育ちの悪いお姫様 7
さて、此れから秘密の通路へアプローチ為ようかと言うところで、扉をノックする音が響いた。そろそろ晩餐にでる用意が必要な時間だろう。
あたしとしては、別にこのままでも良い気がしているのだけど。そうも行かないのが、令嬢というお仕事らしい。確かに今着ているのは、比較的動きやすい旅行用のドレスだ。貴族の御令嬢が、晩餐にでるのには不向きかも知れない。
普段のあたしは、メイド服が殆どで、気楽な生活をしているんで、こう言った着替えは面倒で仕方が無い。
あのメイドさんが、自分の待機場所から飛出してきて、あたしに目配せをしてから、扉を開けた。こうして、部屋に着た人を迎え入れるのも。部屋付きのメイドさんのお仕事だ。
はたして、ノックをしてきた人は、侍女さんの一人だ。
「大変遅くなって申し訳ありません。御嬢様、此れより、晩餐のお支度を致しましょう」
と、軽くコーツイをしながら、彼女が言った。見た目は他のメイドさんと違わないけれど、メイド服の秘密のポケットが少し、膨らんでいる。間違いなく懐剣を偲ばせているに違いない。
何より此所は、御屋敷と呼んでいるけれど、実質お城の出城の意味合いが在る場所だ。当然のことながら、此所に勤める女も戦いに巻き込まれる可能性を持っている。最悪の時には、彼の懐剣が自分の命を終わらせる物に成る。
メイドは一般庶民なんで、その辺りの覚悟は基本的にない。勿論、戦に負けることでもあれば、メイドだって無事には済まない。それでも、侍女さんのように、自分の純潔を守るために、命を捨てるような真似はしないだろうな。
愈々となれば、こう言った砦からにげる事も有るだろうし。襲ってきた敵に恭順して、色々とサービスすることで、命を拾うようなことだってする。
隣の国が、押し寄せてきたなら。そんな事為たって、どうにも成らないんだけどね。何しろ、奴らは民族浄化が目的なんだから。其れこそ悲惨以外にないのだから。
何しろ、彼の国は唯一神に導かれた、優勢民族だって言うのが建前だから。決して、他の民族の存在を許さない。隷属か死を問いながら、民族そのものを根絶やしにする。
其れが、あたしの知っている乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の、恐ろしい設定だった。遊んでいた頃には、そんなこと全く気にもならなかったけれど。何より、きらびやかな貴族の生活がメインだったしね。
そのハード過ぎる、裏設定。此れがそんなに支持されなかった理由かも知れない。ストーリ自体はとても面白かったんだけどね。背景が厳しかったけれど、その中でも健気に生きようとしている、主人公達が良かったんだよね。
餓鬼だったあたしには、攻め込んでくる連中は、魔王軍ぐらいにしか思っていなかったから。抵抗しながら、生き抜こうとしているヒロインちゃんに感情移入してたんだよね。
此れが、こっちに転生しちまってからは、他人事として考えられなくなってしまったから。彼奴らも立派な人間で、其れなりには生活しなけりゃ成らない。だから、ああやって侵略しようとしている。一人一人は普通の人達なんだ。上の命令には、逆らえないから、ああやって鬼畜にも成る。
こっちも生きていたいから、当然のように抵抗するからね。其処にはどうしようもなく殺し合いが始まってしまう。あたしは聖女様でもないから、其れはいけない事だなんて言えない。力で来るなら、それ以上の力で押し返さないと行けない。




