圧迫面接件食事会 6
「ウエルテス・ハーケンが、騎士をしていたときの強さは存じ上げていましたけれど。今現在は判りません。長いこと現役から退いていたのですから、其れなりには衰えていても可笑しくないと思いまして。恥をかかせれば、大人しくなるかと思いまして」
相変わらずあたしの事を見詰めながら、デニム子爵がそんなことを言っていた。正直、会話をする態度としては、決して褒められたことではないだろう。あたしが、こんな態度で話すようなことがあれば、間違いなく注意されてしまうだろう。何よりあたしは、単なる使用人でしかないからね。
「ねえ、ディーン。貴方はいつからそんな不作法になったのですか」
と、奥様が強い口調で、デニム子爵の言葉を投げつける。大きな声ではなけれど、その迫力のある言葉に、あたしは奥様の横顔を見てしまった。
あたしは隣に座っていて良かったと思う。この強い視線にさらされているのは、メンタル的にしんどいような気がする。
子爵の視線が、あたしから離れた。少しだけ居心地が良くなった気がする。多少は圧迫面接の要素が無い訳でも無かったのかな。ただ、子爵の様子を見ていると、面接を受けているのは、あたしなのかこの人なのか、一寸判らなくなってくる。
「いえね。マリアの様子が、以前とかなり違っているように見えて、大変興味深いなと思いまして。思わず顔を見詰めてしまいました。それに、以前より少しばかり引き締まった体付きをしているようなので、好ましく思いまして」
在り来りなお世辞混じりの言葉を、デニム子爵は微笑んでみせる。それでも、心のそこからの言葉ではないみたいだ。気を付け無ければ行けないな。若しかすると、侍女のシーラ・ロックトンさんから何か報告を受けているのかも知れない。
あたしは思わず、カトラリーを握っている手に力を入れてしまう。若しかすると、表情にも何処か不自然なところが出ているかも知れない。正直、あたしはあんまり嘘が上手くない。その辺りは、悪役令嬢マリアの演技力が羨ましかったりしている。
「マリアはあの一件以来。新しいメイドと一緒に、良く鍛錬場に行くようになりましたから。そのせいで、引き締まっているのかも知れませんね。そういった事は、私は大変喜ばしく思っています。何より、あんな事が有ったばかりです。もう誘拐に会うようなことの無いように為ましょうね」
奥様の笑顔が怖い。口元は笑っているのだけれど。目元は全然笑っていない。本当に、美人のこう言う顔はとても怖い物だと、あたしは心の底から思ってしまう。
「そう言えば、誘拐事件以降。暫くは、部屋に閉じこもっていたと聞きました。誘拐事件の心の傷は、克服したのですか」
「そうですね。この子は、今では自分の身は自分で守ると言って、弓を習い始めて、馬にも乗れるようになったのですよ」
因みに、この奥様の言葉は嘘だ。マリアの奴は、至近ようやくあたしについて、軽いジョギングをする程度しか遣っていない。弓の訓練も、始めてはいるけれど。この間、弓の弦で腕を弾いて以来、未だに矢を撃てるようには成っていない。
彼女の目的が、あたしのおっぱいの膨らみが、羨ましかっただけだから、このまま辞めてしまうかも知れない。
あたしとしては、出来れば彼女の体型だけでも、近づけて貰いたいとは思っているのよね。何しろ、悪役令嬢マリアはナイスボデイの美人さんだったからね。
シナリオを覆すためには、マリア・ド・デニム伯爵令嬢がデブス出も良いのかも知れないのだけれど。流石に其れは、あたしの矜持に反するから、其れは嫌だと思うのよね。
其れが悪役令嬢でも、綺麗に越したことは無いからね。あたしだって、デブスは嫌だ。




