育ちの悪いお姫様
こう言った砦の中は、真面な神経の人間なら、あんまり済んでいたくない。実際、デニム子爵家の家族は、この砦から離れている、御屋敷に居を構えている。あくまでも、こう言う砦は戦の時に使う物らしい。
実際この建物は、堅牢に作られており。領都の御屋敷(城)と異なり、純粋に戦うための施設といえた。いわば出城という趣のある建物だった。
此れまで、こう言った砦を見るのは初めてだ。ただ、あたしの意見を言わせてもらうなら、住むのにはかなり無理のある建物だと思う。兎に角住みづらそうな建物だ。
いわば冬寒くて、なつ出鱈目に暖かい。時折、臭ってくる嫌な匂いは何だろう。この大勢の人間が、集まるところでは如何しても、こう言う匂いがつきまとう物だけれど。
たぶんあたし達は、お客様だから、この砦では無く、御屋敷の方に寝に向かうことには成ると思うのね。出来ることなら、この砦に止まりたくないな。
こう言った砦は、一杯人が死んでいるだろうし。そうなると、最悪見たくも無い物を見る羽目に成りそうだから。本当に宜しくお願いしたい物だ。
あたしは、彼のお二人と別れて、自分の控え室にあてがわれている部屋まで、昨期のメイドさんに、エスコートして貰っている。年齢はあたしより少しだけ年上で、一寸だけ赤みが差している髪を、後ろで束ねている。頬には、所々に雀斑があって、折角の美人さんなのに、その辺りが残念な感じになっていた。
あたしと同じ、この辺りの村の出だろうか。その足取りを見ていると、小さい頃から、農作業で鍛えられた娘の匂いがする。あたしのように、狩猟をして育った感じでは無い。
あたしの控え室は、この砦の二階にある、日当たりの良い部屋だ。最初案内された時は、木戸で窓が閉じられていたから、外の景色は見ることが出来なかった。
何より、到着してから、直ぐ彼のイベントに駆出されたから。彼の部屋で、景色を眺める時間なんか無かった。ただ、メイドさん達の補助を借りて、部屋でドレスに着替えただけだった。
あたしはメイドさんの後ろを、頑張ってお淑やかについて行く。正直、このメイドさんの歩く速度が遅すぎて、ウッカリすると追い越してしまいそうだ。出来ればチェンジと言いたい。何だったら、荒くれの兵隊さんの方が有難いかも知れない。その方が気楽だ。
メイドさんが、立ち止まり此方の方を見る。その右手が、あたしの憶えている控え室とは別の部屋を指していた。たぶん、彼の扉は控え室に繋がっている何て事はないだろう。此方は正直、日当たりは良くないかも知れない。
既に太陽は、山の間に沈んでいるから、関係の無いことだけど。どういう事なのだろう。
「大変申し訳ありません。御嬢様をお迎えに来る予定でありました、侍女が所用が御座いまして、私がお話しさせていただくことをお許しください」
結構低めなハスキーボイス。酒で声帯を痛めているのかも知れない。
「勿論、そんなこと構いませんわ」
あたしが、気にしないことを伝えると。彼女は良い笑顔を浮かべてくれる。こう言う良い笑顔は、あたしは好きだ。思わず頬が緩む。
「今日の処はこの御部屋が、御嬢様の寝室になります。隣の続き部屋には、居間に成っておりますので、宜しくお願いいたします。其れと、居間の先には、使用人の部屋が在ります。其処で、メイドの私が待機することに成っておりますので、御用がおありでしたら、ベルをお鳴らしください」
そう言いながら、彼女は木製の立派な扉を押し開く。扉の先には、茶色のカーテンが視界を塞いでいる。この先には、でかい天蓋付きのベットがしつらえてあるって訳だ。




