育ちの悪いお姫様 Ⅱ
あたしの朝は結構早い。
未だに春先だから、朝日があたりを染め上げるには、少しばかり早い時間に目が覚めてしまう。この辺りは、父ちゃんの娘として育てられる間に、習い性になってしまっている。この辺りは、庶民の娘として、常識的な生活には違いない。昔と比べると、今のあたしは随分健康的な生活を為て居る。
あたしは天蓋付きの、無駄に豪華なベットから起き出し。裾の長い肌着をたくし上げて、ベットの上で胡座をかく。軽く背中の筋肉を伸ばすように、両腕を高く上げる。
此所であくびが出た。久しぶりに、深く眠りに就くことが出来た。昨日は相当疲れていたんだなと思う。食事に出された、赤ワインが効いたのかも知れない。
この境の常識として、あたしくらいの年齢になれば、食事時に飲酒することは咎められることは無い。何より、結構マリアもお酒が好きだしね。
さて、起き出そうかな。本来なら、マリアの起床時間はこの時間じゃ無い。彼女は、流石にお姫様らしくかなり遅い時間になってからだ。何より、あたしに起こされなければ起き出すことが無かった。
暖炉の火が十分、部屋の中を温められた頃。あたしがベットの中で、ウダウダしている彼女を起こすことになっている。こんな時はまるでメイドのようだと思ったりもする。まぁ、メイドなんだけれどね。
軽く身体の動きを確かめながら、この部屋にある暖炉に火をともす係りのメイドさんが来るのを待つ。こう言った使用人のお仕事は、何処の御屋敷でも変わらない。火を付けて歩くのは、メイドの中でも比較的若い子が担当になることが多い。
本来なら、あたしなんかもメイドの中で、殆ど下っ端だから、こう言った仕事を任されるんだけど。何故か、あたしはそういった事を任されることが無かった。そう言う意味で、あたしって優遇されている。良く、他の先輩メイド達に虐められないでいるもんだ。
因みにあたしの寝室は、結構広くて、秘密の通路に通じる隠し扉がある。ああ言って危ないものは、昨日のうちに探索しておいて、一寸細工を施してある。簡単に言うと、くさびを打ち込んで置いた。其れと、若しかすると此方に来て、のぞきを為ようとするかも知れない人に対して、簡単なメッセージを紙に書いて、判るように扉に貼り付けておく。
何よりも、乙女の部屋を覗くなんて、そんな破廉恥なことを、あたしは許せなかったりするんだ。
あたしが覗く側なら、そんなに問題にならないだろうけれど。あたしが覗かれるのは、一寸嫌だからね。罠を仕掛けても良かったんだけれど、其れは少し笑えないかも知れないからね。
何より、この間も、あんな事が有ったばかりだし。あたしが神経質になっていたとしても、其れほど問題にもならないと思うのよね。
あたしの御屋敷の中で、奥様の御部屋に繋がる通路に付いて、よく判っていたんだけれど。あんな事に成るなんて思わなかったからさ。話しておけば良かったなって、思ってしまう今日この頃なのよね。
小さくノックをする音が聞こえて、隣にある居間の方の扉の鍵が、開けられる音が聞こえる。たぶん暖炉に火をともしに来た、メイドさんなんだろうな。細心の注意をしながら、暖炉の前に向かう足音が聞こえる。
此れから、此所の使用人達の一日が、始まる。




