の力で愛人にしていた秘書のメルルが、「あの新人の男の子、なんか良くない?」と、他の女ギルド員と話しているのを盗み聞きした時に、私の怒りは絶頂に達した。

 その日にメルルをクビにし、レイにとことん厳しく対応する。


 繰り返そう。嫉妬ではない!

 思い上がったレイの根性を叩き直すためである!



 まず、ポーションの調合にかかった経費は一切払わない。当然だ。

 私は指導をしてやっているのだ。これはその教育代という訳である。

 そして、魔術師たちにはガンガン魔法を使用し、マジックポーションを飲みまくるようにと通達した。


 おかげで奴は金に困るようになり、痩せこけ、女たちからの人気も失っていった。

 私の英知の勝利である。



「――あ、ギルド長。ついでに今月の収支報告をさせていただきたいのですが?」

「うむ、どれどれ?」


 ゲラシウスはグスターボから収支報告書を受け取る。


 今月も大幅な黒字に違いない。

 我がギルドは、4年前から利益が大幅にアップしたのだ。

 原因はよく分からぬが、まあ私のおかげだろう。


「――ん? んんん……!?」


 書類を持った手がプルプルと震えはじめる。


「これはいったいどういうことだああああああああああああああ!?」


 ゲラシウスは収支報告書をまっぷたつに引き千切った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ