第1話 追放検討会
「それではギルドメンバー、錬金術師レイ・パラッシュの追放検討会を始める」
ここは冒険者ギルドの会議室。
重厚感ただようUの字型のテーブルには、三子爵家の親子、教会の司教、そしてギルド長のゲラシウスがついている。
「レイ・パラッシュ。前へ来たまえ」
「……はい」
部屋のすみにいた俺は、ゲラシウスに呼ばれ、Uの字の中心のスペースへと進む。
ここは、いわゆる被告席というやつだ。
俺はこれから、厳しい追及を受けるのだろう。
嫌になってくる。
「レイ。ナキルヤの森の遺跡であったことを、話してもらおうじゃないか」
「はい。俺はそこにおられる、ガリム卿、ディリオン卿、ヴァルフリード卿、そして死亡したギルドメンバーとともに、遺跡の調査に行きました。発掘隊が消息不明となったからです」
俺は昨日あった、大きな事件について語りだした。
* * *
まさかこんな魔物が、この世に存在するとは。
遺跡の最奥に到達した俺たちを待ち構えていたのは、肉塊に何本もの触手が生えた新種の魔物。
その触手に貫かれ、すでに戦士2名が殺されてしまっている。
消息不明の発掘隊も全員死体で見つかった。
「なんなんだこいつは!? 俺様の魔法が直撃したのに!」
「再生能力があるようです! ヴァルフリード卿!」
三子爵家の長男、巨体の雷神ヴァルフリードが放った<雷撃>が、魔物の触手を焼き切ったのだが、すぐに生えてきてしまったのだ。
「ならば僕に任せたまえ! <絶対零度>で氷漬けにしてやる!」
同じく三子爵家の次男である氷の貴公子ディリオンが、冷気系最強魔法の詠唱をこころみる。
「お待ちを! 攻撃が来ます! まず防御を!」
触手の動きを感知した俺は、ディリオンに<魔力の壁>を張り、みんなを守ることを提案する。
他の2人の魔術師は魔力切れを起こしており、防御可能なのは彼だけなのだ。
「黙れ平民が! 攻撃がくる前にやってやる!」
「攻撃は最大の防御だぶふぅ!」
「いいぞ! やってやれディリオン!」
ディリオンは手にした小剣に魔力を集中させた。
こいつら3人は貴族のため、プライドが高い。
平民の俺の言うことなど、意地でも聞かないのだ。
「――危ない!」
予想どおり、ディリオンが魔法を発動する前に、触手の攻撃がきた。
俺はすぐさま横にローリングをし、これを回避する。
「うぐっ!」
「がっ……」
「ああああああああああっ!」
目と首を機敏に動かし、状況を把握する。
その間1秒弱。これができなければ、戦いで生き残ることはできない。
攻撃を食らった者は3名。
――豚のように肥えた男、紅蓮の魔術師ガリムの太い足を触手がかすったようだ。
直接狙われたわけではなく、巻き添えを食っただけのようである。
その場に倒れ込んでいるが、すぐに死ぬケガではない。治療は後で問題ない。
――レンジャーの胸が貫かれている。
心臓の位置だ。彼女はもう助からない。即死だ。
――治癒士の腹部からおびただしい出血があるが、まだ生きている。
彼の救助が最優先だ。
「食らえ! <絶対零度!>」
氷の貴公子ディリオンの小剣から、冷気の光線が照射され、化け物を凍りつかせた。
「よっしゃあああああ! さすがだなディリオン!」
「ふっ、任せたまえ」
いや、お前が<魔力の壁>を張っていたら、レンジャーの彼女は死なずにすんだ……!
そう叫びたくなる気持ちをおさえ、俺はサイドバッグから自分で調合したポーションを取り出した。
「待ってろ! 今すぐ助けるぞ!」
あの魔物がはたして本当に死んだかは不明だが、とりあえずこの隙に治療が可能だ。俺は彼の元へ駆けつけようとする。
「待てええええええええ! 俺の治療が先だぶふううううううう!」
紅蓮の魔術師ガリムが、傷口をおさえながら、鬼の形相で俺を怒鳴りつける。
信じられん。
お前のケガは致命傷ではないんだぞ?
仲間の命よりも、自分の苦痛を取り除く方が重要だというのか?
「いや、彼は致命傷を負っています! 今すぐ治療しなければ!」
「俺はレベンダル子爵家の長男だぞおおおおおお!」
貴族とはそこまで尊い存在なのか?
いや、そんなことはないはずだ。
「申し訳ありません! 彼の治療からおこなわせていただきます!」
ポーションのフタに力を込めようとしたその時――
「<電撃!>」
「うぐっ!」
雷神ヴァルフリードが俺に<電撃>を浴びせてきた。
仲間に攻撃魔法を使うだと!?
一瞬硬直した俺は、ポーションを落としてしまった。
「殺すぞてめえ! よこせ!」
ヴァルフリードは俺のポーションを奪うと、ガリムの元へと駆け寄った。
「おう、待ってきてやったぜ!」
「助かったぶふぅ! ヴァルフリード、礼を言うぶふぅ!」
ヴァルフリードが、ガリムの傷口にポーションをかけた。
ガリムの傷がふさがっていく。
「ぐっ……大丈夫だ。まだポーションはある……」
サイドポケットから、もう一本ポーションを取り出したところで気付いた。
治癒士の眼から光が失われている。
「くそ……!」
あそこでポーションを奪われなければ助かっていただろうに……! ちくしょう!
「レイ! 俺たちにマジックポーションを寄越せぶふぅ!」
「……了解」
俺はガリム、ディリオン、ヴァルフリードの3人にマジックポーションを渡した。
これは魔力を回復するポーションで、俺が調合したものだ。
買うとけっこう高い。
3人はマジックポーションを飲み干した後、魔物の周囲を囲む。
「死んだと思うかディリオン?」
「当然だろう。僕の<絶対零度>を食らって、生きているものなどいない」
「俺にも死んでるように見えるぜぶふぅ?」
ヴァルフリードが、コンコンと拳で凍った魔物を叩く。
――その瞬間、氷が砕け散った。