いや、まあ、その。 4
「信じざる終えないでしょう。マリアのそっくりな顔に、事態に対する判断力。その激しい気性。決して正しい判断が出来ているとは言えない物の、やりようは昔の姉上にそっくりだ。だから、困るのですがね」
「それはどういう事なのかしら」
「間違いなく、彼の娘が姉上の娘なら、なおのこと危ういことになると思うのですよ。何より、呪われた双子だと言うことだからです。御爺様が、姉上に恨まれることを承知で、彼女を処分するように命令した意味が無くなってしまう」
アリス・ド・デニム伯爵夫人は、栗色の瞳を弟の顔に向ける。その苛立った表情から、余裕という物が無くなっている。
アリスは心の怒りを抑えるように、微笑みを浮かべるように努力はしている。それでも、産み落とした大事な娘を、勝手に処分するように命令した、御爺様に対しての怒りが、未だに心の何処かに燻っており。如何しても、燃え上がってきてしまう。
そう言った気持ちは、判断を曇らせる。国を預かる物として、そういった事で政をするのは、間違いであることを彼女は理解しているのだけれど。それでも、生きていて呉れた娘を手放したくはなかった。
適うなら、内外に恥じることなく、自分の娘として、受け入れたいと考えている。其れはどうしよう見なく、困難で難しいことだとしても。
今のナーラダのリコは、平民の娘と言うことに成っている。其れを、伯爵令嬢にするのは、そう簡単なことでもない。何より、親戚達の支持を得なければならない。
今回の遠征は少なくとも自分に最も近い、ディーン・デニム子爵の支持を取り付けることだ。勿論、強引に其れを決めることは出来なくは無い。しかし、そうすると明らかに対立を生む。このマルーン邦の置かれている、状況での対立は内乱を産むかも知れない。
何より厄介なことは、双子という忌むべき存在に対する、伝説は無視出来ない。
曰く、双子が生まれた家には神の呪いが降りかかり。やがて、多くの犠牲を伴って、家を終わらせる。
此れはこの辺りで信じられている、言い伝え似すぎないと、今のアリス・ド・デニム伯爵夫人は考えている。自分が双子を妊るまでは、そういった事に全く興味を持っていなかった。あくまで他人事でしか無かったからである。
確かに、双子が生まれたことで、家の中に派閥が出来て、対立を産み争いが起きたことはあった。しかし、其れは双子の呪いではなく。周りの人間達が起こしたことでしかない。孰れ起こるべくして起きたことだったのではないかと思うのだ。
「私は、彼の娘を養子にすることに反対します。ハーケンを隊の中に置いておくことすら、危ういと思っている位なのですよ。それを、継承権を持たせるなんて、信じられないことです」
「貴方は何を言っているの」
「ハーケンの奴は、彼の娘が姉上の娘だとすると、ハーケンの奴は御爺様の命令を反故にした挙げ句。失踪したような男ですよ。信用など出来るわけが無いではありませんか。いくら昔恋仲だったからと言って、今でも昔通りの信頼の出来る男とは限らない。それどころか、奴はデニム家に対して、恨みを抱いているかも知れないのですよ」




