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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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ナーラダのリコの価値 2

 アリス・ド・デニム伯爵夫人は、内心の思いを込めた溜息を一つ付く。その様子を、珍しい物を見るように視線を、デニム子爵が彼女に向けている。

 担当のメイドが、少し遠慮した声音で、既に妃手手しまったティーカップを提げると、声を掛けてくる。

 別のメイドが、ノックをすると、デニム子爵の了承を聞くと、手に火種を持ったメイドが、簡易なコーツイをしながら、部屋に入ってくる。彼女の役目は、この会議室に、灯りをともすことだ。これ以上暗くなると、書類を読むことが出来なくなる。



 本来なら、暗くなった時点で、庶民なら書類を読むことを中断する。成るべくなら、灯りをともす油や蝋燭などは、根を詰めたからと言って、労力に見合った結果が得られるわけでは無いのだから。

 灯りを点けて歩く仕事を割り振られた、メイドは、内心勿体ないと思っている。庶民の彼女にとっては、このランプに使われている、家族が使う植物性の油は、高価で貴重な品物だ。書類を読むためには、かなりの灯りが必要で、一度の何個も使うのだ。

 庶民の家にある灯りは、煮炊きに使う炉から漏れ出る灯りだけの処もある。彼女の、実家も夜に成ると、小さなランプの光が頼りだったりする。其れも、安価な動物性の油を燃やしている。なにより、彼の油はとても臭いから、彼女は其れが嫌で、この奉公先に雇って貰おうと、女の武器を総動員して、此所に居る。

 よほどの幸運が無ければ、お城に雇って貰えることなんか、中々出来なかったりするのだ。

 この部屋にいる姉弟は、この邦で最も敬愛されている二人だ。その二人が深刻そうに、この時間になっても、書類を読みふけっている。何かあったのかな、そう思う物の、所詮は一介のメイド風情が、言葉を掛けるわけにも行かない。後で、侍女さんにそろそろ晩御飯の時間ですよと、言ってもらわなければならないだろうか。それとも、今忙しい執事さんにお願いしようか。

 二人が読みふけっている、何だか難しそうな書類の側に、火の着いたランプを邪魔にならないように、気を付けておく。其れと、全体を照らす為に他の照明用のランプに、火を付ける。


「其れでは失礼します」


 手に火種を持ちながら、彼女は此所に居る主達に、挨拶をする。


「ありがとう」


 お客様である、美しい奥様が今気付いたように。声を掛けていただけた。其れは一言だったけれど。彼女の頬に僅かではあるけれど、笑みがこぼれる。



「姉さん珍しいな。自分から、メイドに声を掛けるなんて」


 デニム子爵は軽く笑って、敬愛する姉に言葉を掛ける。彼の顔には、笑いが浮かんでいる。

 メイドが扉を閉めた。彼女の顔には、驚きが張り付いている。


「フフ。私だって、偶にはお礼の一つも言うわよ。お腹がすいたわね」


 アリス・ド・デニム伯爵夫人は、書類から顔を上げると、小さな溜息を付いた。いつの間にか、彼女の目の下に隈が浮き上がっている。それでも、彼女の美しさには、何の陰りも無かった。


「今は私は、一年前よりは幸せなの」


「あんな事が有ったばかりだというのに」


 デニム子爵は、アナの顔をまじまじと見詰めてしまった。其れこそ思いも掛けない、何処か可笑しな齟齬でもあるかのように感じる。何よりも大切な侍女の人路を害されて、昔の姉なら只ではおかなかっただろう。今頃、血眼になって、暗殺計画を立てた者を、探し回っていただろう。

 当然のように、暗殺者は自らの手で、膾の切り刻んでいただろう。死体すら残さないほど、苛烈な仕置きが為されるはずだ。


「そうね。若い頃の私なら、此所にこうしていないと思うわ。今頃犯人捜しに走り回っていたでしょうね」


 


 





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