いや、まあ、その。
「御嬢様。此れからどうなさるのですか」
「リコが居なくても、一応、身体を動かしておこうと思いますの」
あたしはチッタの質問に答える。この辺りは本来は、直接の質問失礼します、が入らないと行けない。そんなこと気に掛けることでもないのだけれど、あた達のことを観察する目が、何処のあるか判らないのだから。気を付けて貰いたい物だ。
対外的には、今のあたしはこの邦のお姫様なんだからさ。なんちゃってだけれどもね。
しみじみマリアの言葉遣いを真似るって、本当に難しい。何しろあたしの育ちが大夫悪いんで、つい庶民同士の話し言葉がでそうになる。昔のあたしも、相当粗野な育ちをしていたから、付け焼き刃的に賢者様から教えを施されていても、如何しても地が出そうになってしまう。
最近は、あたしと話すようになってから、マリアの言葉遣いの方が悪くなって居てしまっているくらいだ。下にさがることの方が楽だから、その辺りは仕方が無いんじゃないかって、あたしは思ったりしている。
「そう言えば、彼のじゃじゃ馬女と一緒に、走ったり弓を習ったりしているんでしたっけ」
「そうね。多少は運動をしておいた方が良いでしょう」
後で酷い目に遭わしてやるぞと、あたしの心の中でメモを取りながら笑ってみせる。女はこういった事が、平気で出来る生き物なんだ。今度、此奴を小隊の練習場に招待して上げる事にする。其処で、あたしのストレス発散の相手をさせてやろう。
一応あたしは、父ちゃんの指導の下に、一通りのことは出来るようになっている。自分の身は自分で守ることが出来るくらいには、強かったりするんだ。でも、ウエイトが同じくらいならって、条件が付いてくるんだけどね。
「暇なら、私に付いて来なさい」
あたしは思わず命令口調で、チッタの奴に言ってしまった。
今のあたしは、なんちゃってマリアなんだから、軽く流すつもりだったんだけれど。一寸汗をかくくらい走り込んでも良いかもしれない。チッタもいっぱしの兵隊なんだから、あたしに着いてくることが出来ないなんて事もないだろう。
因みに、あたしが本気で走り出したら、うちの小隊の中でも、一緒に走ることが出来る奴は、半分くらいしか居ない。何しろ、悪役令嬢マリアの身体のスペックは相当高いところにあるからね。
最初は軽く走り出す。そして身体が慣れてくると、一気に加速してゆく。昨期までのストレスが、あたしの頭の中から、後方においていかれるようで気持ちが良い。矢っ張り身体を動かすって、気持ちが良い物だ。
餓鬼の頃から、山の中で鍛えたこの身体のバネはとんでもなく使える。育ちの所為なのか、元々のハイスペックの所為なのかは判んないけどね。
あたしの頬に笑いが浮かんでくる。チッタの奴は随分後ろになってしまった。彼奴はあんまり鍛錬していなかったと見える。
戦ったりする仕事を為ているんだから、真面目に鍛錬をしておいた方が良いと思うんだけど。矢っ張り何処か貴族の端くれだから、其れほど頑張らなくても、問題ないのかも知れない。ああいった、貴族関係の兵隊は簡単に隊長職を手に入れることになるから、頑張んなくても良いのかも知れないな。




